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政府が原発最大限利用へ行動指針を決定 原発推進へ大転換 課題対応への道筋は?

水野 倫之  解説委員

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政府が原発推進へと政策を大きく転換させる。
脱炭素などに向けて原発を最大限活用するための行動指針がまとまり、建て替えを進め、運転期間も実質延長するなど、福島事故以来の抑制的な原子力政策を大きく変え、原発を使い続ける方針が明確に。
しかし増え続けることになる使用済み核燃料の処理など、原発の後処理の問題はほとんど先送りされたまま。

▽原子力政策転換の2本柱の内容について
▽その2本柱、それぞれどんな課題があるのか
▽先送りされた後始末の問題は
以上3点から水野倫之解説委員の解説。

原発推進への転換は先週、経済産業省の専門家会合で行動指針としてまとまった。
その柱は2つ。新たな原発の建設と、運転期間の実質的な延長。

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まず原発建設については、重大事故の際に溶け落ちる燃料を受け止めて事故拡大を防ぐ設備の設置など、安全性を高めた原発を次世代革新炉と呼んで、将来の脱炭素の牽引役と位置づける。当面、廃炉を決めた原発を、こうした次世代炉に建て替えることを目指す。
ただ廃炉には時間がかかるため、政府は同じ敷地内での建設を想定。

また現在最長60年の運転期間については、上限は維持しつつも、審査や裁判などで運転が止まった期間は原子炉の劣化は進まないとして除外し、その分60年を超えて運転できるようにする。

ただいずれの方針も一定期間後に見直すとしており、建て替えだけでなく増設や新たな場所での新設、さらに運転期間の上限撤廃にも含みを持たせている。

政府は近く開く、脱炭素に向けた実行会議で指針を正式に決定し、今後関連法の改正を目指す方針。

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日本は福島の事故を教訓に、「原発への依存度を可能な限り低減すること」を原子力政策の大原則に掲げ、原発の新設や建て替えはせず、運転期間も原則40年最長でも60年に制限してきた。
今回の方針決定はこの事故以来の原発を抑制する政策を大きく変え、原発推進へと転換したと言える。

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その理由について政府は、エネルギーを巡る情勢が一変し、脱炭素と電力の安定供給には原発の利用が不可欠と判断したからだと説明。
これは日本の電源構成。現状電力の70%以上をCO2を排出する火力発電に頼る。脱炭素電源で政府が主力と位置づける再エネ拡大が遅れ20%にとどまる中、原発を使い続けなければ、国際公約の脱炭素の実現が危ぶまれるというわけ。
加えてもともと脆弱だった電力システムに、ウクライナ危機に伴う燃料価格の高騰が重なり、日本は今、電力不足と電気代の高騰に直面しており、電力の安定供給のためにも原発は不可欠だと。

確かに原発は運転中はCO2を出さない脱炭素電源で、1基あたりの発電量も大きく、一定の供給力が確保でき、既存の原発であれば火力発電の燃料費が抑制できるというメリットも。
ただメリットばかりではない。福島の廃炉作業では燃料デブリ取り出し方法の見通しは立っていない。周辺ではいまだ帰還できない住民が多くいるなど、一旦重大事故を起こせば深刻な影響があることを忘れるわけにはいかない。
また今回の原発の建て替え、運転期間延長ともに課題を抱えているほか、事故以降積み残しの原発の後始末の問題が、今回も先送りされたまま推進方針が決められている点が問題。

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まず原発の建て替え、関係者の間では福井県の関西電力美浜原発が有力視。事故前、関電が老朽化した1号機に代わる原発を作るため地質調査を行ったことがあるから。
とはいえ実現は簡単ではない。
次世代や革新と言われれば、世界最先端というイメージもするが、実際にはすでに欧米ではその機能を取り込んだ原発が建設されている。ただ基準が厳しくなり、フィンランドでは計画より13年遅れ、またフランスでは建設費が 1兆8000億円に達するなど高コストとなっており、日本でも大手電力だけでは負担できない可能性。
政府もその点は認め、建設費や収入安定化へ支援策を検討すると。となれば電気代の値上げなど国民負担につながるわけで、その見通しも示して理解を得ることが必要。
また建設には地元の了解も得なければならず実現したとしても2030年代半ば以降になるとみられ、直近の電力不足解消につながるわけではない。

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そこで政府がより重視するのが運転期間の延長で、今ある原発をできるだけ長く使おうというわけ。
ただ現状の運転制限は、福島事故を教訓に、相対的にリスクの高い古い原発への依存を減らそうと当時の与党民主党と野党だった自民党も合意して決められたもので、40年時点で老朽化の詳しい点検を行うことに。
60年を超えて運転する場合、安全性が最大の課題だが、原子力規制委員会は30年目以降10年以内ごとに老朽化のチェックをする方針は示す。
しかしより詳しい点検をどの時点で行うのか、また設計自体が古くなることに対する規制方法がどうなるのかなど詳細はまだ示していない。
運転延長というのであれば政府として実効性ある規制方法もあわせて示して、理解を得ていかなければ。

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このようにそれぞれ課題があるのに加えて、事故以降積み残しの原発の後始末について今回も先送りされている点が問題。
原発を使い続ければ必ず増える使用済み核燃料。福島の事故でプールでの保管の危険性が明らかになったものの、全国の原発には今1万9000t分たまり、プールの80%分が埋まった状態。
これは全ての使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して使う核燃料サイクルが行き詰まっているから。かなめの青森県の再処理工場は、トラブルや審査の対応への遅れから当初計画から25年以上、完成延期を繰り返す。
また再処理で出る放射能レベルの極めて高いいわゆる核のごみの地下処分についても、めどが立たない。北海道の2つの自治体では処分場選定に向けた第一段階の調査が進んでいるものの、このうち寿都町では住民の意見の相違が目立ち、鈴木知事は核のごみは受け入れがたいとして反対を明言しており、この先の調査に進める見通しはたたない。
また全国的な関心も高まらず、ほかに手を上げようという自治体の動きもない。

今回の行動指針では、核燃料サイクルのたて直し策としてプルトニウムを一般の原発で使う発電を了解した自治体向けに新たな交付金制度を作る方針は示しているが、ほか抜本的な見直し策は示されていない。
原発推進を決める前に、まずはこうした課題解決への道筋を示していくことこそ優先して取り組まなければ。
このように様々課題があり、事故以来の政策の大転換であるにもかかわらず、今回の方針、途中で国民に意見を聞く機会が設けられることはなく、岸田総理の検討指示から3か月あまりで決められた。
ただ原発利用については事故以降、批判的な世論も多くある。政府はこうした点も踏まえ、法律を改正する前に原発の地元はもちろん、広く国民に対して意見を聞く場を設け、方針の説明と、残された課題への対応策を示していかなければ。


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