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相次ぐ早期退職募集 シニア層はどうする?

牛田 正史  解説委員

コロナ禍で、早期退職を募集する企業が相次いでいます。
上場企業では去年1年間に80社を超え、リーマンショック後に次ぐ水準となりました。
40代、そして50代になって、転職などのキャリアチェンジを求められる人は、今後さらに増えると予想されます。
しかし、企業のサポートは一部に留まり、労働市場も十分成熟しているとは言えません。
来るべき中高年層の「大キャリアチェンジ時代」に向けた、課題と対策を考えます。

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【なぜ早期退職の募集相次ぐ?】
働く人の多くは、60歳以降に迎える「定年」まで、同じ会社に居続けますが、この定年前に、退職金を割り増しするなどして、早めに会社を辞める人を募るのが、「早期・希望退職」の募集です。

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東京商工リサーチによりますと、去年、社員に早期・希望退職を募集した上場企業(開示分)は84社で、募集人数は分かっただけで1万5000人余。2年連続の80社超となり、リーマンショック後に次ぐ水準となりました。
募集人数が1000人以上だった企業は5社ありました。

なぜ今、早期退職の募集が相次いでいるのでしょうか。

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業種別で最も多かったのはアパレル・繊維製品で11社。さらに観光などのサービス業で7社、公共交通などの運送で6社、外食で4社など、新型コロナの影響を強く受ける業種が目立ちます。
これらの企業のほとんどは直近の決算が赤字で、経営が悪化していました。
ところが、すべて赤字企業かというとそうでもありません。実は全体の4割以上は黒字でした。1000人以上募集した5つの企業を見ても、4社は黒字です。
それでも早期退職を募る理由の1つとして考えられるのは、偏った年齢構成を是正することです。
年齢別の就業者数は、40代、50代が特に多くを占めます。この層をバブル期やその後に、大量採用した企業もあります。このボリュームゾーンを少しでも減らしていくという狙いです。
このように、コロナによって事業の見直しを迫られる赤字企業と、黒字でも年齢構成の偏りを是正しようとする企業の双方が、早期退職の募集に踏み切っています。
またデジタル分野の強化で、人員調整を進める企業もあります。
これらの要因は、いずれも一過性のものではありません。このため東京商工リサーチは「今年も、募集企業の数が去年と同じか、それを上回る可能性もある」と指摘しています。
つまりこの状況が、今後も続くことが十分にありえるわけです。

【中高年層の「大キャリアチェンジ時代」に】
そして、中高年層のキャリアチェンジを考える上で、もう1つ大きな動きがあります。
「役職定年」の導入です。

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役職定年とは、一定の年齢が来たら部長や課長といった役職を解くもので、こちらも、同じ企業にいながら「キャリア」を変えることになります。
この役職定年を設ける企業も今、相次いでいて、2017年の時点で、28%の企業が導入し、検討している企業も10%に上りました。ボリュームゾーンとなっている中高年層の「管理職」を減らしていこうという企業が多いと見られます。
また「早期退職」や「役職定年」以外にも、定年後に働き続ける人が増えています。まさに今、中高年層の社員の多くに「キャリアチェンジ」という波が押し寄せていると言えます。そしてこの波はさらに大きくなる可能性が十分あります。

【満足の得られた人はどこまで?】
では、このキャリアチェンジで、満足のいく結果を得られた人は、どこまでいるのでしょうか?
経験や知識を生かせる職場に付き、新たなやりがいを得られた人がいる一方、慣れない仕事に就いたり処遇が低下したりして、やりがいを感じられなくなる人も少なくありません。
例えば転職後の賃金です。

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全ての年齢では、転職で賃金が上がった人の割合と、下がった人の割合はともに35%前後でしたが、年齢があがるにつれて、減少した人の割合が大きくなります。50代後半では半数近くが、転職後に賃金が下がっています。
また、役職定年で言うと、仕事への意欲が低下したという人が59%にのぼり、上がったと答えた人は、わずか5%にとどまったという調査結果もあります。
このように、キャリアチェンジが「賃金」や「やる気」の低下につながることも多いという現実があります。

【企業の支援・サポートが不可欠】
企業が社員にキャリアチェンジを促すのであれば、「不利な結果」にならないよう、企業側も最大限、支援やサポートを行うべきだと私は考えます。
しかし、現状はそれが十分に行われているとは決して思えません。

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中高年層の就業問題を調査・研究している一般社団法人・定年後研究所によりますと、社員に「モチベーションアップや自己発見に向けた研修」、あるいは「キャリア設計のための個別相談や研修」といった支援を実施している企業は半数近くありますが、これを、50代以上の社員を対象にしているのは、わずか6%と16%です。
このデータを見ても、中高年層へのサポートや能力開発がまだ十分ではないと感じます。

【キャリア=肩書きという人は苦戦】
では、どんなサポートが必要なのか。
調査をした定年後研究所の池口武志所長は、中高年層のキャリアチェンジについて「特に会社の肩書きだけがキャリアと考え、管理職の経験が長い総合職型の社員で苦戦する人が多い」と指摘しています。
このため「会社の外でも通用するスキルや知識を身に着ける必要があり、企業はそのための時間的な余裕を作る、あるいは費用面で支援していくことが大切だ」としています。
具体的には、社内研修はもちろん、社会人大学院などでの学び直し、あるいは会社の外で経験を積む「出向」や「副業」を後押しするなど、社外活動を企業が積極的に支援していくことが考えられます。
実際にNPO法人への出向を募集する企業も出てきています。
そして、社員から相談を受ける上司や人事担当者も、キャリア開発について十分な知識や能力を持っていなければなりません。
池口所長は、「そうした人材の育成も、企業は力を入れなければならない」と指摘しています。

【企業と社員の“溝”】
この企業のサポートは、「役職定年」の制度においても必要です。

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役職を降りた人に対して、約4割の企業は面談を実施しておらず、そうした企業ほど意欲が低下する社員が多いという調査結果もあります。
調査に携わった玉川大学の大木栄一教授は「認識の甘い企業はまだ多くある。会社が社員1人1人の希望を把握し、それを反映させていく仕組みが不可欠だ」と指摘しています。
会社側からも役職を降りた人に何を期待しているのかをきちんと伝え、意思の疎通を図らなければ、溝は深まり、モチベーションは下がる一方となります。

【退職に追い込む手段ではない!】
さらに、キャリアチェンジでもう1つ注意すべきなのは、会社が、「強制的に退職に追い込む手段」として利用するケースです
労働組合の東京管理職ユニオンによりますと、上司から「会社にあなたの居場所はない」などと何度も言われ、なかば強制的に、早期退職に応募させられたという相談が、今も相次いでいるといいます。
早期退職の募集などが、社員を精神的に追い込み、強制的に転職を迫るものになってはいけません。これについては国も監視を強めていくべきだと思います。

【受け身ではなく自発的なキャリア形成】
今後も少子高齢化は進み、働く中高年層の割合は増え続けます。そうした人たちが高い意欲をもって働き続けられるかどうかは、この国全体の活力をも、左右すると思います。
企業や国のサポートが必要なのはもちろんですが、私たち働く側も、今と同じキャリアがいつまでも続くわけではないという、覚悟が必要になってきます。
そして、受け身ではなく自発的に自分のキャリア形成を考えていくことが、一層求められる時代になるのではないでしょうか。

(牛田正史 解説委員)

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