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日本経済~安定した回復をどう取り戻す

神子田 章博  解説委員

15日発表された日本の去年10月から12月のGDP・国内総生産の伸び率は二期ぶりにプラスとなりました。しかし、他の主要国に比べれば回復の勢いは鈍く、先行きも、オミクロン株や物価高の影響など懸念が残っています。日本経済が安定した回復力を取り戻すための課題について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです

1) コロナに振り回され続ける日本経済
2) 成長の落ち込みをどうくいとめる
3) 物価高を成長の好循環につなげられるか
です。

① コロナに振り回され続ける日本経済

 まずはGDPの内容から見ていきます。

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去年10月から12月までのGDPは、前の3か月に比べた実質の伸び率が年率に換算してプラス5.4%と、二期ぶりのプラスとなりました。この時期は新型コロナウイルスの感染状況が比較的落ち着いていたため、外食や宿泊などのサービス業の需要が伸び、「個人消費」が持ち直したことが主な要因です。しかし回復の勢いは、他の主要国に比べて見劣りしています。

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 これは、アメリカ、中国、それにドイツやフランスなどユーロ圏の去年の成長率の推移です。いずれも去年4月以降は、プラス成長が続き、GDPの規模がコロナ前の水準を回復しています。
これに対し、日本のGDPは、コロナ前の水準まではまだ回復していません。背景には、日本経済がほかの主要国以上に、コロナの感染状況に振り回されていることが指摘されています。

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これは去年1年間の経済成長率の推移とコロナの感染者数のグラフを重ね合わせたものです。1月から3月は感染の急拡大で2度目の緊急事態宣言が出された影響で、マイナス2.1%、4月から6月はその反動などによってプラスとなったものの、7月から9月は、デルタ株の感染拡大に伴う緊急事態宣言が響いて、マイナス2.7%となりました。そして感染が落ち着いた10月から12月がプラスになり、感染の状況に左右される形でプラスとマイナスを繰り返してきたことがわかります。

② 成長の落ち込みをどう食い止める

さらに今後についても懸念が残ります。

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まず、オミクロン株による影響について考えていきたいと思います。オミクロン株の感染急拡大を受けて、東京や大阪をはじめ36都道府県にまん延防止等重点措置が適用されています。政府は去年秋、感染防止と経済活動の両立をはかろうと、ワクチンの接種証明などを確認して飲食店の利用やイベント参加などの制限をゆるめるワクチン検査パッケージの仕組みを導入しましたが、その後「二回の接種を済ませていても感染する人が多い」として、この仕組みの適用を原則として停止することになりました。現状では、去年の緊急事態宣言下ほどの厳しい行動制限とはなっていないものの、それでも個人消費を押し下げることが懸念されます。
また日本の景気回復がほかの主要国より遅れている要因をめぐり、日本では諸外国に比べて、感染で健康を損ねることへの抵抗感が強い一方で、感染した場合の治療体制に不安が残る。このため、感染拡大による経済活動への影響がより強くでているという指摘があります。その意味で、ワクチンの速やかな接種と医療提供体制の強化は、経済の回復力を強めるうえでも重要なカギを握っているといえます。
一方、企業側では、コロナの感染によって経営が大きく左右されないよう新たな手を打つ動きも出ています。

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東京大田区にある業務用の野菜の卸売り会社は、コロナ禍で取引先の飲食店の休業や時短営業が行われるたびに売り上げの落ち込みに悩まされてきました。そこで、新たに、野菜を大量に消費する野菜炒めのメニューを、一人用のカウンター席で提供するという、新たな業態の店を自らオープンさせ、コロナ禍でも安定した売り上げを確保しようとしています。また京都市にあるスタートアップ企業は、家庭内の部屋の壁に、窓枠の様なモニターをかけ、世界各国の名所や自然豊かなアウトドアの映像と現地の音声を流すシステムを開発。巣ごもりの中で、旅行に出かけた気分だけでも感じたいというコロナ禍ならではのニーズを掘り起こそうとしています。コロナの収束が見通せない中で、企業としても、WITHコロナを前提としたビジネスの開拓を通じて、収益を拡大する取り組みが求められています。

次に物価高です。物価高の背景には、世界経済の急回復に伴う原材料の値上がりや、供給網の混乱がありますが中でも不透明感が強まっているのが原油価格の動向です。

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原油価格は、ウクライナ情勢が緊迫化するにつれて急上昇し、14日には一時1バレル95ドル台と7年5か月ぶりの水準に値上がり。これにともなって国内のガソリン価格も先週まで5週連続で値上がりしています。政府は石油元売り会社に対し、原油の仕入れ価格の上昇分に応じて補助金を支給し、ガソリンや灯油の価格の上昇幅を抑える制度を導入。先々週は1リットルあたり、3.4円、先週は3.7円の補助金を出してきましたが、原油の高騰が続く中で補助金の額はすでに上限の5円に達しており、原油がそれ以上に値上がりすれば、値上がり幅を抑えられなくなります。内閣府では、家計の光熱費も含めたエネルギー関連の支出額が年間で2万1千円程度から2万9千円程度増えると試算するなど、個人の財布や企業経営に与える影響は大きく、補助金制度の拡充などさらなる対応を求める声が強まることも予想されます。

③  物価高を成長の好循環につなげられるか

このように経済へのマイナスの影響が懸念される物価の高騰ですが、ここからは、物価高のもつ意味を別の角度から考えていきたいと思います。具体的には、商品やサービスの値上げをめぐる企業の姿勢に変化の兆しがみられることです。

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一部の企業は、去年からことしにかけて、原材料価格の高騰や、ガソリン価格の上昇にともなう輸送費の値上がりなどコストの上昇を価格に転嫁する姿勢を強め、それが多くの商品やサービスの値上がりにつながっています。これまでの日本では、人々が物価は上がらないのがあたりまえと思い込むなかで、企業は値上げしたくても消費者に受け入れられないとして、我慢する状況が続いてきました。その行動パターンがいま、変わってきているのかもしれない、という見方が出始めているのです。実際に日銀が、企業に対し、製品の価格を5年後にどのくらい引き上げているかを尋ねたところ、予想された上昇率は7年半ぶりの高さ。2014年に日銀の黒田総裁による前例のない金融緩和策、いわゆる黒田バズーカで一時的に物価が上昇した時以来の水準に達しています。

こうした物価の上昇は、私たちの生活にとっては好ましくないことですが、日本経済の将来にとってはプラスの効果も期待されます。どういうことでしょうか。

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これまで日本では、物価は上がらないものだと思われていた中で、企業は製品の値上げができず利益が増えない、その結果、賃金も上がらず、消費も拡大せず、成長の見通しもなく、物価が上がらないという悪循環が続いてきました。もし企業が製品の価格を上げることができれば、それによって利益も増えて賃金も上がり、消費の拡大につながるという好循環に転換していくかもしれません。

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しかしモノの値段が上がる一方で賃金が上がらなければ、人々はものを買わなくなり、企業は値上げをできなくなり、好循環は実現しないことになるでしょう。つまり、日本経済の悪循環を好循環に変えるには、価格をあげるのと同時に、できる企業は、これまでため込んだ利益を吐き出して賃金もひきあげることが求められているのです。

コロナ禍が続く中、少しでも安定した成長を維持し、さらに、コロナ禍がもたらした物価高を逆に好機として、さらなる成長への歯車を回していくことができるのか。日本経済は大きな岐路に立っています。

(神子田 章博 委員)

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