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新型コロナウイルス 飲み薬初の承認 期待と課題

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの治療に使う「飲み薬」が、2021年12月24日に承認されました。アメリカの製薬メーカーが開発したもので、新型コロナの飲み薬の承認は、国内で初めてです。点滴の治療薬に比べて、飲み薬は使いやすいのが大きな特徴です。飲み薬によって、治療の選択肢が広がるなど期待がある一方で、課題も少なくありません。

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解説のポイントです。
▽承認された、治療薬「モルヌピラビル」は、どんな薬なのかを見た上で、
▽この薬に対する期待と課題、
▽オミクロン株など、変異ウイルスが次々に現れる中で、治療薬の開発に、今どのようなことが求められているのか、考えます。

まずは、承認された新型コロナウイルスの治療薬「モルヌピラビル」の概要です。

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アメリカの製薬会社「メルク」が開発しました。
▽飲み薬で、
添付文書などによると、
▽発症から速やかに投与することとなっています。
▽年齢18歳以上、
▽軽症、または中等症の患者で、新型コロナで重症になりやすいとされるリスク要因がある人に投与するとしています。
▽臨床試験では、入院、または死亡のリスクが30%減少しました。

下の図は、新型コロナに感染した後の経過を模式的に示したものです。

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はじめは、ウイルスが増殖し、その後は肺炎などの症状が進行すると、重症化します。
モルヌピラビルは、ウイルスの増殖を抑える作用をします。早めに飲めば、重症化せずに回復に向かうことが期待できます。投与が遅れて、肺炎などの症状が進んでしまってからでは、薬の効果は発揮できません。発症から5日以内に、適切に投与を始められるかが一つのカギになり、迅速な診断ができる体制も求められます。

この薬に対する期待は、どういった点にあるのか。

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ひとつは、使いやすさです。治療薬としては、「中和抗体薬」と呼ばれるものが、日本では、すでに2つ承認されています。この薬は、点滴で投与するため、医師などによる管理が必要になります。過去の感染拡大の際、自宅療養の感染者に使うことが難しいなどの問題が指摘されていました。これに対して、モルヌピラビルは、飲み薬なので、使いやすくなります。

もうひとつ、モルヌピラビルは、「オミクロン株」に対しても、これまでのウイルスと同様の効果があるとみられています。

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上の図は、体の中でのウイルスの増殖の様子です。新型コロナウイルスは、ヒトの細胞に入ると、細胞の中に「ウイルスの複製工場」のようなものを作り、数を増やします。

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中和抗体薬は、上の図のように点滴で体に送り込んだ抗体によってウイルスが細胞に入るのを抑えます。

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オミクロン株は、ウイルスの突起の部分に多くの変異があり、形を変えています。このため、抗体がウイルスの突起をとらえられずに、細胞に入るのを抑えられない可能性があります。
実際、「抗体カクテル療法」で知られる「ロナプリーブ」では、そうした懸念が指摘されていて、厚生労働省によりますと、オミクロン株に対しては効果が弱まる結果が出ているということです。

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一方、モルヌピラビルは、上の図のようにウイルスが細胞に入った後にできる「複製工場」を働かないようにして増殖を抑えます。ウイルスの突起とは関係ない「複製」の段階に薬が作用します。

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このため、オミクロン株に対しても、薬の効果は維持されていると考えられています。

では、モルヌピラビルについての課題とは、どういったものなのでしょうか。ひとつは効果に対する評価です。

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上の図は、およそ700人ずつを対象に行われた臨床試験の結果です。モルヌピラビルを飲まなかった場合、入院あるいは死亡に至った人の割合が9.7%だったのに対して、モルヌピラビルを飲んだ場合は6.8%でした。つまり、薬によって入院や死亡のリスクが30%減少したとみることができます。
副作用が気になりますが、この薬は、動物実験で胎児への影響が報告されたことなどから、妊娠中、あるいは妊娠の可能性のある女性には、「投与しないこと」とされています。

この薬について、海外の評価はどうなのか。

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イギリスは、すでに承認していて、追加の契約を決めました。一方、フランスは効果について「期待したほどではなかった」として、発注をキャンセルしました。アメリカFDA=食品医薬品局は、23日に「緊急使用の許可」を出しましたが、限定的な使用にとどめています。海外での対応は様々です。
日本は、すでにメルク側と160万人分の供給を受けることで合意しています。人の移動が多くなる年末年始を前に、オミクロン株の市中感染が明らかになり、感染の急拡大に警戒する必要があります。こうしたことから、政府は20万人分について、週末に全国に配送し、使用できる体制をつくります。
承認を受けて、日本でも、症例に関するデータを蓄積することが必要だと考えます。
▽どういった患者に投与するのが、効果的なのか、
▽臨床試験ではみられなかった重篤な副作用は起こらないのか、といったことを分析するため、国内で投与した患者のデータ、あるいは海外の報告を集めて、より適切な使用ができるよう継続的に検討することが求められます。

そして、もう一つ。新型コロナウイルスは、この2年ほどの間に、アルファ株、デルタ株、オミクロン株などと様々な変異を繰り返してきています。この変異に治療薬の面からどう備えるかです。

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ウイルスの増殖の過程で、モルヌピラビルは複製を抑え、中和抗体薬は細胞に入るところで抑えます。モルヌピラビルは、オミクロン株には作用するとみられていますが、専門家の中からは、「今後、モルヌピラビルの効果が低下する様な変異をもったウイルスが広がることも想定しておく必要がある」という声も聞かれます。
求められているのは、違った作用をする治療薬の開発だと思います。
例えば、今、日本の塩野義製薬が開発中の飲み薬やファイザーの飲み薬は、細胞の中に複製工場を作る「準備」の段階、ここを抑える作用があると考えられています。こうすれば、複製工場ができないので、ウイルスが増殖できないことになります。
このように作用の異なる薬がそろってくれば、
▽中和抗体薬が効かない変異ウイルスには飲み薬、
▽仮に、モルヌピラビルが効きにくい変異ウイルスが出てきても、他の薬が効く、
といったように、ウイルスの変異に応じて、薬を使い分けることも可能になってきます。
変異ウイルスへの備えとして、作用の仕方が異なる「多様な治療薬」の開発が必要になっています。

初めての飲み薬の承認。課題はありますが、新型コロナ対策の新たな手段を手にしたことは、一つの前進です。今後、国内で使われ始めると、新たな課題などが出てくることも考えられます。飲み薬を効果的に使って、重症になる患者を減らすことにつながるよう、国と製薬会社、医療機関が連携して、取り組むことが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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