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揺れる日本大学 "権力の集中"見直しを

山形 晶  解説委員

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国内最大規模の私立大学、日本大学のガバナンス、組織の管理・運営のあり方が問われています。
田中英壽前理事長がリベートなどの収入を税務申告していなかったとして所得税法違反の罪で起訴されました。
側近だった元理事も背任の罪で起訴されています。
一連の事件からは、経営トップとその側近に権限と金が集まる、あまりにも不適切な運営と、それを是正することができなかった組織の問題が浮かび上がりました。

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東京地検特捜部が捜査したのは、背任と脱税の2つの事件です。
背任というのは、ある組織の事務処理を担う人物が、自分や第三者の利益のために組織に金を出させたりして、損害を与える背信行為のことです。
「組織の私物化」とも言えます。
田中前理事長の側近だった井ノ口忠男元理事と、2人の知人で、大阪の医療法人の籔本雅巳前理事長の2人は、日本大学の付属病院の建て替え工事や医療機器の納入をめぐり大学側が設計事務所などに支払った費用や契約のうちあわせて4億2000万円を籔本前理事長側に流出させ、大学に損害を与えたという罪に問われています。
その一部は井ノ口元理事に渡ったとみられます。
特捜部は、元理事が大学の契約や調達を担う子会社の「日本大学事業部」の役員として経営の実権を握り、強い影響力を持っていたとみています。
元理事は資金の流れについては認めましたが、「大学に損害は与えていない」と主張しているということです。
大学が設計事務所などに支払った額の大きさが適正だったのであれば、その後、金がどう流れたとしても、大学が損害を受けたことにはなりません。
この点は、今後、裁判で争われる見通しです。
一方で、注目すべきなのは、2人が調べに対して「田中前理事長側に合わせて7000万円以上を提供した」などと供述したことです。

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特捜部は田中前理事長が2人からリベートとして受け取った収入などを税務申告していなかったとして、先月(11月)29日に逮捕しました。
田中前理事長は、当初、現金の受け取り自体を否定していましたが、その後は一転して認め、2018年と去年(2020年)にあわせて5200万円を脱税した所得税法違反の罪で起訴されました。
一連の事件の詳しい経緯、そしてどう評価すべきなのかは今後の裁判しだいですが、今の段階で言えるのは、少なくとも大学のガバナンス、つまり管理・運営に重大な問題があったということです。
日本大学という規模の大きな大学の事業に関する権限がトップの側近に集中し、そこからトップに多額の金が流れるのは、大学の運営としてあまりにも不適切です。
大学の関係者は、誰もそれを是正することができませんでした。

問題の根本には、大学のOBである田中前理事長が、あまりにも強い影響力を持つようになっていたことがあります。
田中前理事長は日本大学相撲部出身で、JOC=日本オリンピック委員会の副会長を務めるなど、スポーツ界に幅広い人脈を持っています。
学内でも体育会や同窓会組織を通じて影響力を強めていったとみられます。

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2008年に学校法人の理事長に就任すると、2012年には総長のポストが廃止されて名実ともにトップとなり、大学の経営にあたる理事会のメンバーの選任にも影響力を持つようになりました。
そして同じく大学のOBでアメフト部出身の井ノ口元理事は、側近として力を持つようになっていきました。
日本大学は、今月(12月)10日、事件が発覚してから初めて記者会見を開き、管理・運営上の問題があったことを認めました。
後任の加藤直人理事長は「田中前理事長と永久に決別し、その影響力を排除する」と強い言葉を使って再生に向けた決意を述べました。
また、事件の舞台となった日大事業部については清算を視野に対応することや、外部の有識者を中心とする「日本大学再生会議」を組織し、来年(2022年)3月までに提言をまとめることを目指す考えを示しました。
会見の中で、加藤理事長は「田中前理事長が井ノ口元理事の採用を含めてある程度独断で決めていた点を問題視した」と述べました。
また、これまでの理事会の状況については、「理事会そのものが形骸化し、報告会のようになっており、互いのチェックを行う場になっていなかった」と説明しました。
本来、学校法人の意思決定機関であるはずの理事会が正常に機能していなかったことを認めた形です。
日本大学は田中前理事長を理事の立場から解任しました。
そして、大学の運営について意見を述べる評議員会のメンバーからも解任しました。
ただ、具体的に何が問題で、どう改善するのかは示されていません。
社会の信頼を失えば、人材が集まらなくなり、大学の質の低下につながります。
3月にまとまる再生会議の提言の内容と、その後の大学の対応が問われることになります。

最後に、私立大学の組織のあり方について考えます。
日本大学以外にも、ここ数年、私立大学の事業や運営に関連して理事長が起こした事件や不祥事が相次ぎ、組織の管理・運営を厳格にすべきだという声が上がっています。

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文部科学省は制度の見直しに着手し、弁護士や公認会計士などで作る「学校法人ガバナンス改革会議」が提言をまとめました。
ポイントは、外部のメンバーだけで構成する「評議員会」に強い権限を持たせることです。
私立大学が国からの助成金や税金の優遇措置も受けて運営されていることを重視して、管理・運営に透明性を持たせたいという意図があります。
現在は、私立大学の業務を決める最終意思決定機関は、学内の関係者を中心とする理事会で、評議員会は、理事会に意見を述べる「諮問機関」という位置づけです。理事が評議員を兼任することも珍しくありません。
今回の提言では、評議員会を「最高監督・議決機関」と位置づけ、現役の学校関係者を入れない学外のメンバーで構成し、理事の選任や解任、事業計画や予算などの議決権を持たせ、権限を強化するとしています。
こうした仕組みは、公益財団法人や社会福祉法人などでも導入されています。
大学も運営の執行機関と監督機関を完全に分け、チェック機能を働かせるのが狙いです。
権限を強化する一方、評議員に対しては、大学に損害を与えた場合は賠償責任を負わせるとしています。
しかし、この提言に対しては、強い反発の声が上がっています。

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私立の大学や短期大学の団体は「大きな懸念を抱く」とする声明を出しました。
特に問題視しているのは、評議員会のメンバーをすべて学外の人物とする点です。
声明では、「評議員会を株主総会と同視し、企業のガバナンスの考え方をそのまま私立大学の経営に導入しようとする点は、合理性を欠く」と批判しています。
学生の教育や研究に悪影響が出るという強い懸念がにじんでいます。
文部科学省は、学校法人の運営に関する法律の改正案をまとめることにしていますが、自民党からも懸念や反対の声が出ていて、提言の内容をどう反映させるか、調整が難航しています。
文部科学省は学校関係者も参加して合意形成を図る場を設けて、年明け以降も議論を継続する方針です。

外部のチェック機能を強化すると、顔ぶれしだいでは、教育や学問がゆがめられるおそれがあるという懸念は理解できます。
一方で、チェック機能が甘くなれば、また権力の集中を招き、信頼を失うことになりかねません。
今回の事態を踏まえて、十分なチェックが働く仕組みづくりを考えるべきだと思います。

(山形 晶 解説委員)

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