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来年度政府予算案 歯止めなき財政膨張

神子田 章博  解説委員

先週末にまとまった来年度の政府予算案。一般会計の総額は107兆円を超え、国債発行残高も1000兆円を大きく上回る見通しとなりました。膨張する財政の背景に何があるのか、どう歯止めをかけるのか考えていきたいと思います。

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解説のポイントは3つです。

1) 要求段階から失われる規律
2) 拡大する補正予算の内幕
3) 国民の納得という歯止めを

 まず来年度の政府の当初予算案の内容をみてゆきます。

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政策に使う一般歳出は医療や介護などの社会保障関係費が、急速に進む高齢化を背景に今年度の当初予算よりおよそ4400億円増えて36兆2000億円あまりとなったことや、政府が過去に発行した国債の元本の返済や利払いに必要な国債費もおよそ5800億円膨らみ、24兆3000億円あまりとなったことなどから、一般会計の歳出は総額で107兆5964億円と過去最大となりました。一方で、歳入面では税収が65兆2000億円程度で、足りない分を補う新規の国債発行額は、36兆9000億円あまりとなります。この結果国債発行残高は、来年度末には1026兆円に達します。あまりに額が大きいのでイメージがつかみにくい方もいると思いますが、それぞれの数字を1000万の一にすると、年収が652万円の人が、1076万円の支出をおこない、1億260万円の借金をかかえている計算になります。
予算の規模がここまで膨張した背景には、さきほどあげた社会保障費と国債費の増加に加え、限られた財源の中から少しでも効率的に予算を使うという規律がゆるんでいるという指摘もあります。ひとつは、毎年夏に各省庁が行う当初予算の要求段階の問題です。

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 このグラフは、この20年あまりの間の政策につかう予算=一般歳出の推移です。長期にわたる拡大傾向が見て取れますが、2000年代の前半から後半にかけて伸びが抑えられていた時期がありました。

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当時は毎年夏に行う予算要求の際に、要求額の上限を厳しく設定していました。さらに当時の小泉政権は歳出分野によっては具体的な削減目標を課していました。このため各省庁は、まず自らの予算項目の中で優先順位をつけ、新しい予算を要求する際には、それまで認められていた別の予算をカットするなどして、要求額が上限の枠内に収まるようにしていました。いわば要求段階で歯止めをきかせることで、予算の膨張を抑えることができたと言います。
ところが、2010年代の半ばになると、歳出の拡大傾向が強まります。実はこの頃から予算要求の段階で巨額の特別枠を設けられるようになりました。

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成長戦略や、一億総活躍社会の実現などその時々の政権が重点を置く政策の要求枠を設け、硬直化する予算を柔軟に組み直すことを狙ったとされますが、問題は、その規模が4兆円から4兆4000億円と巨額なことです。各省庁は、以前ほど自らの要求項目に厳しく優先順位をつけなくてもよくなり、要求する側の規律が薄れたことで、予算の規模が膨らみやすくなったと指摘されています。
規律が緩むということでは、今年10月、外務省の予算をめぐりこんなことが明らかになりました。

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JICA=国際協力機構にわたっていた発展途上国などへの無償資金協力の予算のうち、310の事業分の予算、およそ1960億円が使われずに滞留していたというのです。現地の治安悪化による工事の遅れが年々累積したことが要因だとされていますが、財務省は本来であれば、他の必要な政策に振り分けられ得た財政資金が非効率的に配分されることになったと厳しく指摘しました。各省庁は、新たな予算を要求する前に、過去の予算が有効に使われていたかを検証することも含め、自らを律していく必要があります。

2)拡大する補正予算の内幕

 当初予算に加え、財政を膨張させているのが年度の途中で編成される補正予算です。

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こちらは、ここ10年の当初予算の歳出の推移です。そしてこれに各年度の補正予算を加えるとほぼ毎年数兆円単位で膨らんでいます。

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予算を査定する財務省は、当初予算については、社会保障や公共事業など継続的に必要な経費が翌年以降も計上されることや、その規模が翌年度の予算の目安ともなることから、できるだけ厳しく査定をするといわれます。
一方、補正予算は、一時的な予算措置であることから、査定も比較的甘くなりがちといわれます。本来補正予算は、その年に発生した緊急の事態に応じて編成されるものですが、省庁の中には4年連続で必要な予算を補正予算で獲得しているところもでてきています。補正予算はいまや各省庁にとって、毎年編成されることが期待され、継続的な予算も補正で要求するのが当たり前という感覚になっているようです。ある省庁の幹部は、「当初予算は継続事業が多く、所管する予算の中でも自由に組み替えられる範囲は限られる。新たな予算を要求しようにも枠がないため、補正で予算をとるしか、新しい事業が実現できない」といいます。そこには新たな重点政策のために当初予算を柔軟に組み替えられないが故の補正頼みといういびつな構図がうかびあがります。来年度は107兆円規模の当初予算に対して一体どれだけの補正予算が上乗せされるのでしょうか。ここはやはり補正予算も含めて一定の歯止めになる仕組みが求められていると思います。

3)国民の納得という歯止めを
こうした中で、注目されるのが、国と地方を合わせた基礎的財政収支を2025度に黒字化するという目標の行方です。

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基礎的財政収支とは、政策に必要となる経費と、その年の税収などの収入の間の収支のことで、いまは大幅な赤字ですが、これが黒字になればその分新たな借金をしなくてよいことになります。政府はこの目標について、「今年度中に、感染症の経済財政への影響を検証しその結果を踏まえ目標年度を再確認する」としていますが、これに対してはコロナによる財政悪化を理由に目標を先延ばしするのではという見方も出ています。しかし目標を先にずらせば、今以上に規律がゆるむおそれもあり、慎重な検討が求められます。
また予算の使い方を効率的なものとするためには、巨額の支出を決める前に、その政策効果について国民の納得感が得られるかどうかをよく考えることも必要だと思います。

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例えば18歳以下への10万円相当の給付金は、新型コロナの影響を受けた人たちへの支援策として現金での給付が打ち出されたものが、経済対策にもつなげたいという思惑が加わり、半分を、使い道を限定したクーポンにして給付することになりました。それが最終的には給付の仕方は個々の自治体の判断にゆだねられることとなり、対応が二転三転。そうなったのも、もともとの狙いに別の狙いが唐突に継ぎ足されたためだという指摘があります。1兆9400億円という巨額の予算が投じられるにもかかわらず、どのような効果を生むことになるのか国民にとってわかりにくいものとなったのではないでしょうか。

今年は財務省の現職の事務次官が「バラマキ」をキーワードに、財政の現状に強い危機感を示したことが注目を浴びました。総選挙の際には、国民の間からも「財源もないのに給付ばかりして大丈夫なのか」と不安視する声が聞かれました。歳出の拡大が国民に「バラマキ」と受け取られれば、将来必要な財源を確保しようと増税を持ち出しても、決して理解は得られないでしょう。個々の予算をめぐって、賢く効率的に使われているか、日本の未来にどう役立っていくのか、国民の納得のいく説明ができるようにする。財政の膨張に歯止めをかけるためにも、そうした政府の姿勢がますます求められているのではないでしょうか。

(神子田 章博 解説委員)

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