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入管制度 迫られる抜本的改革

二村 伸  解説委員

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難民の認定申請が認められなかった外国人に裁判を受ける機会を与えず強制送還したのは憲法違反だとする判決が、9月、東京高裁で言い渡されました。在留資格のない外国人でも憲法が定めた基本的人権が保障されるという判断です。原告の弁護団は同じようなケースが数多くあるとして、先週実態調査を求める申し入れを法務省に行いました。入管、出入国在留管理庁をめぐっては、3月、名古屋の入管施設でスリランカ人女性が十分な治療を受けられずに死亡するなど問題が相次ぎ、制度の抜本的な見直しが求められています。強制送還をめぐって違憲の判断が示されたことの意味と、現行の入管制度の問題点、それに再び議論が予想される入管法の改正について考えます。

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在留資格がない、いわゆるオーバーステイの外国人はおよそ8万人。主に観光や留学目的で来日しながら仕事に就いたり、期限をこえて滞在したりした人たちですが、中にはコロナ禍で突然解雇されたり、日本人の配偶者と離婚や死別したりした人、さらにはその子どもも含まれます。退去を命じられた人の9割以上は速やかに帰国していますが、幼い子どもや日本人配偶者がいる人や長年日本で暮らし戻る場所のない人、それに祖国では迫害を受けるおそれのある人など帰るに帰れない事情を抱えた人も少なくありません。退去させられる外国人は犯罪者ではないかという人もいますが、退去を命じられた人のうち、刑事事件を起こしたことが退去命令の理由となった人は全体の2%ほどです。

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憲法違反とされたケースは、7年前難民として認定されなかったことに異議を申し立てた40代と50代のスリランカ人男性が、申し立てを退ける決定を告げられた翌日、本国に強制送還されたのは、「憲法が保障する裁判を受ける権利の侵害だ」として国に賠償金の支払いを求めていた裁判です。異議申し立ての棄却は、実際には告知の40日前に決定していたにもかかわらず、2人は送還の直前まで知らされず、弁護士への連絡もできませんでした。

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一審の東京地方裁判所は原告の訴えを退けましたが、2審の東京高裁は入管の対応について訴訟が起こされる前に2人を送還するため意図的に申し立て棄却の告知を遅らせ憲法で保障する裁判を受ける権利を侵害したと原告の訴えを認め、国に賠償金の支払いを命じる逆転判決を言い渡しました。強制送還をめぐっては1月にも名古屋高裁で、外国人に裁判の機会を与えず強制送還したのは違法だとする判決が下されましたが、憲法違反だと踏み込んだ判断は今回が初めてだと原告の弁護団は話しており、憲法が定めた基本的人権は入管法の枠内でしか保証されないとした過去の判例を覆す画期的な判決だとしています。
国は「上告するだけの理由が見いだせなかった」として判決を受け入れました。

これを受けて原告の弁護団は今月14日、法務省に対して2人への謝罪と再入国を認めるよう求めるとともに、同じように裁判を受けられずに強制送還された外国人が相当数いるとして過去10年間の実態調査と結果の公表を求める申し入れを行いました。
指宿昭一弁護士は申し入れ後、「在留資格を失った人にも憲法が適用され、誤ったことをすれば違憲判決が下されることが示された。法務大臣には真摯な対応をお願いしたい」と述べました。
入管庁は、申し入れへの対応は検討中だとしていますが、調査を行うかどうかは明らかにしていません。また、難民認定の手続き後、裁判の機会を与えるために告知から送還まで最低2か月の期間を設けるよう全国の入管に通達を出し、人権を尊重し対応していくと説明しています。

入管制度をめぐっては、この数年様々な問題点が指摘されてきました。

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▼1つは長期収容の問題です。様々な事情から送還を拒否している人は3000人あまりに上ります。入管施設は本来強制送還前の一時的な滞在場所ですが、3年、4年にわたり収容されている人も少なくありません。長崎県の大村入国管理センターではおととし、長期収容に抗議のハンガーストライキをしていたナイジェリア人男性が死亡しました。病気などの理由で収容が一時的に解かれる仮放免となりながら2週間後に再び収容される人も相次ぎました。
▼ことし3月には名古屋の入管でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡し、日本の入管制度のあり方があらためて問われました。日本語の教師をめざしていたウィシュマさんは日本語学校を除籍となり在留資格を失って入管施設に収容されました。今年1月、体調の悪化を訴えたものの十分な治療が行われず、仮放免や病院への入院も認められないまま2か月後に息を引き取りました。遺族はなぜ適切な治療が行われなかったのか、真相究明を求めて来日しましたが、法務省の最終報告書では死因は特定されず、施設の医療体制の不備などを指摘する内容にとどまりました。
▼入管施設に収容されている外国人が職員から暴行を受け、けがをしたという訴えも相次ぎ、先月もアメリカ国籍の男性が国を相手取り損害賠償を求める訴えを起こしました。

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日本の入管制度に対しては、国連人権理事会の作業部会が、司法の審査もなく無期限収容することは正当化できないという意見書をまとめ日本政府に改善を求めています。
一方、政府はことし2月入管法の改正案を国会に提出しました。法案では▼難民認定の申請が3回目以降は本国に送還できる例外措置を設けることや、▼入管施設に収容する代わりに入管が認めた「監理人」と呼ばれる団体や個人のもとで生活することを認め、監理人に行動の報告を義務付ける「監理措置」が設けられることなどが盛り込まれました。しかし、難民認定手続き中の送還は、本来保護すべき難民を見捨てることになりかねず難民条約違反だといった批判や、監理措置も民間に負担を強いるだけで改善ではないといった反発の声が上がりました。結局、法案の採決は見送られましたが、あらためて次の通常国会での提出に向けて準備が進められています。

また、入管庁は収容されている外国人への対応を見直し、入管施設の医療体制の強化や、体調不良者への仮放免を含めた柔軟な対応、それに外国人に適切に対応しているかチェックする監査指導室の設置など12項目の改善策を打ち出しました。一歩前進ではありますが、それで改革を終わらせてはならず、組織全体の意識の改革が求められています。

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改正案にも反対の動きが広がっています。今月11日、全国18の団体と個人193人が、法務省が進める改正案に反対し、入管制度の改革を求める市民連合を結成しました。
14日には、全国の弁護士157人がネットワークを立ち上げ、人間を人間として扱わない法案は許さないとして改正案の阻止をめざしています。
岸田総理大臣は先の衆議院本会議で、亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの遺族から送られてきた手紙を読んだことを明らかにした上で、「このような事案が二度と起こらないよう取り組んでもらいたい。私としてもしっかり報告を受けていきたい」と述べました。聞く力が優れているという総理には、日本の社会から排除されようとしている弱い立場の人々の声にも耳を傾け、外国人の人権がないがしろにされているという日本に対する国際社会の懸念を払しょくしてほしいと思います。

(二村 伸 解説委員)

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