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2022年日本~経済政策の課題

神子田 章博  解説委員

オミクロン株の感染の急拡大や物価上昇、年明けからの株価の乱高下など、今年も日本経済は波乱含みのスタートとなりました。今年の経済を展望し、経済政策の課題について考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです
①  景気を左右する二つの懸念
②  物価高の行方と企業への影響
③  米中対立が突きつける課題

① 景気を左右するふたつの懸念

最初に経済の基調と懸念材料についてみてゆきます。

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今年の日本経済は、対面型サービス産業が持ち直してきたことや、財政支出が55兆円を超える経済対策、それにいわゆる「リベンジ消費」の効果で、基本的には回復基調が見込まれています。先月下旬、政府は4月からの新年度の成長率について3.2%程度と比較的高い見通しを示しましたが、そこから、わずか二週間で景気の先行きに暗雲が立ち込めてきました。オミクロン株の急激な感染拡大です。政府の関係者は、飲食店やイベントなどの行動制限について、ワクチン接種などを前提に緩和する方針を打ち出していることなどから、経済活動への影響は去年ほど大きくならないという見方を示しています。それでも感染が、けた違いに拡大し、重症患者も増えることになれば、事情は違ってきます。ワクチンの速やかな接種や検査体制の拡大などを通じて、感染をおさえ経済活動と両立できるかがカギとなります。

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もう一つの大きな懸念が、世界経済の急回復や、輸送船のコンテナ不足など物流の混乱などを背景にした資源や原材料価格の高騰です。この影響で、消費者物価の上昇率が去年11月には+0.5%まであがりました。実はこの数字、携帯料金の値下がりで1.5ポイント近く押し下げられていて、それがなければ2%程度にのぼっていた計算です。さらに今年も、春にかけてパンや食料油、冷凍食品などの値上げが相次ぎます。光熱費も含め、生活に欠かせないモノやサービスの値上がりはその分、他の買い物に回せるお金が減ることになり、消費の落ち込みを招きかねません。

② 物価高の行方と企業への影響

ではこの物価高、今年はどうなるでしょうか。専門家の間では、供給網の混乱などが徐々におさまることで物価も落ち着くという見方がある一方、さらなる上昇を警戒する声も出ています。

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その理由としては、各国でオミクロン株の感染拡大が広がることで、行動制限が強まり、生産や物流を担う人手が不足して供給不足や賃金の上昇につながるおそれがあること。脱炭素化の流れの中でシェールオイルなどの資源開発が進まず、供給不足からエネルギー価格が高止まりするおそれなどがあげられています。

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また、より長期的な視点から、中国の変化をあげる専門家もいます。世界の工場ともよばれた中国はこれまで先進各国に価格の安い製品を供給し、物価を押し下げてきました。それが急速な成長で国内の需要が増える中で、海外製品の輸入も拡大。いわば供給国としてよりも需要国としての性格が強まり、各国の物価を押し上げる要因になるというのです。
さらに輸入物価を押し上げる円安の動きにも警戒が必要です。

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いまの円安の背景には、アメリカの金融引き締めにむけた動きがあります。物価上昇率が6.8%まであがる中で、中央銀行に当たるFRBは今年、インフレを抑えるためにゼロ金利政策を解除して金利を引き上げる見通しです。さらに5日公開された先月の会合の議事録では、市場に潤沢に資金を供給するために購入してきた国債などを、逆に売却して保有資産の圧縮に踏み切るべきだとする意見がでていたことがわかり、アメリカの長期金利を一段と上昇させています。こうした中で、マイナス金利政策を続ける日本の円を売って、より多くの金利収入が見込めるドルを買う動きがさらに強まることも考えられます。円安が進めば、海外から輸入する原材料が一段と割高になって物価をさらに押し上げることになります。
物価高は企業の経営にも影響を及ぼします。

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これは原材料の仕入れなど企業同士の取引の価格を示す指数のグラフです。この春以降急激に上昇し、11月の上昇率はプラス9%。企業のコストが大幅にあがってきていることがわかります。これに対し、消費者物価はあがったといっても企業のコストの上昇分ほどはあがっていません。これは、企業がコストの上昇分を価格に転嫁できていないことを意味するものです。こうした状況が続けば企業の収益は悪化。賃金の上昇にもマイナスの影響を与えることになります。
とりわけ中小企業は、大企業に対する立場が弱く、原材料コストが上がっても取引価格に転嫁しづらいといわれます。こうした中で、政府は、大企業が価格転嫁を拒否するいわゆる「買いたたき」を厳しく取り締まる方針を打ち出しました。中小企業はコロナ禍でより深刻な打撃を受けているといわれるだけに、十分な目配りが求められます。

③ 米中対立がつきつける課題

最後に、海外との貿易など通商政策の課題について考えていきたいと思います。

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今月1日、RCEP地域的な包括経済連携が、参加15国のうち、日本や中国アセアン諸国など10か国で発効しました。RCEPは、世界の人口やGDPのおよそ3割を占める巨大な経済圏で、日本にとっては中国・韓国と結ぶ初の経済連携協定となります。日本から工業製品を輸出する際の関税が無税となる品目の割合が、将来的に、中国で8%から86%に、韓国で19%から92%に増えるなど大きなメリットをもたらします。その一方で日本としては中国も含め、自由貿易のルールを加盟国に浸透させていく課題も背負っています。

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 ただアメリカはこのRCEPには参加していません。
そのアメリカは、今年、自由や民主主義という価値観を共有するインド太平洋の国々と、新たな経済連携の枠組みを立ち上げようとしています。▽重要製品のサプライチェーンの強化や、▽高度な技術に関する輸出管理の共通の基準づくりなどをめざしているとされます。中国がRCEPにとどまらずTPPへの加盟を申請するなど、アジア太平洋地域での存在感を強める中で、自らの同盟国や友好国との連携強化を通じて中国に対抗する狙いが読み取れます。
そうした中で日本は二つの政策の取り組みを強める必要があります。

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ひとつは、企業と人権の問題です。アメリカでは先月、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産されたとみられる製品などすべての品目の輸入を原則禁止する新しい法律ができました。今後日本企業に対しても一段と厳しい目をむけてくることが予想されます。企業にとっては、サプライチェーン=原材料の仕入れや部品の調達、製品の製造過程で人権侵害が行われていないか、しっかりと確認することがこれまで以上に求められます。

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もう一つは、経済安全保障の強化です。米中間でハイテク技術をめぐる覇権争いが強まる中で、先端技術の流出防止や、コロナ禍で調達が困難となった半導体などの重要物資を、国内か、価値観を同じくする国の間で安定的に確保できるようにすることが喫緊の課題となっています。政府は今月から開かれる国会に関連する法案を提出することにしていますが、企業の事業環境を急変させないよう配慮もしながら、実効性のある対策が求められています。

今年の干支は虎。少々気が早いですが来年の干支のウサギと合わせ「虎千里を走り、卯跳ねる」という相場の格言があるそうです。今年も日本経済は、感染症や物価高、国最情勢への対応など、乗り越えなければならない山が続きますが、虎のように力強く駆け抜けて、来年のジャンプにつなげることができるのか。官と民が緊張感をもってそれぞれの役割を果たすことで今年がステップの1年となることを期待したいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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