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ウクライナ侵攻1か月 停戦は実現できるか

安間 英夫  解説委員

【はじめに】
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから1か月がたちました。
ロシア軍による攻撃が続き、民間人の犠牲者、避難する人たちが増える一方で、長期化する戦闘を止めることが最大の課題となっています。
停戦は実現できるのか、考えていきたいと思います。

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【戦況は・・・】
まず、ここまでの戦況についてです。
アメリカのシンクタンクが軍事侵攻から1か月を前にまとめた見方によりますと、まず、ロシア軍の初期の作戦は失敗したといいます。この作戦は①ウクライナの首都と主要都市を掌握、②政権交代の実現というものでしたが、これらは実現できなかったとしています。
また戦闘はこのあと数週間から数か月続く可能性があり、流血が続くこう着状態の局面に陥る。
さらに、ロシア軍は、ウクライナ側の戦闘継続の意志をくじくために、ウクライナ市民、民間施設への攻撃を拡大するというものです。

こうした見方は、ロシア側とは大きく食い違っています。
ロシアのプーチン大統領は今月18日、ウクライナ南部のクリミアを併合したときから8年になるのにあわせてモスクワで行われた大規模な集会に出席し、このなかで、「人々を苦しみやジェノサイド(大量虐殺)から解放することが軍事作戦の目的だ」と述べました。人々を苦しみから解放するというプーチン大統領の発言、集会に参加した10万人と言われる人たちの熱狂ぶりは、動員されたにしても、内外、特に世界の大半の人たちにとって強い違和感を持つものと言えるでしょう。
・世界とロシア国内の認識がかけ離れていることを示しています。

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【ロシア軍 初期の作戦 なぜ“失敗”】
 ではなぜロシア軍は、初期の作戦で“失敗”したのでしょうか。
 結論から言いますと、プーチン政権は結局、2014年のクリミアの併合のときの経験をもとに、ウクライナ側の抵抗を甘く見ていたのではないでしょうか。
 各国政府や専門家からは、プーチン大統領の掲げた軍事侵攻の目的が理解しづらいものであったこと、このため、ロシア軍の士気が高くないこと、また、制空権を完全に掌握できていないこと、補給線が伸び、兵たんが、十分行き渡っていないこと、さらに各地で戦力の場当たり的な投入が行われていることなどが指摘されています。

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【ウクライナ側の戦い方】
 これに対しウクライナ側は.侵略から国を守るため、背水の陣で臨んでいます。
 ゼレンスキー大統領は、コメディアン、俳優の出身でしたが、有事のリーダーとして国民をまとめています。就任から2年たった去年は、支持率は30%台から40%台と低迷していたが、先月、ロシアの軍事侵攻が始まると、国民の先頭に立ち、91%へと急上昇しています。 これは戦時において首都キエフに残り、持ち前のコミュニケーション能力を生かし、SNSなどを活用し国民に直接呼びかける姿勢が評価されたためだです。
 国民の士気だけでなく、ウクライナは、8年前のクリミア併合後、欧米と協力を深め軍の態勢を強化。欧米などから武器や装備の支援を受けたほか、各国政府・企業の支援でITやSNSを使った情報戦も活発に展開してきました。
 また、ゼレンスキー大統領は、欧米や日本の各国の議会で積極的に演説を行い、それぞれの国民の心に響く言葉で語りかけ、支持を取り付けようとしてきました。
 日本の国会での演説でもゼレンスキー大統領は、今回の事態で国連など国際機関が機能しなかったことに触れ、「どんな侵略行為に対しても予防的に機能する新たな安全保障体制が必要だ。そのために日本のリーダーシップが不可欠だ」と述べました。日本から軍事的な支援を受けることが難しいことを念頭においたものと言え、新たな安全保障体制をつくる必要性と、日本の役割に期待する考えを示しました。
 ただゼレンスキー大統領がアメリカをはじめNATO=北大西洋条約機構諸国に訴えたのは、飛行禁止区域の設置や戦闘機の供与です。この要請に対して、アメリカやNATO諸国は応じていません。それは、飛行禁止区域の設置というのは、戦闘機をウクライナ領空に派遣し、ウクライナ側にたって参戦、ロシアと戦うことになり、第3次世界大戦の引き金となってしまうことを危惧しているためです。このためNATO諸国は、部隊や戦闘機などの派遣はせず、武器や装備を支援するという一線にとどまり、戦争に直接介入しないよう、慎重にウクライナへの支援を見極めているのが現状です。
 そこで事態をエスカレートさせないよう、停戦に向けた交渉で外交的な解決をはかることがますます重要になってきます。

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【困難なロシアとの交渉】
 ここからはウクライナとロシアの停戦に向けた交渉の見通しと課題を考えます。
 双方は4回にわたって交渉を行い、今月14日からはオンラインで交渉が行われています。このなかでウクライナ側は戦闘の停止とロシア軍の即時撤退を求めています。これに対しロシア側は、ウクライナの「中立化」や「非軍事化」を引き続き要求しています。「中立化」というのはNATOに加盟しないことを法的に保証すること、「非軍事化」というのは、軍は維持するものの、ロシアにとって脅威となることを認めないことを意味するとみられます。
 これについて、ウクライナ側はこれまで目指してきたNATO加盟については、「今は現実的でない」などとして、必ずしもこだわらない姿勢も示しています。ただ、ウクライナ側は、NATO加盟に代わり、アメリカやイギリスなど主要国や、近隣のトルコと新たに協定を結び集団的な安全保障の枠組みで自国を防衛する仕組みを要求しているとみられています。
 さらにロシア側は、ロシア語教育やロシアの文化などに関する制限を撤廃すること、8年前一方的に行ったクリミアの併合や、ウクライナ東部の2つの地域の独立を承認することを求めています。こちらは領土と主権の問題であり、ウクライナには容易に承服できない問題です。

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【今後の交渉の課題は】
 交渉のカギとなってくるのは、プーチン大統領にとっても国内向けにロシアなりの勝利を主張できるものが得られるかどうか、かつ、ゼレンスキー大統領にとって降伏したかたちにならないことです。
 プーチン大統領は、強気の姿勢を見せながらも、初期の作戦が“失敗”に終わったことで、現実問題として、どのように作戦を進めるのか判断を迫られている状況です。戦闘が長期化するなかで、ロシア軍にとって自ら始めた戦争が重荷になっていることは隠しきれなくなっています。
 その一方、アメリカのバイデン大統領が指摘するように、プーチン大統領は、追い詰められれば、化学兵器や生物兵器を使う恐れもあります。さらに戦術核を使う可能性も完全に排除することはできません。
 複雑な対立点がありながらも、これ以上の流血の事態、人道的危機を回避する観点から、まずは武器を置いて戦闘を止めることを最優先にした協議を行うことが重要ではないでしょうか。

【終わりに】
 ウクライナ情勢をめぐっては、日本も含めたG7の首脳会議、NATO・EUの首脳会議、アメリカのバイデン大統領のポーランド訪問が相次いで行われます。
 欧米や日本など国際社会は、ひきつづきウクライナに対する支援、ロシアへの経済制裁を続けることで、ウクライナがロシアに外交で勝つという努力を支えていくことが必要です。
 一刻も早い停戦を願わずにいられません。

(安間 英夫 解説委員)

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