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ロシアが原発を攻撃 福島・チェルノブイリを忘れるな

水野 倫之  解説委員

ウクライナでまたもあってはならない暴挙が起き、世界に緊張が走った。
ロシアがヨーロッパ最大級の原発を攻撃、占拠。さらに別の核燃料を扱う施設も攻撃。一歩間違えば周辺国も危険にさらす行為で到底許すことはできないが、今のところ原子炉が破壊されるような致命的な被害はなく、最低限の安全は確保されているとみられる。
ただ福島の事故、そして同じウクライナのチェルノブイリ原発事故を見れば、原子炉の周辺施設の破壊や運転員のミスから大事故につながることを忘れてはならない。
まず原発への攻撃を見た上で
福島とチェルノブイリから見えてくる攻撃のリスク
そしてこの事態にどう対応したら良いのか
以上3点から原発攻撃の危うさについて水野倫之解説委員の解説。

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ロシアが武力占拠したのは、ウクライナ南東部のザポリージャ原発。
国内に4か所、15基ある原発のうち6基が集中し、ウクライナの発電量の半分を占めるエネルギーの重要な拠点でヨーロッパでも最大級の原発。

IAEA・国際原子力機関やウクライナの原子力規制当局によると、4日、ロシア軍の戦車などが原発に侵入。
暗闇の中、閃光が現れて煙が立ちのぼったり、構内を多数の銃弾が飛び交う信じがたい様子。この攻撃で原子炉近くにある訓練用の施設で火災が発生。

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その後規制当局は「原発がロシア軍によって占拠された。火災は鎮火し、放射線量に変化はなく安全は保たれている」と発表、原発は職員によって管理されているとしている。

運転中の原発を攻撃するという歴史上初のあってはならない暴挙を受けて、国連安全保障理事会の緊急会合が4日、開かれ、欧米各国が「原発への攻撃は国際法に反する」と相次いで非難したのに対し、ロシアは「ウクライナの工作員が火をつけた」と主張。

なぜロシアは原発を攻撃し占拠したのか。

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プーチン大統領はウクライナに核兵器開発や、放射性物質をまきちらす汚い爆弾開発の疑いがあると主張。
ただ危機管理の専門家は、こうした主張は原発攻撃を正当化するためのもので、電力供給を掌握して社会不安を増大させる目的、そして原発の占拠で欧米へプレッシャーをかける意図があると指摘し、原発そのものの破壊までは意図していないだろうという。

確かにロシア軍は今のところ原子炉そのものへの攻撃はしていない。
制御室とされる画像を見ても、操作パネルが破壊された様子は確認できない。
また6基のうち5基は運転や発電を停止したものの、1基は発電が継続されている。
原発は運転を停止しても、核燃料が熱を出すため冷却し続けなければ安全は確保されない。そのためにはポンプで水を循環させる必要があり、電力が不可欠。
ロシア軍はその点を分かったうえで、原発構内の電力を確保し安全を維持するため1基だけは運転を続けさせている、と見ることもできる。

しかし原発は原子炉さえ守られていれば安全が確保されるわけではなく、今回のロシアの攻撃、そして武力占拠は重大事故につながる極めて危険な行為。
それは福島の事故を見れば明らか。

11年前、東日本大震災の揺れと大津波に襲われた福島第一原発では、原子炉は停止したものの電気設備が損傷、非常用発電機も水没してすべての電源を失い、核燃料がメルトダウン。建屋が爆発し大量の放射性物質が放出された。
今も汚染水の処理などに追われ廃炉作業は入り口段階。
福島県では、3万人以上が避難を余儀なくされている。

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このように周辺設備が損傷すれば重大事故のおそれが高くなる。
例えば送電線。これが誤爆で切断されれば電源喪失に至るおそれ。
また非常用発電機を稼働させ続けるには燃料の補給が必要だが、攻撃・占拠でこれができなければメルトダウンにつながるおそれ。
さらにザポリージャ原発では近くを流れるドニエプル川から冷却のための水を取水しているが、そのポンプが戦闘で破壊されれば冷却手段が失われ、これもメルトダウンにつながりかねない。
ほかにも原子炉とは別の場所に保管されている使用済みの核燃料にも大量の放射性物質が含まれる。その貯蔵施設が破壊されれば、放射性物質の大量放出につながる。
このように原発構内には安全上重要な施設があちこちに配置されており、原子炉だけが健全であっても安全は確保されないというのが福島の事故の教訓。

そしてもう一点武力占拠で懸念されるのは、原発の運転員のおかれた状況。
通常、原発では1基ごとに一班10人程度の運転員が交代しながら24時間体制で運転したり、停止中も温度や圧力を監視して安全を確保。

その運転員の不手際も一因とされるのが、同じウクライナのチェルノブイリ原発事故。

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旧ソ連型の安全設計に問題がある原発で、試験中運転員の規則違反も重なって原子炉が爆発、大量の放射性物質が放出。消防隊員など30人が直後に死亡、避難が遅れ子どもの甲状腺がんも相次いだ。
壊れた建屋を覆う石棺は老朽化し、全体が巨大なドームで覆われた。
内部には核燃料が残されたまま、廃炉完了のめどはたっていない。

ウクライナの規制当局やIAEAによれば、ザポリージャ原発ではロシア軍の司令官の監視の下、運転員が原発を管理。
チェルノブイリとは型が違い安全性も高められているとされているが、
運転員は緊張を強いられた状態で、心理的重圧や精神的な疲労に直面しているという。
またロシア軍が通信網を遮断、電話や電子メールも使えない状態。
つまり原発は今、孤立状態にある。
しかし現場では1基の原子炉の運転が継続。
また運転停止直後の原子炉の核燃料からは大量の熱が発せられ続けている。
このまま運転員の緊張が続けば、機器の異常に気づかなかったり、操作ミスなどによって大きな事故につながりかねない。
武力占拠が続くほど事故のリスクは高まっていく。

まずは運転員が定期的に休養でき交代の要員も確保されるなど、正常な運転ができる環境を確保することが極めて重要。
通信手段も確保し、いざというときに外部から支援できる態勢をとらなければ。
そのためにはロシア軍が一刻も早く武力占拠を解除することが当然だが、それを待たずとも、原発の専門知識を持つIAEAがロシアと交渉し、応援の職員を送って原発の運転管理にあたることも早急に検討する必要。

さらにロシア軍はほかの原発も占拠するかも。
それを阻止するためにも、福島の事故を経験した日本が、武力占拠がいかに危険かを強く訴えていくことも重要。
岸田総理大臣は「福島第一原発の事故を経験した日本としてこのような蛮行は断じて認められず、最も強い言葉で非難する」と述べている。
同じように政府関係者、そして原発の専門知識を持つ原子力の関係者がロシア国内の関係者に福島の事故の教訓を粘り強く発信し続けていかなければ。
そして一刻も早く停戦に持ち込んで、原子力発電所の安全管理体制を回復していくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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