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臨時国会開会 論戦の焦点は

権藤 敏範  解説委員

臨時国会が10月3日に召集され開会しました。岸田政権は翌10月4日で発足から1年となりますが、旧統一教会の問題や物価高など多くの課題を抱え支持率も急落しており、今が正念場とも言えます。政府・与党が今国会にどう臨み、野党はどう向き合うのか、国会論戦の焦点を考えます。

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【旧統一教会問題】
今国会の会期は12月10日までの69日間。
大きな論点となっているのが、旧統一教会の問題です。与野党ともに教会や関連団体と接点のあった国会議員は少なくありませんが、特に焦点となっているのが自民党との関係です。

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自民党は、党所属の国会議員に教会側との関係を報告させ、これまで半数近くの180人に会合に出席したり、選挙で支援を受けたりするなどの接点があったことを明らかにしました。
野党側は、立憲民主党などが「自民党の調査は本人任せで信ぴょう性に欠ける」として追及を強める構えです。とりわけ山際経済再生担当大臣は、教会側の会合への出席が相次いで明らかになるなど関係が深いと指摘し、更迭を迫っています。
調査対象に含まれていなかった細田衆議院議長は、開会直前に教会との関係を認めるコメントを公表しましたが「不十分だ」などの指摘を受けてさらに詳しい説明を行うことにしています。
岸田総理が教会との「関係を断つ」と言うのなら過去のつながりの全容解明が前提で、徹底的な調査が必要だと考えます。

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一方、いわゆる霊感商法などの問題で、政府が設けた被害者救済のための電話相談には9月、2200件以上の相談があり、最も多いのが「多額の献金を取り戻したい」などの「金銭トラブル」だということです。
社会的に問題のある団体には解散命令も含めどう対処すべきか、被害者の救済や被害の防止をどう図っていくのか、消費者契約法の改正などを検討すべきだという指摘は与野党から出ています。国会での議論を急ぐべきです。

【安倍元総理の「国葬」】
9月27日に行われた安倍元総理の「国葬」への評価は今も分かれたままで国民の分断を招いたとの指摘もあります。今国会でも論点となりそうです。

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「国葬」の会場となった日本武道館には国内外からおよそ4200人が参列し、会場近くの献花台にも多くの人が訪れました。一方で、「国葬」に反対する集会やデモ行進も各地で行われました。岸田総理は「国葬」の検証を行う考えで、まずは有識者から意見を聞いて論点を整理することにしています。
そもそも「国葬」そのものが国民全体に事実上の弔意を強制するものではないかという反対意見も根強く、政府は国民一人一人に喪に服することを求めるものではないと説明してきました。また、与野党双方から出ているのが「国葬」の明確な基準が必要だという意見です。ただ、何を基準とすればいいのか、在任期間か実績か、その具体化には困難も予想されます。
さらに国会に諮らずに決めた決定プロセスにも批判が出ています。国会がどう関わるべきか、承認する形にするのか、「国葬」の根拠となる法律を制定するのか。日本維新の会は「国葬」の手続きを定める法案を国会に提出しました。ほかにも経費の妥当性など論点を洗い出し、国民の理解が得られるような建設的な議論が求められます。

【経済対策】
ウクライナ危機や急激な円安で食料やエネルギーなどの物価高は先が見通せず国民の不安や不満は高まっています。私たちの生活に直結するこの問題は国会でも重要な論点の1つです。

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政府は、9月に住民税の非課税世帯を対象に1世帯あたり5万円を給付する支援策を決めたばかりですが、岸田総理は所信表明演説で「間を空けることなく、10月中に新たな総合経済対策をとりまとめる」と表明しました。その裏付けとなる今年度の第2次補正予算案を国会に提出して着実に成立を図りたい考えです。
経済対策の柱の1つとなるのが電気料金の値上げの緩和策です。来年の春以降に2割から3割の値上げの可能性が指摘されており家計や企業の負担を和らげる狙いがあります。ただ消費者が契約する電力小売り会社は700社ほどあり料金プランも様々です。また昨年度の国内の電力販売額はおよそ14兆円で、仮に1割の補助でも1兆4千億円が必要になります。具体策はこれからですが制度設計は簡単ではなさそうです。

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一方、訪日外国人による消費を増やそうと岸田総理が大きく舵を切ったのが水際対策です。10月11日から入国者数の上限を撤廃し、自由な個人旅行を認めることで、年間で5兆円以上を目指します。ただ水際対策の緩和にはコロナの感染拡大という懸念が残り、その備えも必要になります。
経済対策は国民へのアピールにもなることから様々な意見や要望があり、与党からは昨年度編成した30兆円余りの補正予算を上回る規模を求める声が出ています。一方、野党からは現金給付の対象や規模の拡大や減税を求める意見も出ており、国会ではこうした点も論点となりそうです。

【政府提出法案】

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さて、政府・与党が今国会に提出する法案は18本程度になる見通しです。審議が滞ることを懸念して法案を絞り込んだという見方もあります。
このうち公職選挙法の改正案は、いわゆる一票の格差を是正するため衆議院の小選挙区を「10増10減」するなど過去最多の25都道府県の140選挙区で区割りを変更するものです。自民党では地方を中心に選挙区が減り区割りが変わる議員から「地方の声が届かなくなる」などと批判が噴出しており、今後の候補者調整という難題は与野党ともに抱えることになります。一方、人口減少が進む中で今の選挙制度で民意を的確に反映していけるのか、衆参の役割分担を含め中長期的な視点に立った議論も必要です。

【野党】
野党側はどうでしょうか。

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今国会では、これまで対立することの多かった第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が国会対応などに連携して臨みます。10月3日には臨時国会の召集の要求から20日以内の開会を規定した国会法の改正案を日本維新の会も加わる形で提出しました。
背景には執行部を一新した立憲民主党も新代表となった日本維新の会もともに支持率につながっていないことに加え、立憲民主党は国民民主党が与党寄りの動きを強めているとされること、日本維新の会は安倍・菅政権と比べて岸田政権とのパイプが細いことなどの事情があります。
ただ、両党は憲法改正や安全保障といった政策面での隔たりが大きく、今後の選挙協力への考え方にも温度差があるなど、不安材料は少なくありません。
両党が今回の連携をどう生かし政権から具体的な成果を引き出していくか、戦略が問われます。

【まとめ】
岸田総理は所信表明演説で「国民の厳しい声にも真摯に向き合っていく」と述べました。あえて「厳しい声」と表現したことが、政権が直面している問題の厳しさを表しているように思えます。
一方、野党側は旧統一教会の問題や物価高などを背景に岸田政権を追い込むチャンスだと捉えているでしょう。しかし、経済対策や安全保障政策の議論が具体化していくほど政策に違いがある各党がどう対応するのか問われることになります。
国会で与野党がかみ合った議論を行っているか、国民の疑問や不信に丁寧に応えているか、常に国民の厳しい目が注がれていることを最後に指摘しておきたいと思います。

(権藤 敏範 解説委員)


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