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東北新幹線 脱線 問われる地震対策

中村 幸司  解説委員

2022年3月16日、東北地方で震度6強を観測した地震で、東北新幹線が脱線しました。JR東日本は、東北新幹線の復旧について、4月14日に全線の運転を再開すると発表しました。一方で、脱線や高架橋などの被害は、深刻なものであることがわかってきました。新幹線の地震対策の課題を、あらためて関係者に突きつけています。
今回は、東北新幹線の被害を読み取りながら、新幹線の地震対策に求められることを考えます。

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今回の地震被害の何が深刻なのか。
▽ひとつは、車両が大きくレールからはずれた=つまり「逸脱」したこと、
▽もう一つは、安全な走行の要ともいえるレールが大きく変形したことです。

まず、車両がレールから逸脱したことについて、みてみます。

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上の図、左の写真は脱線した先頭車両です。線路から大きく横にズレています。東北新幹線には、「逸脱防止ガイド」という金属が、すべての車輪の横に取り付けられています。脱線したとき、このガイドがレールに引っかかることで、車両が脱線後も線路に沿って走れるようにするものです。JR東日本は、このガイドによって「車両の転覆や高架橋からの落下などを防ぐ」としています。
脱線した17両編成の列車には、横から見て68の車輪があります。このうち、図の車輪が赤色の60が脱線しました。60のうち、50はガイドがレールに引っかかりましたが、残りの10(図のオレンジの車輪)のところは、ガイドが引っ掛からず、逸脱しました。

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特に深刻にとらえる必要があるのが、先頭車両の先頭の台車のガイドが引っかからなかったことです。
なぜ先頭台車が重要なのか。
JR東日本は、2004年の新潟県中越地震のとき、上越新幹線が脱線したにもかかわらず、1人のけが人も出さなかった経験から、逸脱防止ガイドを開発しました。

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上の図の左上の写真は、中越地震で脱線した新幹線です。線路から大きくはずれ、傾いていますが、これは最後尾=後ろの車両です。先頭車両はその下の写真です。脱線していますが、大きくズレていません。中越地震の当時、逸脱防止ガイドはありません。車輪の横に取り付けられていた図中(図の右下)緑の下向きに出っ張っている部分がレールに引っかかり、車両がレールに沿って走行し、大きく逸脱せずに止まりました。この出っ張りは、地震対策とは関係ない理由で取り付けられていたものでしたが、意図せず、いわば偶然、レールに引っかかりました。
鉄道関係者によると、特に、先頭車両の先頭の台車が引っ掛かったため、10両の編成全体が先頭台車に誘導されるようにレールに沿って進み、大きな被害にならなかったと考えられています。

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しかし、今回の地震で、先頭の台車の逸脱防止ガイドは、レールに引っかかりませんでした。線路からおよそ60センチずれ、大きく逸脱しました。
今回、大きな被害にならなかったのは、脱線したとき、列車がほぼ停止状態だったためではないかと指摘されています。

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脱線した「やまびこ223号」は、次の白石蔵王駅に停車するため、減速していました。午後11時34分、時速150キロくらいのときに1回目の地震があり、この揺れを沿線に設置してある地震計が検知して非常ブレーキがかかりました。その2分後、列車がほぼ停止した午後11時36分ころ、さらに規模の大きい2回目の地震が発生し、脱線したとみられています。
列車には、乗客と乗務員あわせて80人が乗っていて、5人が打撲などのけがをしたということですが、現場付近は、最高速度、時速320キロで走行できる区間です。地震のタイミングなど状況が異なれば、停止する前に脱線し、さらに大きな逸脱、被害につながった恐れがあります。

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脱線や逸脱したメカニズムについては、今後の調査を待たなければなりませんが、逸脱防止ガイドが機能しないケースがあることを想定して、さらに、高いレベルに対策を引き上げる必要があります。

もう一つの深刻な被害が、レールの変形です。

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上の図の写真をみると、レールが大きく曲がっているのが分かります。レールが、本来の位置より、20センチから30センチ下がったということです。地震の時、ここを走行した列車はなく、車両への直接の被害はありませんでした。
なぜ、レールがこれほど変形したのか。この現場の真下の高架橋が下の図です。

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右側の柱の根元が大きく壊れているのが分かります。左側の柱の根元も壊れています。鉄筋とともに内部のコンクリートも崩れて、柱ごと高架橋が下がり、レールが変形したものとみられています。

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新幹線の高架橋は、1995年の阪神・淡路大震災で大きく崩壊しました。これを教訓に、「柱は壊さない」という考え方で、いわゆる「耐震補強」が進められてきました。JR東日本は、「せん断破壊」という写真のような大きな壊れ方をするおそれのある柱は、すべて補強したとしています。
現場の写真をよくみると、梁(はり)より上の柱がやや太くなっています。これは補強をしたためです。しかし、梁より下は、補強されていません。地震で損傷することはあっても、大きく壊れることはないと判断されたためです。今後、梁より下も補強する予定はありましたが、後回しになっていました。
27年前の震災を教訓にした柱の補強対策が、まだ終わっていないのです。

柱の補強はどの程度、進んでいるのでしょうか。

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東北新幹線の東京・盛岡間と上越新幹線をあわせて、耐震補強の対象となっている柱は、5万5000本あります。JR東日本は、3分の2の補強を済ませていますが、1万8000本余りが残っています。一方、東海道新幹線は、ほぼ補強が完了。山陽新幹線は、98%が補強を終えています。
東北・上越新幹線は補強の対象が多くありますが、まずは、計画している耐震補強を1日でも早く完了することが求められます。さらに言うと、耐震性があるとして補強の対象としていない柱についても、大きな揺れで、高架橋上のレールが変形するような壊れ方をしないかどうか、あらためて確認することが必要だと思います。

こうした被害が、新幹線の地震対策の全体で、どう位置づけられるのかみてみます。
新幹線の地震対策は、大きく3つあります。

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ひとつが、「早期地震検知システム」です。地震の揺れをいち早くつかんで、新幹線にブレーキをかけ、止めます。2つ目が、高架橋などの耐震性を高めて、安全な走行を確保すること。3つ目が、脱線に対する対策です。

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今回の地震では、大きな揺れの2分前の地震で検知システムが作動し、停止させることができましたが、高架橋の損傷でレールが変形し、逸脱防止ガイドが重要な先頭の台車で機能しませんでした。つまり、指摘した2つの深刻な被害は、新幹線の地震対策の根幹にかかわる重大なものであることが分かります。
その被害をみると、いま突きつけられているのは、対策をこれまで以上に加速させ、あわせて、対策がより確実に機能する方法を考えていかなければならないということだと思います。

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新幹線は、きょうも1編成あたり数百人、あるいは1000人の人を乗せて、高速走行しています。重い責任があります。
深刻な被害をどう受け止めて、新幹線の地震対策を高めていくのか。鉄道関係者には、いま、そのことが問われています。

(中村 幸司 解説委員)

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