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ウクライナ侵攻 外交経済に激震 中国の対応は?

神子田 章博  解説委員

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻が中国を悩ませています。今年後半に開かれる共産党大会を内外とも安定した情勢で迎えたいという習近平国家主席の目論見は崩れ、外交・経済で足元をすくわれかねない難題に直面することになったからです。この問題について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです
1) 動けぬか 中国外交
2) “大事な年”に 改革より安定成長
3) 迫られる発展戦略転換の加速
 
1) 動けぬか 中国外交

まず今回のロシアによるウクライナ侵攻、中国はどのようにとらえているでしょうか。

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先週土曜日から開幕した全人代=全国人民代表大会で、李克強首相は、「国内外の情勢を総合的に判断すると、今年我が国が直面するリスクや課題は著しく増加している」と発言。ロシアが引き起こした新たな事態を念頭に、困惑した様子をうかがわせました。習主席は、先月4日のプーチン大統領との会談で、NATO・北大西洋条約機構のさらなる拡大について、「個々の国や政治・軍事同盟が一方的な軍事的優位性を追求することは、国際的な安全保障秩序を損なう」となどして反対する共同声明を発表しました。欧米が主導する国際秩序にロシアとともにNOを突き付けたのです。

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 背景には、アメリカとの対立が激しさを増していることがあります。アメリカは中国との対立を民主主義と専制主義の戦いと規定したうえで、中国の経済発展を助けることで民主的な社会に変わっていく事を後押しする、いわゆる「関与政策」を転換。日本やオーストラリア、それに欧州各国など自由と民主主義、法の支配といった価値観を共にする国々と事実上の“中国包囲網”となる連携を強化しようとしています。こうした中で中国は、以前から欧米との対立を強めていたロシアとの連携強化を通じて、アメリカと対峙する道を選択。今回の欧米各国による対ロ経済制裁についても反対を表明し、ロシア寄りの姿勢を鮮明にしたのです。

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 ところが、ロシア軍の侵攻が長引き、攻撃対象が民間のアパートや病院、さらには原子力発電所にまで広がり、大勢のウクライナ市民の犠牲者を出したことで、国際社会はロシア批判でほぼ一色に染まっています。こうした状況を念頭に中国の王毅外相は7日の記者会見で「われわれは各国の主権と領土の一体性を尊重する」とした上で、対話による解決を改めて訴え、国際世論に配慮する姿勢を示しました。ただウクライナから求められている停戦の仲裁については「必要な時に国際社会とともに行なう用意がある」と述べるにとどめ、中国単独での仲裁には消極的ともとれる姿勢を示しました。
中国では今年後半、5年に一度の共産党大会が開かれ、習国家主席は、この場で党のトップとして三期目に入ることをめざしているといわれます。このため内外の情勢を安定させた状況で党大会を迎えることが至上命題となっています。そうした中でロシアによる軍事侵攻をめぐっては、この問題で自らの足元をすくわれることのないよう、最も失点の少ない外交の道を慎重に探ってゆくものと見られます。

2) 大事な年に 改革より安定成長

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一方、今回の問題は、中国経済にも大きな打撃を与えそうです。
李克強首相は5日、今年の経済成長率の目標を5.5%程度としました。中国では厳しい行動制限を通じて感染を抑え込む「ゼロコロナ」政策や、不動産大手「恒大グループ」の経営危機に象徴される不動産市場の悪化で、個人消費や投資の伸びが鈍っていて、IMFが今年の成長率を4点8%と予測するなど、5%を超える成長は容易ではないという見方が広がっています。それにも関わらず5%台半ばという高い数字をかかげた背景には、共産党大会を前に経済の力強さを取り戻し、習主席の権力基盤を強化したいという思惑も読み取れます。
しかし、ロシアの軍事侵攻の長期化がこうした思惑を一気に突き崩すおそれがでてきました。もっとも大きな影響としては、資源大国ロシアからエネルギーや鉱物資源の各国への供給が滞り、原材料価格の高騰が景気の悪化につながることです。

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このグラフは、企業同士が原材料や製品を取引する際の価格の去年1年間の推移です。コロナ禍からの景気回復で需要が急増したことを理由に、すでに9月から4か月続けて前の年に比べて10%以上も上昇。その一方で、消費者に販売する際の価格は、1.5%程度の上昇にとどまっています。

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これは企業がコストの上昇分を価格に十分に転嫁できていないことを示しています。ロシアの軍事侵攻の影響で資源価格が一段と高騰すれば、さらなるコストの上昇を招いて企業の経営が悪化。とりわけ体力の弱い企業は賃金カットや雇用の削減に踏み切らざるを得なくなり、設備投資から個人消費にまでマイナスの影響が及ぶことになります。   

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こうした中、中国政府は5日、地方政府がインフラ投資などに充てるための債券の発行枠を日本円でおよそ66兆円と、コロナ禍からの景気回復に力を注いだ去年と同じ水準を維持するほか、小規模や零細の企業を対象に、日本円で45兆円規模の税負担を軽減する政策を打ち出しました。インフラ投資などに依存した景気のテコ入れは、中国政府が中長期的な安定成長をめざして進めてきた構造改革の動きに相反するように見えます。しかし李首相は「経済が新たな下押し圧力を受ける中、安定成長をより優先的な位置に据える必要がある」と明言、党大会を控える今年については、改革を遅らせてでも、経済の安定をはかりたいという苦しい胸の内がうかがえます。

3)迫られる発展戦略転換の加速

最後に、ロシアによる軍事侵攻という今回の事態が、中国の発展戦略に与える影響について考えてゆきたいと思います。

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 中国が高成長を続けきた2000年以降、世界ではロシアがG8主要国首脳会議に加わるなど、各国が協調しながら国際ルールをつくって貿易や投資の自由化を進めてきました。中国はそうした環境の下で、自分たちではつくることができない最先端の部品を先進国から調達して、パソコンやスマホといったハイテク製品を製造。世界各国に輸出することで急速な発展を遂げてきました。

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ところがアメリカはトランプ前政権以降、中国からの輸入品に高額の関税を一方的に課したうえ、高度な技術を必要とする部品や製品のサプライチェーン=供給網についても、中国を遮断してゆこうとしています。

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 今回の事態について中国の外交政策に影響力をもつ専門家は「世界は西側諸国と、中国・ロシアの二極化に大きく踏み出した」としたうえで、中国はロシアとの戦略的な関係を重視する立場から、ロシアの資源や穀物を大量に購入するなど経済や金融面での支援を行なうことになる、そしてこうしたロシア寄りの姿勢を示す中国に対し、欧米が新たな制裁を加える可能性を指摘しました。今後中国と西側世界の経済的なつながりが切り離される「デカップリング」が進み、中国の経済発展の前提となったグローバライゼーションの動きが逆行することも考えられます。こうした中で中国は、国内需要の一層の拡大に加え、国内完結型のサプライチェーンを強化するなど、海外に依存しない新たな発展戦略への転換の加速を迫られるという見方が広がっています。

世界が本当に分断するとなれば、中国の発展にもブレーキがかかる。習氏が秋の共産党大会で党のトップとして3期目の地位を手に入れたとしても、その先の安定にむけては容易ならざる道のりが待ち受けることになります。常日頃から国際的な義務と責任を積極的に履行すると繰り返す中国が、この難局にどのようなふるまいを見せるのか。中国が自任する「責任ある大国」としての真価が問われることになります。

(神子田 章博 解説委員)

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