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進むか 中小企業の借金減免 再生の課題は

今井 純子  解説委員

日本経済の土台を支えてきた中小企業が、大きな逆風にさらされています。コロナの影響に、ロシアのウクライナ侵攻が加わり、今後、借金の返済に行き詰る企業が増えることが懸念されています。そこで、中小企業の借金について、返済の猶予や減免などに柔軟に応じ、再生を支援しようと、金融業界などが新たなガイドラインをまとめ、適用を始めました。これで、中小企業の再生は進むのでしょうか。

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【中小企業の現状】
(倒産は低水準。一方、積み上がる債務)
まず、中小企業の現状です。
▼ 表舞台では、昨年度一年間の全国の中小企業の倒産件数は5979件。一年前と比べて16%あまり減りました。1964年度以来、57年ぶりの低い水準です。
▼ ところが、舞台裏を見てみますと、今年2月の時点で、「債務が過剰」と感じている中小企業は、34.7%。借金にあえぐ企業が増えているのが現状です。

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(倒産を抑制しているのは、資金繰り支援)
コロナで売り上げが大幅に減った中、中小企業を支えてきたのは、
▼ 政府や自治体からの返さなくてもよい協力金や給付金。そして、
▼ 民間や政府系の金融機関を通じて、最長で3年間、実質無利子・無担保でおカネを借りられる、いわゆる「ゼロゼロ融資」です。中小企業の半数以上が、融資を受けたという調査もあります。
多くの中小企業は、今、ここを耐えれば、すぐに観光客や飲食の客が戻ってきて、借りたおカネを返すことができると考え、こうした支援で、経営や雇用をなんとか支えてきました。ところが、コロナの影響は長期化し、ゼロゼロ融資の額は、去年の年末時点で55兆円に膨らんでいます。無利子でも、これは借金です。今後返済が、本格化します。

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(新たな逆風)
そこに、ロシアのウクライナ侵攻で、新たな逆風が吹きつけています。仕入れコストの増加です。
▼ エネルギーや原材料、穀物などの国際価格が一気に高騰。円安も進んだことで、「ビジネスに影響がある」「先行き懸念がある」という中小企業は、90%を超えています。
▼ こうした中、まん延防止等重点措置がすべての地域で解除され、営業時間短縮への協力金などがなくなります。一方、事業の本格的な再開に向けて、仕入れなどのために新たに運転資金を借りようとしても、金融機関から、まず借金を先に返すよう求められたという声も増えています。ゼロゼロ融資を受けたあと倒産した企業の数は、今年3月に初めて30件を超えるなど、加速する兆しが見えていて、このままでは、倒産に追い込まれる中小企業が急増する懸念が指摘されています。そうなれば、地域の衰退、そして、日本経済全体の停滞につながりかねません。

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【中小企業の事業再生ガイドライン】
(15日から適用開始)
こうした懸念を受け、金融業界や中小企業の団体、それに、弁護士の代表などが集まり、「事業再生ガイドライン」という、新たな支援の枠組みをつくりました。
この中では、倒産などの法的な整理とは違い、中小企業と金融機関の話し合いで、返済の猶予、さらに、借金の減額や支払いの免除に柔軟に応じる手続きが盛り込まれており、15日から適用が始まりました。これまでも、大企業を想定した、こうしたガイドラインはありましたが、中小企業向けに要件を緩和することで、利用しやすくし、機動的に再生を後押ししようという狙いです。

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(ガイドラインの仕組み)
その中身です。対象は、
▼ 売り上げが減ったり、過剰な借金を抱えたりして、自力では再生が難しいという中小企業です。そして、特徴は大きく2点。
▼ 1点目は、専門家の支援を受けられるという点です。
企業が、借金の減免などを受けるには、「事業再生計画」をつくり、おカネを借りているすべての金融機関から、同意を得る必要があります。その計画をつくる際に、弁護士や公認会計士、経営コンサルタントなどの専門家の支援を受けることができます。加えて、中立・公正・公平な立場から、専門家が、計画の実現性=再生の可能性について評価してくれることで、金融機関側が同意しやすい環境をつくる。そのような仕組みも盛り込まれています。専門家に支払う費用の一部は国が補助します。
▼ 2点目は、支援を受ける際の要件の緩和です。例えば、経営責任の取り方について、大企業には求められていたトップの退任ではなく、報酬の減額などでも認められますし、債務超過を解消するまでの期限も、大企業の3年から、5年に延ばし、事業の再生により長い期間を充てられるようになる。など、中小企業が利用しやすい内容になっています。

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(ガイドラインのメリット)
コロナの影響で一時的に売り上げが減って、危機に直面している企業が、このガイドラインを利用して、借金の重荷を減らすことができれば、企業にとっては、倒産などの場合と違って
▼ 取引先に迷惑がかかりませんし
▼ 雇用を守ることもできます。
▼ 公表されないため、信用力が低下するリスクも少なくてすみます。
▼ 新たな融資も受けやすくなり、再生の可能性が高まります。
一方、金融機関にとっても、連鎖倒産などを防ぎ、地域の活性化につながれば、貸し出しが増えるというメリットも期待できます。

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【中小企業再生の課題は】
(再生に向けた計画をつくれるか)
ただ、これで中小企業の再生が進むのか、というと、課題もあります。というのも、このガイドライン。金融機関が計画に同意しない場合は、合理的な理由が必要になるなど、利用を促す仕組みが盛り込まれてはいますが、法的な拘束力はないからです。金融機関の同意を得るには、「これなら事業の再生につながる」と納得してもらえる計画をつくれるのかという点が最大の課題になります。
▼ ところが、過剰な債務を抱えている中小企業の現状を見ると、およそ40%が「コロナの前から過剰感があった」。そして、およそ70%が、「経済が平時に戻るまで、事業は大きく変えない」と答えています。
▼ 一方、企業を取り巻く環境は、テレワークやオンライン会議が定着する一方、大人数の飲み会や外国人観光客が元に戻るメドがたたないなど、大きく変化しています。事業を変えないというのでは、借金を整理できたとしても、再び経営が行き詰まる恐れがでてきます。

(コストを減らし、売り上げをどう増やすか)
金融機関の同意を得るには、例えば
▼ 手軽に利用できるクラウドサービスを利用して、経理や勤務管理などの事務作業のコストを減らす。一方、
▼ 旅館にテレワーク専用の部屋を設置して、ワーケーションの客を取り込むなど、生活様式の変化を見据えて売り上げを伸ばす新たな事業に取り組む。
▼ その新たな取り組みのため、経営者自らの学び直しも含め、人材教育に力を入れる。
といったように、事業を抜本的に見直す必要があります。
そのためには、
▼ まず、経営者自らが覚悟を決め、行き詰まる前に早めに金融機関に相談することが欠かせません。
▼ そして、再生計画づくりを支援する専門家も、いかに、デジタル化や新たな事業のアイディアを提示できるのか。めきき力が問われることになります。
▼ その上で、金融機関は、目先の損得だけでなく、地域経済への影響を含め、広く、そして、長期的な視点で、メリットを考え、返済猶予にとどまらず、企業の重荷を減らす「返済の減免」にも前向きに対応することが求められます。

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【まとめ】
日本の中小企業は、企業全体の99.7%、働く人のおよそ70%を占めています。技術力の高い企業、地域にねざしたサービスを提供している企業も多く、日本経済、地域経済を支えている存在です。この機会に、中小企業が今度こそ稼ぐ力をつけ、働く人の生活の底上げ、そして、地域の活性化にもつながるよう、官民をあげて取り組んでほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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