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2022 ことしの朝鮮半島情勢は?

出石 直  解説委員

先週に続いて北朝鮮がまた日本海に向けてミサイルを発射しました。新型のミサイル開発を着々と進めているようです。ことし4月にはキム・ジョンウン氏が正式に最高指導者に就任してから10年となり、9月には北朝鮮が初めて拉致問題について認め謝罪した日朝首脳会談から20年の節目を迎えます。
一方、韓国では3月に大統領選挙が行われ5月には新しい大統領が誕生します。最悪とも言われる日韓関係の行方が気がかりです。ことし2022年の朝鮮半島情勢を展望します。

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【ポイント】
解説のポイントです。
▽ 年明けからミサイル発射を繰り返す北朝鮮。
拉致・核・ミサイル問題に進展はあるのでしょうか?
▽ 3月に投票が行われる韓国大統領選挙。政権交代を目指す野党陣営の内輪揉めで、情勢は混沌としてきました。今後の日韓関係への影響は?
▽ 後に朝鮮半島を取り巻く国際情勢から、今後の朝鮮半島情勢を展望します。

【拉致、核、ミサイル問題は?】

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北朝鮮が発射したミサイルについては、詳細を分析中ですが、先週5日に発射された弾道ミサイルは、音速の5倍以上の速さでコースを変えながら飛行し探知や迎撃が難しいとされる極超音速ミサイルとみられています。
北朝鮮は一年前に策定した国防5か年計画で、極超音速ミサイルや中長距離巡航ミサイルなど戦略兵器の開発を重点的に進めるとしています。年末に開催された朝鮮労働党の中央委員会総会でもキム・ジョンウン総書記は「不安定な国際情勢に対処するため国家防衛力の強化を推し進める」と述べています。
北朝鮮はすでに日本を射程に収める核弾頭が搭載可能な弾道ミサイルを数百発保有しているとみられており、今後も新型の戦略兵器の発射実験を重ね、軍事力の高度化と多角化をはかるものとみられます。

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その一方で北朝鮮は、今、深刻な食糧不足に直面しています。こちらはコロナ前の2019年と去年11月までの月別の中国との貿易額です。新型コロナ対策で国境の閉鎖が長引き、コロナ前に比べ10分の一以下に落ち込んでいます。中国から物資が入ってこなくなっているのです。年末の党中央委員会総会では、食糧不足を解決するための農業の改善が切実な最重要課題と位置付けられ、キム総書記は「農業生産を飛躍的に増やすことで食糧問題を完全に解決する」と決意を示しています。

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こうした北朝鮮の厳しい状況は、拉致・核・ミサイル問題を前に進めていくうえではチャンスにもなりうるように思います。ハノイでの米朝首脳会談が物別れに終わって以降、非核化をめぐる交渉はストップし、北朝鮮は対話に応じる条件として米韓合同軍事演習の中止など敵視政策の撤廃を要求しています。しかし、こうした条件をつけてきていること自体、対話に未練を残していることの裏返しではないでしょうか。
国際社会に頼らずに食糧問題を解決することは難しく、どこかの時点で人道支援や経済制裁の解除などを求めて対話を模索してくる可能性は十分あると予測します。
とりわけ拉致問題を最重要課題としている日本には、一刻の猶予もありません。
北朝鮮が初めて拉致問題を認め謝罪した日朝首脳会談から20年という長い年月が過ぎてしまったことを深刻に受け止め、あらゆる機会をとらえて接触を試みる努力を続けていくべきと考えます。

【韓国大統領選と日韓関係】

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次に韓国です。3月9日に投票が行われる大統領選挙は情勢が大きく変わってきました。当初は、革新政権の継続を訴える政権与党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)氏と、5年ぶりの政権交代を目指す最大野党「国民の力」のユン・ソギョル(尹錫悦)氏との互角の争いになると見られていました。ところが1か月程前からユン氏の支持が低迷し始め最新の世論調査では10ポイントの差がついています(韓国ギャラップ7日)。ユン氏の妻の経歴詐称疑惑に加え、運動の進め方をめぐって陣営内の意見が対立したことが原因と見られています。投票まであと2か月。ユン陣営が体制を立て直せるかが焦点で、今後、支持を伸ばしてきている中道系候補アン・チョルス(安哲秀)氏との間で野党候補の一本化を探る動きも出てきそうです。

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日韓関係をめぐっては、与党候補のイ・ジェミョン氏が過激な発言を繰り返していましたが、年末には韓国に駐在する相星大使と面会して「未来志向の関係を作っていきたい」と述べるなど、言動に変化が見られます。

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むしろ心配なのは、徴用をめぐる裁判で賠償の支払いを命じる判決を受けた日本企業の資産を売却する手続きが進められていることです。これはいわば時限爆弾のようなもので、実際に資産が売却されることになれば、日韓関係の基盤が崩れ、今以上に深刻な事態に陥ることは確実です。次の大統領が誰になろうと、この問題の解決がない限り日韓関係の修復は望めません。日韓両政府にはこうした危機感を是非共有してもらいたいと思います。

【朝鮮半島をめぐる国際情勢】
最後に朝鮮半島情勢に影響を与えそうなことしの主な予定を見ていきます。

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2月には北京で冬季オリンピックが開幕します。北朝鮮はコロナを理由に参加を見送り、日本やアメリカが政府関係者を派遣しないことを決めている中で、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領の参加が取り沙汰されています。ことしは韓国が中国との国交を正常化させて30年の節目の年にあたり、米中両大国の間で揺れ動いている韓国の中国接近が進むかどうか注目されます。

3月には韓国大統領選挙、その後には米韓合同軍事演習が予定されています。軍事演習は新型コロナの感染拡大を理由におととしは中止、去年は規模を大幅に縮小して実施されました。ことしの演習がどうなるのか、それに北朝鮮がどう反応するかは、今後の米朝関係、南北関係を見ていく上で重要なポイントとなるでしょう。

4月にはキム・ジョンウン氏が正式に最高指導者に就任してから10年になります。この10年間で権力基盤を固めたとみられるキム総書記が、再び外交攻勢に打って出てくるのか、あるいは頑なに内向きの姿勢を続けるのか注目されるところです。

5月には韓国に新しい大統領が就任し、9月は日朝首脳会談から20年、11月にはアメリカの中間選挙、秋にも中国共産党大会が行われます。韓国の革新政権が続くのか、アメリカ中間選挙で共和党が大勝しトランプ氏復活の可能性が出てくるのか。北朝鮮はその行方を注視していることでしょう。

【結論】
朝鮮半島は日本の安全保障にとってきわめて重要な地域です。
5年前の2017年はアメリカと北朝鮮の対立で緊張が高まり、2018年には南北や米朝の首脳会談で対話ムードが広がりました。この2年間は新型コロナウイルスに翻弄されましたが、ことし2022年の朝鮮半島情勢も目まぐるしく動くことが予想されます。
できる限り正確にそして客観的に情勢の変化をお伝えしていきたいと思っています。

(出石 直 解説委員)

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