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COP27開幕 逆風の中の気候変動対策 コロナ・ウクライナの影響は?途上国支援は?

土屋 敏之  解説委員

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気候変動対策の国連の会議COP27が、6日からエジプトで始まりました。
コロナ禍からの経済活動再開で世界の二酸化炭素排出は大幅に増え、過去最多を更新したのに加え、ウクライナ侵攻に伴うエネルギー不足からCO2排出の多い石炭などへの回帰も目立つなど、気候変動対策には逆風が吹いています。
一方で今年も記録的な熱波や水害が相次ぎ、気候変動の被害に関して先進国と途上国の対立も見られる中、対策強化も待ったなしです。
難しい状況下で始まったCOP27のゆくえを考えます。

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今回のCOP27は、国連の気候変動枠組条約の27回目の締約国会議。パリ協定やかつての京都議定書もこの条約の下にあり、気候変動に関する最も重要な国際交渉の場とも言えます。
その議題は多岐に渡りますが、まず気温の上昇を産業革命前から1.5℃までに抑えるには、まだ大幅に不足する対策をどう強化するか?特に2030年までの短期間で温室効果ガス削減を強化する緊急の作業計画を策定することになっています。
また去年のCOP26でパリ協定のルールブックが完成したことを受け、その詳細な指針作りも行われます。例えば「市場メカニズム」と呼ばれる条約第6条。先進国が途上国に協力して温室効果ガスを減らした際、一部を先進国側の削減量にカウントする手続きなどが議論されます。
さらに今回、大きな焦点となっているのが、「損失と損害」の扱いです。

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「損失と損害」とは、例えば、干ばつで食糧危機に陥ったり海面上昇で国土が失われるなど、特に途上国で深刻化しつつある気候変動の悪影響を意味します。
長年、途上国はこの損失と損害を訴え、気候変動の原因の多くを生んできた先進国の責任を問うてきたのに対し、先進国は賠償などの話を懸念し避けてきた構図があります。
今回議長国のエジプトが途上国を代表する形でこの問題をクローズアップし、先進国側 も議題とすることには合意しました。
この損失と損害は、途上国への資金の支援と深く関わっています。既にこれまでの国際交渉で先進国は途上国の気候変動対策に年間1000億ドルを支援する約束をしていますが、実際はまだ800億ドル程度に留まっています。ここに損失と損害への新たな対応も含め、支援をどう拡充していくのかが大きな議題となります。

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途上国がこうした資金や支援を強く求める背景に、既に世界中で頻発している災害や異常気象があります。
今年2月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書(第6次報告書・第2作業部会)は、人間活動による気候変動が様々な損失と損害を既に各地で引き起こしていることを初めて明記しました。
これを裏付けるかのように、この夏パキスタンで国土の3分の1が水没したともされる大洪水が発生し、国際的な研究グループが、気候変動の影響で最も雨が多かった5日間の雨量が最大50%増加した可能性を指摘しました。先進国でも、日本の6月下旬からの記録的猛暑やイギリスで40℃を記録するなどヨーロッパの熱波は、気候変動で発生確率が大幅に増していたとそれぞれ報告されています。
さらにWHO(世界保健機関)などの研究グループによれば、この20年程で熱波など極端 な高温による死者が68%も増加。また、気温の上昇で蚊の生息域が広がり、マラリアやデング熱など感染症のリスクも増したとして、人命を守るために気候変動対策の強化が必要だと警鐘を鳴らしています。

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しかし、世界の現状はこうした被害を食い止めるにはほど遠いものです。
IEA(国際エネルギー機関)によれば、コロナ禍で一時的に減った世界のCO2排出量は2021年は大幅な増加に転じてコロナ前を上回り、過去最多を更新しました。
今年はウクライナ侵攻に伴う石炭などへの回帰もあり、さらにわずかながら増加する見通しです。
温室効果を直接左右する大気中のCO2濃度も過去最高を更新し続けています。

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気温の上昇を1.5℃に抑えるには、2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするだけでなく、途中の2030年までに45%も減らす必要があるとされます。ところが、現在の各国の目標のままでは逆に2030年には10.6%増加。今世紀末の気温は2.5℃も上昇します。
1.5℃に抑えられる削減ペースにするには、2030年までにおよそ200億トン、日本の年間排出量の20倍近い削減をさらに追加する必要があるとも見積もられます。
気候変動枠組条約のスティル事務局長は、「各国政府は今まさに削減目標を強化し、2030年までの今後8年で実行する必要がある」と訴えています。
容易なことではありませんが、その実行には各国首脳のリーダーシップが欠かせません。COP27にはフランスのマクロン大統領やイギリスのスナク首相ら多くの首脳が参加するほかアメリカのバイデン大統領も中間選挙後に参加予定で、世界が対策強化へと結束できるのかが問われています。

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とは言え、脱炭素とエネルギー確保の両立という難しい課題を特に2030年までという短期的なスパンでは、どう加速できるのでしょう?
例えばウクライナ侵攻後、EUの欧州委員会は2029年までに域内全ての新築住宅への太陽光パネル設置などを提言しました。日本でも東京都などが同様の条例化をめざしています。
また、風力や太陽光など再エネの拡大で発電量が天候によって変動するのをどうするのかという点から期待されるひとつが、燃やしてもCO2を出さない水素です。IEAは9月、再エネなどから作る水素を2030年までに現在の百倍以上の1億トン近くに増やす必要があると報告しました。再エネの発電量が多い時は水素を作り貯めておき、足りない時はこれを燃料として使い調整する方法が普及すれば、再エネで安定供給が可能になるとも考えられることから規模の拡大によるコストダウンなどが急がれます。
ウクライナ侵攻後、再エネ同様CO2を出さない電源として原子力の再評価とも見える動きもあります。ただし、安全性は大前提として、2030年までのスパンで現実的なのは、既存の原発の運転延長や再稼働に限られるでしょう。
そして、脱炭素化のコストをどうするのかという面で有力視されるのが、カーボンプライシング。CO2の排出に価格をつけて取り引きする排出量取引や炭素税などによって、得られた資金を脱炭素の支援に回す方法です。
ヨーロッパに加え中国や韓国など各国で導入が進んでおり、日本でも先日岸田総理が、 「成長指向型カーボンプライシングの検討」を指示しました。脱炭素化という本来の目的に実効性のある制度にできるのかが課題です。

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こうした個別の対策はこれまでCOPの場では議論されませんでしたが、去年のCOP26では初めて「石炭火力発電の段階的削減」を含むグラスゴー合意がなされました。背景には、もはや革新的な新技術の登場などを待つ時間の余裕はなく、今できることをすぐに実行する必要に迫られていることがあります。
年々排出される温室効果ガスによって、このままでは2030年代にも気温の上昇が1.5℃に達してしまうおそれがあります。激甚な災害などから安全・安心なくらしを守るためにも、新型コロナやウクライナ危機を理由に先送りすることなく気候変動対策を加速することが求められています。


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