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宇宙天気警報 太陽フレアの被害を防げ

土屋 敏之  解説委員

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「宇宙の天気予報」というとSFのような夢物語と思われがちですが、いま日本をはじめ各国が真剣にこの予報や警報の整備を進めています。
「太陽フレア」と呼ばれる太陽表面の爆発現象が起きると、高いエネルギーを持つ粒子や放射線が地球に降り注ぎ、様々な被害を出すことがあるためです。そこで今、なにが求められるのかを考えます。

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アメリカのスペースX社が地球を最大4万機以上の通信衛星で囲みインターネット網を構築しようという「スターリンク」計画。先日、ロシアの侵攻でインフラが破壊されたウクライナの通信網確保のため提供され話題になりました。このスターリンク衛星、2月に49機がまとめて打ち上げられましたが、その後最大で40機も失われたと発表されました。
ちょうどこの時期太陽活動が活発化し、その影響で地球上空の大気が加熱されて膨張。衛星が受ける抵抗が増したために軌道を外れ落下したと考えられています。カリブ海のプエルトリコでは、この衛星が大気圏に落下し燃える様子ではないかと見られる映像も撮影されました。

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こうした「宇宙の天気」は他にも様々な悪影響を3段階で地球に及ぼします。
大規模な太陽フレアが発生すると、まず8分後、光の速さでX線など強い電磁波が地球に届きます。これによって無線通信や放送に障害が起き、カーナビや地図アプリでもおなじみのGPSなど測位衛星の精度が落ちるといった影響が出はじめます。
続く第二波は30分以上経ってから高エネルギーの粒子が地球周辺に到達し、人工衛星が故障するなどのリスクが生じます。また、宇宙ステーションや国際線の航空機に乗っている人たちは、通常より多い放射線を浴びることがあります。
さらに第三波は2~3日後、電気を帯びたガスなどが届きます。その結果人工衛星の軌道が影響を受けるほか、地域によっては停電が起きるおそれもあります。

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実際に1989年、大規模な太陽フレアの発生後にカナダでおよそ9時間に及ぶ大停電 が起き、600万人が影響を受けました。地球は磁石が南北を指すことで知られるように、磁場に包まれていますが、そこに太陽からの強い電磁気を浴びると地上の送電線に大きな電流が流れ、これが電力設備の故障を引き起こしたと考えられています。
これは30年以上前のことですが、現在の社会はGPSやインターネットなど人工衛星やIT機器への依存度が増しているため被害はより大きくなると見られます。
もし今、観測史上最大クラスの太陽フレアが起きると経済損失は1兆ドル以上になるとの予測もアメリカで報告されています。

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そして日本でも昨日、国の検討会で最悪のケースのシナリオ案が報告されました。
仮に百年から千年に一度生じるような宇宙天気の悪化が起きると、まず電波状態が極端に悪くなることで携帯電話や放送、警察・防災無線も断続的に使えなくなり、様々な公共サービスの維持が困難になるとされました。
また、GPSなどの測位精度が大幅に低下。今後、自動運転車やドローンの利用が広がれば衝突事故も発生し交通・物流も滞ります。さらに大気の膨張で多くの人工衛星が落下したり、送電設備の故障で広域停電が発生し、全産業に影響が出るおそれも否定できないとされました。
宇宙の天気を変えることはできませんが、太陽フレア発生後すぐに警報などが出せれば被害は抑えられると考えられ、既にアメリカやイギリスなど各国で国家戦略を作っています。
日本でも今、新たな予報・警報の仕組みを検討しています。

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実は日本では2019年から24時間体制で宇宙天気の監視を行い、各国と情報共有すると共に、予報なども出しています。東京・小金井市にある国の研究機関、情報通信研究機構で人工衛星などによる太陽観測データや電波の伝わり具合などを元に毎日専門家が予報会議を開き、24時間先までに太陽フレアがどうなりそうか?「静穏」「活発」などの予報や警報を出しているのです。
しかし課題があります。現在の予報は基本的に「太陽でこんな規模の爆発が起き、明日の太陽活動はこうなるだろう」というもので、地震・津波に例えるなら地震の規模=マグニチュードを知らせるもの、とも言われます。これに対し社会に求められるのは、例えば「東京で震度5」で「固定していない家具が倒れる」とか「最大3mの津波が来るおそれ」といった「影響」の予測です。太陽フレアの発生後、こうした社会への影響に関する予測を迅速に発信することで「どう被害を防ぐか」が問われているのです。
国の検討会では新たな警報の基準を6月にもまとめる予定で、具体的には通信・放送や測位、人工衛星などそれぞれの分野で基準を設け、「通常の状態」「注意報」「警報」といった情報を最大で数日先まで発信することが考えられています。例えばGPSなど測位では、精度が通常より大きく落ちるおそれがあれば注意報、測位ができなくなるおそれがある場合は警報、といった具合です。

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しかし、現在の技術やノウハウではこうした影響を正確に予測することはまだ困難です。そこで、通信事業者や電力会社などから実際に太陽フレアが起きた際、その規模や発生状況に応じてどんな影響・被害が出たかの情報を集め、それを今後太陽フレアが発生した際の影響予測に活用する方針です。
冒頭で紹介した人工衛星の喪失も、実は打ち上げの数日前に太陽フレアが発生しており、もし衛星への影響を正確に予報出来ていたら、打ち上げ日をずらして被害を避けられた可能性もあります。停電リスクに対しては電気設備の保守管理の人員を増やしたり、航空機の乗員の被ばくに対しては航路や飛行する高度を変える対応などが考えられます。
そして今後は、観測網の充実とコンピューターシミュレーションやAIによる予測など新たな技術の開発も求められます。さらに、効果的な影響予測には宇宙や電磁気など理科系の専門家だけでなく社会経済分野との連携も欠かせず、分野横断的な人材の育成が必要で「宇宙天気予報士」などの新たな制度を設けることも提言されています。
太陽活動はおよそ11年周期で変動しており次のピークは2025年頃で、現在は活動が強まる時期にあります。未曽有の事態は明日起きるかもしれないのです。

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現代社会は人工衛星やIT機器なしでは成り立たず、ドローンや自動運転の普及など今後もその利用は拡大します。このように高度化した社会だからこそリスクが増している「宇宙の嵐」から社会機能やくらしを守るため、対策を急がなくてはなりません。

(土屋 敏之 解説委員)

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