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翔平と恭平 27歳が拓く(ひらく)日本の未来

出石 直  解説委員 小澤 正修  解説委員

「ショーヘイ・オータニ!」
大リーグ、エンジェルスで投打にわたって大活躍しMVP・最優秀選手に選ばれた大谷翔平選手。
「キョーヘイ・ソリタ ジャパン!」
ショパン国際音楽コンクールで日本人としては51年ぶりの2位となった反田恭平さん。
ともに1994年(平成6年)生まれの27歳。2人の活躍はコロナ禍で沈みがちな私たちに大きな感動を与えてくれました。スポーツ担当の小澤委員とともに、2人の27歳の活躍から日本再生の鍵を探ってみたいと思います。

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【高い目標設定と実現する能力】
(出石)小澤さん、大谷選手の投打にわたる活躍は見事でしたが、大谷選手本人は、満足はしていないそうですね。

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(小澤)MVP受賞の際には「まだ1番にはなっていない。自分でそう思う日はおそらくこない」と話し、目標設定の高さをうかがわせました。大リーグ4年目の今シーズンは、二刀流として、世界トップレベルの選手を力でねじ伏せました。ともにプレーした大リーグの選手たちが1人だけ選ぶ、年間最優秀選手となり、さらにタイトルの中で最も権威があるとされるリーグのMVPも獲得。ただ、大谷選手本人は、タイトル受賞より、純粋にどこまでうまくなれるのか、チームの勝利にどう貢献できるのかを重視しています。「誰もやったことのないことをやりたい」と、野球少年のように、走攻守に渡って笑顔で全力プレーする姿は、多くの人にそうした姿勢を感じさせたのではないかと思います。成績にはもちろん手ごたえを感じているとは思いますが、MVPの受賞が決まった当日ですら、トレーニングを行っていたと伝えられています。野球の歴史を塗りかえる活躍をしながらも、大谷選手はさらなる進化を見すえているのだと感じます。

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(出石)高い目標設定という点では反田さんも同じです。ショパンコンクール出場は少年時代からの夢だったそうですが、本人は「コンクールはあくまで通過点に過ぎない」と話しています。大谷選手が二刀流なら反田さんは三刀流。ピアニストだけでなく、コロナ禍の中で自ら立ち上げたオーケストラの指揮者、さらには若手音楽家を売り出す音楽事務所の経営者でもあります。「将来は世界から日本に留学に来てもらえるような音楽学校を作りたい」と夢を膨らませています。西洋音楽の本場に行って学ぶのではなく、世界から日本に来てもらって西洋音楽を教えるというのは、これまでになかった発想です。

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(小澤)これまでの概念を変える、という点は、大谷選手にもあてはまります。そもそもプロでの「二刀流」は、本格的に取り組んだ選手がほとんどおらず、当初は日米ともに「実現は不可能だ」という厳しい声もありました。レベルが上がるほど自分の最も得意なことに特化するのが、技術を向上させて、試合に勝つためには合理的だとされ、大谷選手もピッチャーかバッターか、どちらかに専念すべきだ、と指摘されていたのです。しかし大谷選手は、自身の目標を達成するために、必要な要素を細分化し、それをひとつひとつクリアすることで、目標を実現しようと考えていたのだと思います。高校時代には、8球団からドラフト1位指名を目標に置き、必要なことを、体作りやボールのスピード160キロ、そして運を呼び込むための日常生活など8つの項目にわけ、それをさらに細分化して、自分に課していたことが知られています。大谷選手は同じような思考方法で、誰もが想像もできなかった二刀流を成功させたのではないかと思います。

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高い目標を設定し、周囲に何と言われようと目標を実現させる信念を持って努力を続けたことが大谷選手と反田さん2人を世界の高みに導くことができた理由ではないでしょうか。

