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高齢者施設クラスター最多 対策を詳しく解説

牛田 正史  解説委員

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新型コロナウイルスの第6波で、極めて深刻な打撃を受けているのが、介護などを受ける「高齢者施設」です。
クラスターの発生は週に400件を超え、去年の最大時の4倍に達しています。
オミクロン株の感染はピークを越えたと言われた後も、高齢者施設のクラスターは増えています。
ワクチンの追加接種や医療体制の拡充など、いま急ぐべき対策を考えます。

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高齢者施設とは、特別養護老人ホームや介護老人保健施設など、介護が必要なお年寄りが、生活したり利用したりする施設です。
第6波のクラスターの発生件数は、年明けまで、全国でも10件以下でしたが、その後、急激に増加。2月21日までの1週間には、482件にのぼりました。
新規感染者数が減少に転じた後も、増加が続いている状況です。
去年のピーク時と比べると約4倍の水準で、過去最多です。
ほかの医療機関や学校、それに企業などの件数と比べても、突出して多くなっています。
大勢の人が同じ建物の中で過ごす施設ですので、ひと度クラスターが起きれば、数十人、あるいは100人近い感染者が出るケースもあります。

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では、クラスターが相次ぐ介護現場では、何が起きているのでしょうか。
「過去の第5波よりも混乱している」という声が聞かれます。
都内の高齢者施設を回り感染者の往診を続けている岩間洋亮医師によりますと、重症化リスクの高い高齢者の多くが、施設での療養を余儀なくされています。
中には酸素吸入が必要な人でも入院できない、あるいは、搬送先を探している間に救急車の中で死亡した人もいるといいます。
岩間医師が行う施設での「往診」は、本来、患者の容態を確認し、症状が悪化すれば病院に搬送する、いわば「入院までのつなぎ」です。
ところが、実際には病院に空きが無く、医療器材の乏しい高齢者施設で治療に当たらざるを得ないケースが起きています。
こうしたクラスターが起きた施設で治療にあたる医師は決して十分ではありません。
国や自治体は、今回の第6波に向けて、施設や自宅療養者の医療体制を拡充したとしていました。しかし実際は、感染者の急増に追い付かない事態も起きています。
岩間医師も毎日2、3件の施設を回り治療に当たっているのが実情で、「医師は足りていない」と話し、医療体制の拡充を訴えています。
その手段の1つで考えられるのは、日ごろから入居者を診療している施設の嘱託医やかかりつけ医との連携です。
こうした医師の中にはコロナの患者は診られないという人もいますが、治療のノウハウを共有していくなどして、医療の輪を広げていくことが大切だと思います。

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さらにクラスターが発生した現場では、検査キットが不足するという問題も起きました。
発生や広がりを抑えるには、検査によっていち早く感染者を特定し、隔離することが大切です。第6波に備え、多くの施設では、自治体から配布を受けるなどして、検査キットを備蓄してきました。
ところが、感染の急拡大ですぐに無くなり、国内全体でも品薄状態になったことで、2月には、簡易キットを入手できない施設が相次ぎました。
感染者の特定や治療の遅れ、あるいは濃厚接触者となった職員の現場復帰が遅れたりする事態も起きました。
また、感染者の治療に使う経口薬も供給量がまだ少なく、入手に時間が掛かっているという施設も出てきています。
検査キットなどは増産も進み、状況は改善してきていますが、今後もクラスターは全国で多数発生するおそれがあります。
国や自治体は、医師の派遣、また治療薬などの供給を、クラスターが起きた高齢者施設に優先的に実施していくなど、さらなる調整を進めていく必要があります。

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高齢者施設のクラスターが増加する中、新型コロナに感染し亡くなる人も増えています。
1日に公表される死者数は、去年の第4波や第5波を上回り、多い日では300人を超えています。
オミクロン株は、デルタ株などよりも重症化率が低いとはいえ、感染者が急増すれば、死亡者もかつてない人数になるという、恐れていた事態が現実に起きています。
亡くなる人の多くは高齢者です。死者の増加を食い止めるには、クラスターなどによる高齢者の感染や発症を防いでいくことが大切です。

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その最も重要な対策の1つは追加接種、つまり3回目のワクチンです。
オミクロン株に対しても感染や発症を防ぐ効果が認められていますが、第6波の前に十分に進めることはできませんでした。
高齢者施設で作る団体が、新規感染者数がピークに達していた2月上旬に行った調査では、入所者と職員のどちらも追加接種を終えていないという施設が全体の4割を超えていました。
接種が進まなかった理由がこちらです。注目したいのは「接種券がそろってから対応しようと考えていた」という施設です。接種が完了していない施設の24%に上りました。
この接種券は、追加接種を始める時期についての国の方針が、度々変わったこともあり、自治体の発送が、接種の前倒しに間に合わないというケースも出ていました。
国は券が無くても接種は可能という通知を出していましたが、調査では9%の施設が「接種券無しにワクチンを打てることを知らなかった」と回答し、周知が徹底しきれていなかったことが浮き彫りとなりました。

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こうした中、国は、2月中に高齢者施設での接種が終えられるよう、自治体に支援の強化を求めました。
しかし、追加接種の前にクラスターが発生してしまった施設は、すでに多くあります。
接種を早めるための支援や周知をもっと早く、そしてもっと強くできなかったのかと感じます。

また、すべての施設が2月中に接種を終えられたかというと、そうではありません。
国が行った調査では、完了する予定は立っていないという施設が、全体の26%に上りました。
これはあくまで2月中旬の調査なので、その後、自治体などの支援で、接種が進んだ施設もあると思いますが、今も、施設で接種を行う医療従事者が確保できないといった事業所が、残っている可能性も十分あります。
自治体は医療機関を紹介したり、医師や看護師を派遣したりするなど、支援を徹底してもらいたいと思います。
また施設側も、支援が必要な場合は、自ら声を上げていくことも必要だと感じます。

さらに、追加接種を急ぐべきなのは高齢者施設だけではありません。
ほかの福祉施設、それに保育所や学校の職員なども、速やかに進めるべきです。
特に「障害者施設」です。基礎疾患があり重症化リスクの高い人は少なくありません。
こちらもクラスターが相次いで発生しています。年明けには週に1件ほどでしたが、最近は1週間で50件を超えています。
障害者の中には、マスクの着用など、感染対策がどうしても続けられないという人もいます。
こうした障害者施設などにも目を向け、追加接種がどこまで進んでいるのか、自治体などがきちんと把握し、遅れている施設には、接種を行う医師の派遣を調整するなど、支援が求められます。

新型コロナの第6波の脅威は、決して終わっていません。
これからもワクチンの追加接種、そして医療体制の強化が不可欠です。
そして高齢者など重症化リスクの高い人たちの命を守るためには、対策を速やかに実行する「スピード」が、何よりも重要です。
そのためにも、どこで接種が進まず、どこで医師が足りないのかを自治体などが把握し、対処していくことが求められます。

(牛田 正史 解説委員)

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