NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

ウクライナ侵攻 国際秩序に対する重大な挑戦

安間 英夫  解説委員

 ロシア軍がウクライナの軍事施設に対する攻撃を始めたと発表し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まりました。
 国連安全保障理事会の常任理事国による「国際秩序に対する重大な挑戦」と言えるでしょう。
 この問題について考えていきます。

j220224_1.jpg

【プーチン大統領が演説】
 ロシアのプーチン大統領は24日、国営テレビを通じて国民向けに演説しました。
 このなかで、ウクライナ東部の親ロシア派の支配地域から軍事支援の要請があったとして、「ウクライナ政府によって虐げられた人々を保護するため、『特別な軍事作戦』を実施することを決定した」と述べ、ロシア軍が軍事作戦に乗り出すと発表しました。

j220224_2.jpg

【ウクライナ国内の状況は】
 この発表を受けたウクライナ現地の状況(日本時間24日夜現在)です。

 ロシア国防省は「ロシア軍はウクライナ軍の施設や飛行場を高性能の兵器で無力化している」として、ウクライナの軍事施設に対する攻撃を始めたと発表しました。ウクライナ軍の対空防衛システムを攻撃し、制空権を制圧したとしています。

 一方、ウクライナ軍によりますと、こうしたロシアによる攻撃はウクライナ各地で行われ、北隣のベラルーシと国境を接するウクライナ北部では国境警備局の施設が攻撃を受けたということです。ウクライナ政府は、ロシアはウクライナに全面的な侵攻を開始したとしており、攻撃対象はほぼ全土に及んでいます。

j220224_3.jpg

【ウクライナの反応は】
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNS上にウクライナ国民向けのメッセージを投稿し、「ロシアとの外交関係を断絶した」と表明。「ウクライナは誰にも負けることはない」と述べて、国民の団結を呼びかけました。さらに「ロシアは第2次世界大戦でのナチス・ドイツのように、わが国を不当に攻撃してきた。ロシアは悪の道に進んだが、ウクライナは自らを守り、自由を諦めない」と、ロシアを強く非難しました。

j220224_4.jpg

【プーチン大統領の演説は】
 プーチン大統領は、演説のなかで「特別な軍事作戦」の目的について「虐げられた人たちを保護し、ウクライナの非武装化をはかることだ」と述べたうえで、ウクライナ軍の兵士に対して、「武器を捨てよ」と呼びかけています。その一方で、「ウクライナの占領の計画はない」とも述べています。この発言は、ウクライナ全土を対象にしながらも、占領をねらったものではないとの立場を示したものと見られます。

j220224_5.jpg

 そのうえで、プーチン大統領は、これまで主張してきた、ウクライナのNATO加盟を決して容認できない考えも改めて強調しました。プーチン大統領は、欧米の軍事同盟であるNATOが冷戦終結後、東側に拡大し、ロシアの国境付近まで迫ってきたと主張してきました。そして、アメリカなどに対し、ウクライナのNATO加盟はロシアにとって重大な脅威になるとして、ウクライナがNATOに決して加盟することのないよう法的な保証を求めてきました。

 演説では、アメリカやNATO、そしてNATO加盟を目指すウクライナを念頭に、「ロシアとその国民に脅威をあたえようとするものには、ロシアが即座に対応することを知らせなければならない」と述べました。さらに「ロシアは、ソビエトが崩壊したあとも最強の核保有国の一つだ。ロシアへの直接攻撃は、敗北と壊滅的な結果をもたらす」と述べました。
 この発言は、核大国であるロシアと戦うつもりなのかという脅しであり、アメリカをはじめ、欧米を強くけん制することを意図したものでしょう。

j220224_6.jpg

【国際社会の対応】
 国際社会は、新たな対応を迫られています。
 アメリカのバイデン大統領は声明を発表し、「プーチン大統領は破滅的な人命の損失と苦痛をもたらす戦争を選んだ」としてロシアを強く非難したうえで、同盟国などと連携して、厳しい制裁で応じる考えを示しました。さらにバイデン大統領は、G7=主要7か国の首脳とオンラインで協議し、ロシアに科す制裁措置について協議することにしています。

 日本政府も国際社会と連携して対処していく方針を表明しました。

 国連安全保障理事会でも23日、緊急会合が開かれ、各国から、ロシアの行為は国連が立脚する国際秩序への重大な挑戦であり、国際社会は断じて容認できないという発言が相次ぎました。アメリカは25日にもロシアを非難する決議案を提出する構えです。ただ国連安保理の常任理事国で拒否権を持つロシアに対して、歯止めをかけるのはきわめて難しい状況で、国連の存在意義が問われる事態となっています。

 またアメリカのバイデン政権は、これまでウクライナに対して軍を派遣するつもりがないことを明らかにしてきました。ウクライナ軍はロシアの軍事侵攻や攻撃に対して単独で戦わなければならない状況となっています。

j220224_7.jpg

【プーチン大統領 どこまで進む】
 では、プーチン大統領は、このあとどこまで進もうとしているのでしょうか。
 プーチン大統領はかねて「ロシアにとってウクライナは歴史や文化などを共有する同一民族の特別な国だ」と主張し、ウクライナのNATO加盟の阻止を目指してきました。

 プーチン大統領のこれまでの発言から、今後のシナリオを考えて見ますと、
①ウクライナのNATO加盟阻止
 まずウクライナのNATO加盟を阻止するために、ウクライナがNATO加盟を自発的に諦めること、かつアメリカなどがウクライナをNATOに加盟させないことを文書で確約すること。
②ウクライナの中立化
 次にウクライナを中立化させること、つまりロシアに敵対的な行動をとらないよう、プーチン大統領にとって望ましい政治体制、あるいは指導者の交代を考えている可能性があります。
③ウクライナ占領も視野の可能性
 さらにウクライナの一部、または全土を占領することを視野に入れている可能性もあります。このあとの、プーチン大統領のひとつひとつの言動や軍の動向を見極めていく必要があります。

 ただ今回の軍事侵攻によってウクライナ国民や国際社会の反発はいっそう強まっています。激しい抵抗にあうことは避けられないのではないでしょうか。

j220224_8.jpg

【2001年以降の主な軍事行動】
 今回のように大国による国境を越えた軍事行動は、今世紀に入ってからもしばしば起きています。

・2001年(アフガニスタン) 
  アメリカなどが同時多発テロに報復
・2003年(イラク)
  アメリカなどがフセイン政権打倒
・2008年(ジョージア)
  ロシアが親ロシア派地域に侵攻
・2014年(ウクライナ)
  ロシアがクリミア併合で侵攻

 プーチン大統領はこのうち、とりわけ2003年のイラク戦争で、アメリカが国連安保理の賛同を得られないままイラクを軍事攻撃し、フセイン政権を打倒したことは、他国の主権に対する侵害であり、国際法違反だと主張してきました。プーチン大統領は、アメリカも他国の主権を侵害したとして、今回のウクライナへの軍事侵攻を正当化しています。しかしそのような理屈は決して容認できません。

 アメリカをはじめ、日本を含むG7、国際社会は、これまで数か月にわたってプーチン大統領にウクライナに軍事侵攻するなと呼びかけてきましたが、ついに一線を越え、歯止めをかけることはできませんでした。
 今後、国際政治、国際経済にも大きな影響が予想されます。
 国際社会はすこしでもダメージを小さくし、制裁圧力も含めた外交交渉によってプーチン大統領の行動を変えさせるよう、一致結束して取り組む必要があると考えます。

(安間 英夫 解説委員)

関連記事