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まん延防止等重点措置解除で見直されたコロナ対策

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染対策で、私たちは一つの節目に立っていると思います。第6波はピークを越えましたが、一方で、感染の再拡大に注意が必要です。
政府は、2022年3月、まん延防止等重点措置の解除とともに、新型コロナ対策の基本的な方針を見直しました。見直しでは、濃厚接触者の考え方などが変更されています。

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解説のポイントです。
▽政府が見直した感染対策の基本的な方針を見た上で、
▽その方針を実現するための課題と、
▽見直された方針が意味することを考えます。

まず、政府が示した基本的な方針です。オミクロン株の特徴や、第6波での経験から、これまでの対策の一部を見直しました。
大きく変わったのが、「濃厚接触者」のとらえ方です。

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会社など事業所で、感染者が確認されたとき、これまでは保健所などが濃厚接触者を特定していましたが、今後は、一律に濃厚接触者とする必要はないとしています。
同居している家族の場合、感染を防ぐのは難しいため、従来と同じ様に濃厚接触者となります。ただ、待機期間は、これまで原則7日間でしたが、検査キットで2日にわたって2回の陰性が確認されれば、5日目から待機を解除できるとしています。

さらに、薬などの確保を積極的に行うとしています。

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新型コロナの治療に使う飲み薬や点滴の薬を300万回分追加で確保するほか、比較的短時間で結果がわかる「抗原検査キット」、これは第6波で不足していましたが、今後追加して、およそ3億5000万回分確保する。ワクチンの4回目接種の必要性については専門家の検討などが必要になりますが、すでに用意している3回目接種の分のほかに、4回目接種用として、ファイザー社とモデルナ社から、合わせて1億4500万回分を購入する計画です。

これらは、第6波の経験を踏まえたものです。

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会社などの濃厚接触者の見直しは、事業の継続を極力できるようにするというものです。一律にしないことで、保健所の負担軽減にもつながります。家庭内も待機期間が短縮できれば子育て世代の親などが職場に復帰しやすくなります。また、4回目用のワクチンは、海外に比べて接種が遅れたと指摘された3回目接種の二の舞にならないよう「先手」をうったかたちです。

こうした基本的な方針の見直しを、どう考えればいいのか。2つの点から課題などをみてみたいと思います。
ひとつは、高齢者などを守ることができるかという点です。

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第6波では、死亡した人の多くが高齢者で、基礎疾患のある人も重症化リスクが高いとされています。こうした人たちについて、いかに感染を防ぐか、感染した場合に迅速に診断し治療を始めることが重要です。第6波では、高齢者施設でクラスターが相次いで発生し、治療薬の投与が遅れたケースも少なくありませんでした。
第6波で広がったオミクロン株では、診断されてから死亡するまでの期間が短いとされています。上の図下段は、大阪府の分析です。死亡した人のうち、診断から7日以内に死亡した割合が、第4波、第5波が30%前後だったのに対して、第6波では60%を超えています。オミクロン株では、早期診断、早期治療が一層重要になっていて、命に関わるものであることがあらためてわかります。

政府の方針で打ち出されている検査キットや治療薬の確保は、素早い診断、治療につながるとみられます。ただ、そうしたいわば「モノ」の確保だけでは、状況の改善は十分ではありません。

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高齢者施設では、施設担当の医師、場合によっては感染症の専門家が支援する体制を作ることが大切とされています。施設に入って、治療はもちろん、効果的な感染対策を進めることができます。また、濃厚接触者の調査は、高齢者施設については徹底して行うとしています。たとえば、1人でも感染者が見つかったとき、すぐに関係者全員の検査を実施するなど、クラスターを作らない対策を進めます。こうした体制づくりは、第6波の以前から求められていましたが、地域や施設によっては、十分できませんでした。

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今後、国内で感染が拡大して、様々な混乱が生じても、「高齢者などを守る」という体制は変わらず優先して維持することが重要です。
高齢者施設について、体制の点検を行っている自治体もあります。第6波で、なぜリスクの高い人たちを守ることができなったのか、自治体や施設それぞれが検証し、改善していくことが求められています。

もう1点は、政府の基本的な方針について、一般の人の理解が進むかどうかです。
方針には、一般の人が自ら行う対策も書かれています。第6波のピークが過ぎても、私たちは3密の回避など、基本的な対策を続ける必要がありますが、あわせて見直された方針を理解して行動することが求められています。

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先ほどの濃厚接触者についてみてみます。会社などでは、一律、濃厚接触者としないとされましたが、状況によって対応が変わります。濃厚接触者とならなくても、感染しているおそれが一定程度ありますので、重症化しやすい人が多い高齢者施設などに行かない、大規模イベントへの参加を控えるというように、リスクを抑えた行動をとる必要があるとされています。
また、この感染者と仮に感染対策を行わずに飲食を共にした人がいたら、感染の可能性があるので、例えば5日間待機して、検査で陰性を確認するまで外出を自粛してもらうなどの対応を求めています。
家庭では、検査で2回陰性になり、待機が解除されても、7日間は体温を測るなど健康状態に注意することを求めています。またこの間、高齢者などとの接触は極力避ける必要があります。
濃厚接触者の特定など、制限につながる対策を緩和する一方で、リスクを自ら考え、判断することが、私たち一人一人に求められています。
この基本的な方針の見直しは、重点措置解除の決定にあわせて、示されました。気になるのは、いったいどれだけの人が具体的な内容を知っているかということです。政府は、国民に丁寧に、繰り返し説明することが必要です。

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また、見直された方針に移行するかどうかは、自治体に任されています。感染者が少ない自治体などでは、濃厚接触者の調査を従来通り行うところもあると思います。国とあわせて、自治体も住民に対する説明が大切になります。

基本的な方針の見直しが意味すること、それは新型コロナとの共生に向けて、歩み始めたということだと思います。

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新型コロナは、特に高齢者の致死率は依然として高く、また今後どのような変異ウイルスが現れるかも未知数です。

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コロナとの「共生」つまり、コロナを前提として経済をまわしていく社会への道のりは、まだ時間がかかるかもしれませんが、対策を理解して自ら行動する、重症化しやすい高齢者などを感染から守る、そうすることで医療提供体制や保健所の業務を改善になどにつなげることが大切です。
さらに、ワクチンの追加接種、治療薬の開発など、元の日常に少しでも近づけていくために、対策を積み重ねていかなければなりません。
政府の方針見直しの意味とその内容を国民が十分理解しなければ、この道のりも遠いものになってしまいます。
「そうならないために、どう行動するのか。」
国、自治体、そして私たちひとりひとりに、そのことが問われています。

(中村 幸司 解説委員)

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