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2022年 バイデン政権の内憂外患

髙橋 祐介  解説委員

アメリカのバイデン大統領が就任してから2年目に入りました。これまでの成果について、アメリカ国民からの評価は、芳しくないようです。新型コロナの感染再拡大。物価の高騰。党派対立による政策の停滞。国際協調を掲げた外交でも、アメリカの威信回復は容易ではなさそうです。内憂外患に揺れるバイデン政権の現状と課題を考えます。

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ポイントは3つ。
▼まず無党派層の“バイデン離れ”
▼次に中間選挙で民主党の苦戦は必至
▼そして日米同盟の重みが増していることについてです。

『次から次に連なる危機をどう解決するかによって、われわれの価値は決まるだろう』。そう就任演説で、アメリカ国民が結束して困難に立ち向かうよう呼びかけてから1年後、
いまバイデン大統領は、依然として“分断の壁”に直面しています。

(バイデン大統領 1月19日 記者会見での発言)「過大な約束はしていない/実現した成果を見れば大きな進展を遂げている/まだ達成できていないのはー/この国をより良くする取り組みに共和党の友人を引き入れられていないことだ」

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バイデン大統領の支持率は低迷しています。ギャラップ社による調査では、就任当初の57%から1年後の現在は40%。右肩下がりの底が見えません。歴代大統領の就任から1年当時と比べても、最も低いトランプ前大統領とほぼ同じ水準に落ち込んでいます。

党派別に見てみると、青色の線で示した民主党支持層と、赤色の共和党支持層との間で、
大きなギャップは埋まっていません。ただ、とりわけバイデン政権にとって深刻なのは、いずれの党も支持しないオレンジ色で示した無党派層で支持率がほぼ半減したことです。無党派層のいわば“バイデン離れ”です。

なぜ、こうした現象が起きたのでしょうか?

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無党派層の不満が特に強いのは「コロナ対策」と「経済」です。

オミクロン株により、アメリカ国内の新規感染者数は今月半ば、1週間平均で1日あたり80万人を超えて過去最悪となりました。現在はおよそ70万人。州ごとに状況は異なりますが、アメリカ全体では、ひとまず最悪の時期は越えたのではないか?そうした見方も伝えられています。

バイデン大統領は、ワクチン接種の義務化を連邦政府職員から民間企業まで広げようとしましたが、反発する各州で訴訟が相次ぎ、保守派の判事が多数を占める連邦最高裁は、今月そうした措置の差し止めを命じました。
バイデン政権は「公的な検査体制の拡充が遅れた」とする批判も浴びています。
政権の最優先課題と位置づけるコロナ対策で、感染の再拡大が、大統領の支持率を押し下げる要因のひとつになったことがうかがえます。

そこに、記録的な物価の高騰が、追い打ちをかけました。
アメリカの先月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて7.0%上昇し、およそ39年ぶりの水準となりました。景気回復で需要が高まる一方で、人手不足などコロナ禍での供給網の混乱が品不足を引き起こし、値上げが広がったためとみられています。

バイデン大統領は、雇用情勢は著しく改善し、賃金も上昇傾向にあると指摘します。しかし、消費者から見れば、そうした成果は、インフレが家計を直撃したことで、いわば帳消しにされた格好です。

イエレン財務長官は、「パンデミックを制御できれば、今年はインフレが緩和されると予測している」と発言しています。バイデン大統領が落ち込んだ支持率低迷の穴から抜け出すためには、新型コロナの感染収束が前提になるでしょう。

問題はそれがいつになるのか?中間選挙に間に合うかです。

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いまアメリカ議会で民主・共和両党の勢力はご覧の通り伯仲しています。中間選挙では、このうち上院は3分の1、下院はすべての議席が改選されます。投票日は11月ですが、候補者選びの予備選挙が早い州では3月から本格化します。
もともとコロナ禍がなくても、中間選挙で政権与党は議席を減らす傾向があるのに加え、今回は10年ごとの国勢調査に基づく見直しで、民主党が地盤とする州で下院の定数がより多く減らされます。このため、民主党の苦戦は必至です。

民主党が下院で、あるいは上下両院で多数派の座を失えば、大統領の求心力は低下して、予算や法案はますます議会を通らなくなり、政権運営の行き詰まりは避けられません。

また、今回の中間選挙は、次の2024年の大統領選挙の行方を占う上でも重要です。前回の大統領選挙に不正があったと主張するトランプ前大統領は、今なお共和党支持層に圧倒的な影響力を維持し、返り咲きをねらっているとの観測が絶えず、今回の中間選挙でも、自らの息のかかった候補を後押ししているからです。

トランプ氏が、実際に再び立候補するかどうかはわかりません。ただ、共和党議員の一部は、中間選挙で議会の主導権を奪還することで、バイデン大統領の弾劾を目指しています。アメリカ政治はさらなる混乱も予想されています。

では、そうした国内情勢は、アメリカの対外政策には、どう影響するでしょうか?

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バイデン大統領は、国際協調を掲げる一方で、民主主義国と専制主義国との対決の図式を描き出してきました。最大の課題は、台頭する中国とどのように向き合うかです。
バイデン政権と民主党指導部は、中国に対抗して半導体や次世代の通信技術などの競争力を強化するため、アメリカの国内産業に巨額の予算を投じる新たな法案を近く議会下院に提出する見込みです。上院はすでに去年6月、同じ趣旨の法案を超党派で可決しています。
ただ、ことしアメリカは中間選挙、中国も習近平国家主席の党のトップとしての3期目をめざすため、双方とも内政に集中して国外では過度な軋轢を望まず、米中対立はこう着状態となる公算が大きいとみられています。

一方、ウクライナ情勢をめぐり軍事的緊張を高めているのがロシアです。バイデン大統領は、ロシア軍がウクライナに侵攻すれば、強力な経済制裁を課すと警告しています。アメリカが本格的な軍事介入に踏み切る選択肢は、すでに早々と除外しています。
そのため、バイデン政権は弱腰と受け取られ、アメリカの力による紛争の抑止効果が低下しているという指摘もあります。
現に、北朝鮮は、このところ核や弾道ミサイル開発を推し進める姿勢を崩しません。

アメリカの影響力が低下すればするほど、世界は不安定化するリスクを抱えています。

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相対的に、日米同盟は、ますますその重みを増しています。
岸田総理大臣とバイデン大統領は、先日のオンライン首脳会談で、経済安全保障でも協力を強化するため、両国の外務・経済閣僚による協議=いわゆる「2プラス2」の枠組みを新たに設けることで合意しました。

日米両政府は、オーストラリアとインドを加えたクアッドと呼ばれる4か国の首脳会合をことし前半に日本で開催する方針も確認し、そのためバイデン大統領は「春の遅い時期」に日本を公式訪問する意向です。
6月ドイツで開かれるG7を控えて、そうした外交日程が実現すれば、日米が主導して主な民主主義国による連携と結束の強化をはかることも可能です。

そこで私たちに問われるのは、アメリカから何を求められるかではなく、日本の国家安全保障戦略を練り直し、アメリカとの同盟関係をどう活用するかという主体的な発想です。バイデン政権が内憂外患に揺れている今だからこそ、日本が国際社会への発言力を高める好機と捉えるべきではないでしょうか。

(髙橋 祐介 解説委員)

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