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福島第一原発事故から11年 廃炉への困難な道のり

水野 倫之  解説委員

福島第一原発事故から11年、現場ではあらたに燃料デブリとみられる堆積物が見つかるなど前進も。しかしその取り出しは準備段階。
また処理水の放出も、関係者の理解が得られず不透明な情勢。
さらに先日の福島県沖の地震で冷却が一時止まるなど、不安定な部分も残る。
廃炉の行方は福島の復興にも大きく関わる。

▽燃料デブリへの対応と
▽処理水の対応
の2点について、政府東電が取り組むべき課題を考える。

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福島県沖の地震では、使用済み燃料の冷却が停止したり、1号機の水位が下がるなど影響。安全は確保されているというが、不安定な部分もある。
そうした現場で廃炉作業はどう行われているのか、先月現地を取材。
「事故から11年。建屋を見下ろすここ高台の放射線量は1時間当たり100μSv。一般人の年間限度に10時間で達する強さ。廃炉はいまだ入り口段階」

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事故では3基がメルトダウン、構造物を巻き込み格納容器に落ちて燃料デブリとなって残された。極めて強い放射線が出ているため、政府東電は最長40年ですべて取り出すことを、廃炉の目標に掲げる。

このデブリを巡り、先月前進が。
激しく損傷したこちらの1号機。これまでデブリが見つかっておらず、東電は先月、建屋地下の格納容器内に水中ロボットを投入。
冷却水中を進むと、原子炉の下にデコボコした黒い塊を発見。デブリの可能性が高いとみられる。

そしてすでにデブリが見つかっている3号機と、隣の2号機。
このうち2号機では、機器でつまみ上げられることが確認。
そこで東電は初のデブリ取り出しを2号機で今年中に始める計画。

それに向けてイギリスで製作したのが長さ22mの巨大なロボットアーム。
まず横に伸びて格納容器の中へ。そのあと下に4m伸びて底にあるデブリに到達。
アームの先端は器具が取り換えられる仕組みだが。すべてが遠隔操作。

東電はこれまでロボットの操作はメーカーにまかせ、自らは安全管理などの役割にとどまっていた。
しかし今回初めて社員が操作することを決め、20代30代の若手の公募を始めた。
デブリ取り出しは長期間続くことから、主体的に関わる必要があると判断したという。
最初の取り出しにあたるのは9人の社員、その訓練の様子を取材。
この日は先端にカメラを取り付ける訓練で、腕が2本ある機器を操作し、モニター映像を頼りにねじを締める。
女性社員「だめでした。もうちょい。あ、いける?回ってるのはわかってるんですけど、終わりが見えません。全然止まらない。」
ねじが空回りしていた。原因はねじとねじ穴のずれ。モニターカメラの死角で気づくことができなかった。
その後モニターカメラの位置を調整し、締め付けは完了。

トラブルを防ぐためにも本番に向けてはこうした検証が不可欠。
東電がメーカー任せにせず、ようやく前面に出てきたことは評価。

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ただ問題なのは、全部取り出すのが本当に可能なのかという点。
このアームの最初の取り出しは数グラムと想定。
しかし全体では880トン。残り29年だと単純計算でも毎日80Kg以上の取り出しが必要。
またデブリは格納容器だけでなく原子炉にも残されているが、どうやって取り出すのか、検討さえ始まっていない。
さらに取り出したデブリをどこで処分するのかという問題もあり、全量取り出しは相当困難。
事故から11年、そろそろ、取り出し作業をどこまでやり、現場をどんな状況にしていくのか、政府東電は廃炉の最終形について地元と議論を始める時期に来ている。

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そしてもう一つの大きな課題が処理水。
今も毎日150tの汚染水が発生し、こちらの施設で処理。
ただ放射性のトリチウムだけは水と一体化しているため基準以下にできず
タンクに129万トン貯められている。
政府は貯蔵は限界だとして、原発の排水基準の40分の1以下に薄めて来年春に海に放出する方針を決めた。
海底トンネルで1キロ沖合に放出する計画で、健康への影響は考えられないと。

現場の岸壁では海水で薄めたあとのトリチウム濃度を最終確認する縦穴の掘削工事も始まるなど、準備が着々と進んでいた。

これに対し地元では復興に向け放出はやむを得ないという意見の一方、漁業者らの反発が続いている。
福島沖の去年の水揚げは震災前の19%にとどまる。福島県漁連の野﨑会長は「放出に反対し続けているのに、淡々と進んでいくことが不満だ。ほかの方法を考えてほしい。」と訴える。

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その根底にあるのは政府・東電に対する不信。
政府東電は2015年に漁連に対し「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と約束したにもかかわらず、先に放出の方針を決めて外堀を埋め、放出を理解するよう求めてくるのはおかしいというわけ。

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また今年に入り、さらに不信を深めかねない政府の対応に地元は困惑。
このチラシ。復興庁が全国の中学と高校に今年1月までに配布。

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コップの水を飲む男性とともに「トリチウムは身の回りにたくさんあります」「健康への影響は心配ありません」と処理水の安全性を説明。

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しかし反対の声など、政府東電に不都合なことは一切触れられていない。
政府は「科学的根拠に基づく正しい理解をしてほしかった」と説明するが、
福島の教育委員会や中学の中には、「生徒の保護者には漁業者もいてデリケートな問題で、内容に強い違和感がある」と配布を見合わせたところも。
教育現場は多角的な視点が求められているはず。
漁業者らの反対の主張の根拠はどこにあるのかも一緒に議論するのがあるべき姿で、多様な意見を紹介する教材が必要だと思う。

不信は政府だけでなく、これまで情報を出すことに積極的でなかった東電にも。処理水を本当に公表したとおりに希釈し、低い濃度で放出が行われるのか信用できないという声も。

信頼性・透明性を確保するには希釈や濃度測定が計画通り行われているのかどうか、客観的にみえる仕組みがまずは必要。
濃度測定は東電や環境省などが場所を増やして行う計画。
これに加え政府は、IAEAや原子力研究開発機構にも依頼したり今後依頼する方針。
ただいずれも原子力推進に関わる組織。
ここは大学など中立的な研究機関にも測定を依頼して透明性を高め、さらにトリチウムの測定精度も上げて、魚にたまったトリチウムの微妙な変化も捉えられるような観測態勢を早急に構築することが求められる。

今回の福島県沖の地震でも、東電は原発の状況について地元住民など一般への情報提供ツールとしていた公式ツイッターで、午前2時半頃までほとんど発信をしなかった。
情報発信に消極的な体質が変わらない限り、信頼回復は困難。政府東電は、処理水への対応は地元の信頼回復が大前提であることをあらためて自覚し、廃炉を前に進めていかなければならない。

(水野 倫之 解説委員)

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