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子育てしづらい国の こども家庭庁

竹田 忠  解説委員

日本の将来を左右する、新しい役所を政府が作ろうとしています。
「こども家庭庁」です。
こどもが直面している様々な問題に司令塔として取り組み、
少子化にブレーキをかけるのが狙いです。
今月始まる通常国会に法案が提出されます。
しかし、新たな組織を作れば、問題が解決するわけではありません。
大事なのは具体的な政策ですが、その裏付けとなる財源がハッキリしないままです。

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そこで、三つのポイント、

① 縦割りは残った。
② 子育てしづらい国。
③ そして新たな焦点、「日本版DBS」とは何か?

この3点について、考えます。

【 こども家庭庁とは?】

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まず、こども家庭庁とは、どんな組織なのか? 
総理直属の機関、という位置づけで
内閣府の外局として2023年度のできるだけ早い時期に発足させます。
専任の閣僚と長官が置かれ、こども政策の司令塔として
複数の行政機関にわかれている子ども政策を集約します。
関係省庁の対応が不十分な場合は、
改善を求めることができる「勧告権」も持ちます。

組織の規模は、事務の移管によって200人体制となりますが、
さらに100人程度を民間や地方自治体から採用し、
総勢300人規模を目指す考えです。
そもそも、この話しは、タテ割り行政を打破して、
こども中心の行政を実現するという意気込みで始まったものです。

当初は、タテ割りの象徴的な存在である
厚生労働省の保育所、
内閣府の認定こども園、
そして文部科学省の幼稚園、
この三つを全て、こども家庭庁に移して、一体的に行う案も検討されました。

しかし、文部科学省の強い抵抗で幼稚園やいじめ対策は、移管されず、
今後も文科省の所管のまま、こども家庭庁と情報共有や連携を行うのにとどまります。
タテ割りは温存されたわけです。
移管しないことについて
文部科学省は、義務教育とのつながりの重要性を主張していますが、
なぜ、こども家庭庁に移るとそれができないのか?
国会論戦の中で、明らかにしてほしいと思います。

【 悪化するこどもの環境 】
政府はつい最近、デジタル庁を発足させたばかりです。
なのに、なぜまた、組織再編を行って新たな役所を作るんでしょうか?
それは、こどもを巡る環境が、コロナ禍の影響もあって
一層、深刻さを増しているためです。

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▼たとえば、貧困問題です。
内閣府の調査では、貧困世帯の4割近く、ひとり親世帯では3割の家庭が、
生活が苦しく、必要な食料が買えないことがあったと答えました。
大学進学を目指す割合も、他より低くなっていて、
報告書は、親から子への「貧困の連鎖」のリスクが裏付けられたとしています。

▼次は虐待問題。
子どもが親などから虐待を受けたとして
児童相談所が対応した件数は、2020年度に全国20万件を超え、
過去最多を更新しました。
さらに、親などから虐待を受けて死亡した子どもは
2019年度、厚生労働省の調べで全国で57人に上りました。

▼そして いじめ問題。
全国の小中高校などが認知した、いじめの件数は51万7000件。
実はこれは前年度より約10万件減っています。
コロナの影響で、子ども同士が接触する機会が減ったためとみられますが、
そのかわり、ネット上でのいじめは過去最多を更新しました。
いじめ問題の難しさを物語るものです。

▼そして 自殺問題。
2020年(令和2年)に自殺した小中高校生は過去最多の479人にのぼりました。
高校生は329人、中学生は136人、小学生も14人がなくなりました。
(文部科学省)。

こうした深刻な現状への危機感が、こども家庭庁を作る背景になっているわけです。

【 こどもに冷たい国 】
ただ、新たな組織を作るだけでは、現状を変えることはできません。
大事なのは具体的な政策と財源です。

例えば貧困の解消には、様々な支援策や手当が必要になります。
また虐待や自殺の問題に対応するには、
民間の協力も含め、相談体制の拡充が不可欠です。
そのためには十分な予算、つまり財源がいりますが、その具体的な裏付けがありません。

そもそも、日本では以前から
子育て関連の予算が少ないことが大きな課題だとされてきました。

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このグラフは、各国が子育て支援にかけるお金、「家族関係支出」が、
その国のGDP・経済規模に占める割合を比較したものです。
日本は、わずかに1.73%。
イギリス、スウェーデンなどの半分程度しかありません。
これに、一人の女性が何人のこどもを産むかという出生率を合わせて見てみます。
日本の直近の出生率は1.36。
これに対し、スウェーデンは1.7、フランスは1.8などとなっていて、
子育て支援が少ない日本は、出生率も低い、という結果になっています。

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ちなみに内閣府が日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの4か国で調査で行い、
こどもを産み育てやすい国だと思うか?と聞いた調査では、
「そう思わない」、という否定的な答えが日本では、6割を超えました。
他の3か国に比べて圧倒的に多くなっています。
これが、「子育てしづらい国」の実態です。

【 こども保険 構想 】
では、どうやって、子育て支援の財源を確保するのか?
実は、かつて、こども保険やこども基金を作る議論が高まりを見せたことがあります。
小泉進次郎 前環境大臣も5年前、日本記者クラブで講演し、
こども保険構想を提唱した一人です。

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仕組みとしては様々な方式が提案されていますが、その一つは、たとえばこうです。
保険料を個人から直接集めるのではなく、年金、医療保険、介護保険など、
様々な公的保険の財源から少しずつ、お金を出してもらい、
いわば、基金として財源を確保する。

なぜ、そのようなことが許されるのか?
それは、年金も医療も介護も、
およそ社会保障というのは、個人が積み立てたお金ではなく、
その時、その時の、若い人が払う保険料や税金が中心となっているためです。
つまり、社会保障制度を維持するためには、こどもたちが多く生まれ、
育ち、働いてもらうことが必要で、そのためのお金を、
各制度が少しずつ負担してもいいのではないか、というものです。

無論、これは一つのアイデアであって、
本来は、消費税などの税で対応するのが筋だ、という考えもあります。
新しい組織作りを国会で議論するなら
ぜひ財源問題もセットで議論を深めてほしいと思います。

【 日本版DBSとは 】
そして、最後に、こども家庭庁はこれから大きな議論となることが避けられない、
新たな制度の導入を検討する予定です。
それは、子どもを性犯罪から守るため、
こどもと関わる仕事をする人の犯罪歴をチェックする
「日本版DBS」の検討です。(ディービーエス)

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DBSというのは、イギリスの制度、
「Disclosure and Barring Service」の略です。
(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)
イギリスでは、子供に接する職業に就くときは、
性犯罪歴がないことを証明する書類を役所からもらって
事業者に提出することが必要です。

日本では、こどもの性被害を防ぐ取り組みとして、
教員がわいせつ行為で懲戒処分となった場合、
教員免許を再び取得する制限を強化する法律が去年できました。
保育士についても、同じような法改正が検討されています。
しかし、こどもと接する仕事には
学習塾やベビーシッターなど、免許のない仕事も多いため、
新たにDBSの導入を検討しようとしているわけです。
しかし、個人の前歴にかかわる仕組みづくりには
刑法や個人情報保護法、そして憲法などとの兼ね合いが問題となります。
今後、有識者会議などを開いて、オープンな議論を進めるべきです。

きょうは成人の日です。
大人になったことを祝うだけでなく、どうすればこどもたちが無事に生まれ、育ち、
幸せにこの日を迎えることができるのか?
そう考えてみることも大切ではないでしょうか?

(竹田 忠 解説委員)

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