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子宮頸がんワクチン積極勧奨 納得して接種を

牛田 正史  解説委員

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年間で3000人近くの女性が死亡する「子宮頸がん」。
その予防に向けたワクチンの積極勧奨、つまり国や自治体が接種を積極的に呼びかけていく取り組みが、4月から始まります。
このワクチンは9年前、接種後に痛みなどの症状を訴える人が相次ぎ、不安が広がったため、国が呼びかけを中止した過去があります。混乱を繰り返さないために、何が必要なのかを考えます。

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子宮頸がんは女性の子宮頸部、つまり「子宮の入り口」にできる「がん」です。
患者数は年間でおよそ1万1000人にのぼります。
20代から割合が増え、40代がピークとされています。
そして、亡くなる人は年に2900人ほどいます。

子宮頸がんの多くは「HPV=ヒトパピローマウイルス」に感染することで発症します。
このウイルスの感染を防ぐのが「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)」です。
つまりワクチンを打ってウイルスの感染を防ぐことで、がんを予防するというものです。
ウイルスは一般的に性行為によって感染するため、この経験前に接種することが望ましいとされ、小学6年生から高校1年生の女性は、公費で接種が受けられます。

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このワクチンの接種を、国や自治体が積極的に呼び掛けていくのが「積極勧奨」です。
4月から始まります。
実は9年前にも一度、この積極勧奨が行われていました。
しかし、接種後に体の痛みなどを訴える女性が相次ぎ、不安が広がったため、わずか2か月で中止されました。
これによって、接種者は大幅に減少。
それまで70%以上あった接種率は1%以下まで低下しました。
また接種を受けた一部の人たちが副反応の被害を訴え、国や製薬会社を相手に損害賠償を求める集団訴訟も起こされました。

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国は積極的な呼びかけを中止した後、専門家の会議などで議論を重ねてきました。
そして国内や海外の調査などを分析した結果、「安全性について特段の懸念が認められないこと」、さらに「ワクチンの有効性が副反応のリスクを大きく上回る」ことなどを理由に、去年、再開を決定しました。
一部では再開に反対する声もあがっていますが、メリットの大きさなどに加えて接種者が激減する今の状況をいつまでも続けるわけにはいかないという考えも大きかったのではないかと思います。

ではこれによって具体的に何が変わるのか?
最も大きいのは、自治体が「はがき」や「予診票」などを、各家庭に直接送って接種を呼び掛ける点です。
この積極勧奨は、ワクチンを打つべきかどうか分からないという人にとっては、大きな判断材料の1つになると思います。接種者が今後、増えていくことも予想されます。

だからこそ、積極勧奨の再開後は、必要な対策も同時に行っていかなければなりません。
まず挙げたいのは、ワクチンのメリットとリスクの両面を対象者にきちんと伝えていくという点です。つまり「情報提供」です。

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例えば厚生労働省によりますと、1万人がワクチンを接種した場合、ワクチンを打たなければ子宮頸がんになっていた約70人が、がんにならずに済むと試算されています。
一方で、1万人のうち約10人は、接種後に何らかの症状が報告され、このうち、約6人は入院など、重篤な症状と判断されています。
ワクチンにはこうしたリスクがあることも伝えた上で、病気を予防する大切さ、そして副反応に対する医療体制の整備などを説明し、理解を求めていく必要があります。
ワクチンは決して強制ではなく、本人が納得して受けることが重要です。
そのためには国や自治体などの情報提供が欠かせません。予診票や案内状を各家庭に送るだけでなく、学校の現場でも、子宮頸がんという病気や、ワクチンに関する情報を、伝えていく検討をしてもらいたいと思います。

そして、もう1つの重要なポイントとして挙げたいのは、接種後に何らかの症状が出た人に対する医療体制です。

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前回・9年前は、原因の分からない副反応を訴えた人が、様々な医師に「たらい回し」される事態が一部で起き、不安がさらに拡大したという指摘があります。対処が難しいケースを誰がフォローしていくのか、仕組みが十分整備されていたとは言えませんでした。
これを教訓に、国は新たな体制を作りました。

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原因が特定できず症状が悪化するなどして、接種した医師では対処できないケースが起きた場合、「協力医療機関」が対応に当たることになりました。
都道府県に1か所以上設けられ、より知識のある医師が対応します。
さらに、この協力医療機関などを支援する「拠点病院」も、全国7つのブロックごとに設けられます。
これらによって国は、「たらい回し」を防ぐ体制を整えたとしています。
ただ注意しなければならない点もあります。
これまで接種者が大幅に減ったことで、副反応に対応した経験のある医師が少ないという点です。協力医療機関ですら、昨年度に新規で受診した人が1人もいなかったところが、8割以上を占めています。

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このため地域の中で、診療のノウハウ、あるいは実際に起きた副反応の症例などを、速やかに共有し、対応の仕方を確認していくことが不可欠です。
医療機関同士の連携を一層、強化し、放置される人を絶対に出してはなりません。

さらに、この子宮頸がんワクチンをめぐっては、これまでに、積極勧奨の中止で接種を見送った人へのフォローも、今後の重要な対策となります。

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平成12年度以降に生まれた女性は、接種率が大きく低下しています。
国はこの接種を見送った人も、改めてワクチンを打つ機会を設けることにしました。
平成9年度から17年度までに生まれた女性は、3年間、公費で接種が受けられるようになります。
ただ、子宮頸がんワクチンは、ウイルスに感染する前に接種する必要があります。自治体はこちらも1人1人に対し、速やかに接種の検討を呼び掛けていく必要があります。

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そしてもう1つ注目したいのは、新しいワクチンへの対応です。
現在、公費によって無料で接種できるのは「2価ワクチン(サーバリックス)」と「4価ワクチン(ガーダシル)」の2つです。2価とはヒトパピローマウイルスの中にいくつもある型のうち、最もがんに強く関与する2つの型の感染を防ぐ、そして4価は、さらに2つの型を加えて、あわせて4つの型の感染を防ぐものです。
国はこれらのワクチンでも効果は大きいとしていますが、それ以外に「9価ワクチン(シルガード9)」が出てきています。
文字通り、9つの型の感染を防ぐ効果があるとされていますが、公費では接種できず、もし打つ場合は、10万円近い費用を自己負担しなければなりません。
このワクチンは現在、公費接種の対象に含めるかどうか検討されていますが、「その結果を待ってからワクチンを打ちたい」という人たちも、いるものと見られます。
ただし、最も重要なのは、ウイルスに感染する前にワクチンを打つことです。結果を待ちすぎて、適切なタイミングを逃すことは避けてもらいたいと思います。
一方で国も、いつごろに議論がまとまる可能性があるのかなど、この先の見通しを出来るだけ早く示してもらいたいと思います。

今回の積極勧奨の再開で、子宮頸がんの予防対策は大きな転換点を迎えます。
しかし重要なのはこれからの対応です。
今度こそ、希望する人が安心してワクチンを接種できる状況にしなければなりません。
国や自治体、そして医療現場が連携し、必要な情報の提供、そして副反応への対応などに一丸となって取り組んでもらいたいと思います。

(牛田 正史 解説委員)

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