【低成長・ネット世代】
(出石)2人が生まれたのは1994年(平成6年)、翌年の1月には阪神淡路大震災が発生、3月にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が起き、日本中が恐怖と混乱に陥った波乱の時期でした。少し前にはバブルが崩壊し、後に“失われた20年”“30年”とも呼ばれる景気後退期が続きました。

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こちらはGDP・国内総生産の推移です。右肩上がりの伸びを示すアメリカ、中国とは対照的に、日本は横ばい状態が続き2010年には中国に抜かれて世界第2位の座から転落しています。

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(小澤)一方で、1995年はウインドウズ95が発売され、インターネットが急速に普及した時期でもありました。パソコンやスマートフォン、SNSなどに囲まれて成長した若い世代は、こうした機器やサービスを抵抗なく受け入れ、活用していますが、大谷選手も例外ではありません。モーションセンサーなど最先端のデジタル機器を活用し、得られたデータと自分の感覚とをすりあわせながら、投球フォームやバットスイングの改善を続け、自らの進化につなげています。デジタル技術の活用に抵抗がないのは、野球以外の競技を含めて若いアスリートの特徴でもあります。うまくいかない時も「なぜできないのだ」と叱責せず、今の姿を数字で正確に映し出し、世界のトップ選手との違いも客観的に示してくれるデジタル技術の特性をうまくいかして、レベルアップにつなげているのだと思います。

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(出石)反田さんもインターネットを駆使しています。コンクールに備えてネットで過去の名演奏を研究したそうです。コロナ禍ではいち早く有料のネット配信を立ち上げ、演奏の機会を失った音楽家を支援しました。「スマートフォン世代として、柔軟で奇想天外なアイデアでクラシック界を変えていく」と話しています。

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とかく日本人は内向き、ガラパゴスなどと批判されることがありますが、ネットもスマートフォンも当たり前の時代に育った彼らは、軽々と時空を超えられる世代なのかも知れません。

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(小澤)様々な競技で、大谷選手の世代が、世界で「偉業」を果たす姿が目立ってきています。フィギュアスケートでオリンピック2連覇を果たした羽生結弦選手も同じ27歳。日本選手で初めてゴルフのマスターズ・トーナメントを制した松山英樹選手は29歳。個性や生きる力を重視した教育を受けてきた、いわゆる「ゆとり世代」にも該当します。この言葉はネガティブな意味で使われることもありますが、若い世代に接してきた筑波大学の山口香教授は「内向きの学生もいる一方で、高い能力を感じさせる学生も多い。平均的でないことは、ある意味、素晴らしいと思う。“スポーツは社会を映す鏡”と言われるが、個性を発揮する若いアスリートの登場は、多様化する社会の変化を表しているのではないか」と指摘しています。若い世代のアスリートが個性を発揮した活躍を続けていくことを、これからも楽しみにしたいと思います。

【まとめ】
(出石)「平均的ではない個性」がキーワードではないでしょうか。

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ことしのショパンコンクールではユーチューバーとしても知られる角野隼斗(すみの・はやと)さん(26)が三次予選まで進み世界の音楽ファンを魅了しました。

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反田さんに賛同してオーケストラの運営を支援している大手工作機械メーカー(DMG森精機)の川島昭彦(かわしま・あきひこ)専務執行役員は「今の日本は高度成長期の昭和のモデルから脱していない。これまでの常識にとらわれず、新しいことに勇気をもって挑戦する反田さんのような発想が、これからの日本を切り拓いて(ひらいて)いってくれるのでは」と話しています。
大谷翔平選手と反田恭平さん。2人の27歳の活躍は私たちに大きな感動を与えてくれました。低成長が続き閉塞状況に陥っている今の日本で、常識にとらわれず、高い目標を掲げ、それを実現できる若者が育ってきているのは本当に頼もしい限りです。世界を舞台にした若い世代の活躍に大いに期待したいと思います。

出石 直 解説委員 / 小澤 正修 解説委員)

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