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立民泉新代表 多難な出発

伊藤 雅之  解説委員長

立憲民主党の代表選挙は、泉健太政務調査会長が決選投票の末、新代表に選出されました。衆議院選挙で議席を減らした党をどう立て直すのか。代表選挙の論戦を踏まえ、多難な出発となった泉新代表の課題と立憲民主党が、野党第1党として果たすべき役割と責任を考えます。

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【結果分析】

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代表選挙は、140人の国会議員が1人2ポイント、参議院選挙の公認候補予定者6人に1人1ポイント。地方議員と党員・サポーターには、それぞれ143ポイントが割り当てられ、得票数に応じてポイントが配分される形で行われました。1回目の投票では 泉政務調査会長が、国会議員、そして党員・サポーターでトップとなり、地方議員でトップとなった逢坂元総理大臣補佐官が、これに続きました。
立候補表明がギリギリとなった小川国会対策副委員長は、国会議員で2位と善戦し、唯一の女性候補、西村元厚生労働副大臣も一定の支持を集めたことから、得票が分散し、いずれも過半数を獲得できず、決選投票に持ち込まれました。
そして、決選投票では、泉氏が、国会議員と47都道府県連の代表のいずれも逢坂氏を上回り、新代表に選出されました。
決選投票では、決選投票に残らなかった2人に投票した64人の国会議員の動向が注目されました。出身党派でみますと、3位で無所属から今の立憲民主党に合流した小川氏に投票した国会議員は、旧国民民主党から合流した泉氏を支持する一方、4位で立憲民主党に4年前に参加した西村氏に投票した議員は、合流前の立憲民主党で政務調査会長をつとめた逢坂氏に共感したという、おおまかな傾向もあったものと見られます。

【代表選で見えた課題】

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今回の代表選挙は盛り上がりに欠けたというのが大方の評価です。9月の自民党総裁選挙のように候補間の主張の違いや激しい応酬はありませんでした。自民党では、それが「党の活力や懐の深さ」と評価されるのに対し、立憲民主党の場合は、野党勢力の分裂が繰り返されてきたこともあって、「党のゴタゴタや分裂につながる」と見られてしまうという指摘があります。今回の代表選挙で、4人の候補は、ほかの候補の見解に同意する場面が目立ち、主張の違いを鮮明にするより、できるだけ一致点を見出そうという姿勢を強く感じました。新たな党の出発にあたり、結束を重視する姿勢が、盛り上がりに欠けたという指摘の背景にあり、同時に、立憲民主党の置かれた厳しい現状と代表選で詰め切れなかった課題を示しているように思います。

【問われる3つの総括】 

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では、代表選挙で詰め切れなかった課題は何か。
立憲民主党と泉新代表には、3つの総括が求められていると考えます。
まず「衆議院選挙の総括」です。なぜ議席を減らしたのか。共産党との共闘について、代表選挙で4人の候補は、来年の参議院選挙に向けて1人区では、与党対野党の1対1の構図を作る必要性では一致しました。泉新代表は、政権構想の中で、共産党をどう位置づけるかについては、見直すべき点があるとしながらも、「まずは党を改革することが先決だ」として、次の衆議院選挙に向けた課題として残りました。
また、泉新代表は、接戦で敗れた候補を中心に、次の衆議院選挙の第1次公認候補を年内にも決定する考えを明らかにしています。接戦の選挙区でなぜ競り負けたのか。比例代表で振るわなかったのはなぜか。党の足腰を鍛える。自前の組織力、地域での活動の強化は、待ったなしの課題であり、地道な努力が求められることになります。
もう一つは、「立憲民主党の4年間の総括」です。
4年前、衆議院選挙の直前に、野党勢力は分裂。そこで立憲民主党を立ち上げたのが枝野前代表でした。枝野前代表は、その後、野党の大きなかたまりをつくることを目指し、国民民主党などとの合流を実現し、共産党などとの選挙協力の体制を作り上げました。ただ、党の方針や政策づくりなどが、枝野前代表任せの体質にはなっていなかったか。党全体で、風通しの良い議論ができていたか。いわば党の創業者の辞任という事態によって、合意形成のあり方をどう見直すのか。方針や政策、問題意識の共有は十分にできていたのかが問われています。
そして3つ目が、「民主党政権の総括」です。立憲民主党は、かつての民主党政権で中核を担った幹部が主導してきました。ただ、民主党政権とその後の混乱から、立憲民主党に強い拒否感を抱き続けている有権者も少なくないと指摘されています。民主党政権に有権者は何を期待したのか。なぜそれにこたえられず、勢力が分散することになったのか。民主党政権の功罪をしっかり分析し、マイナスのイメージを払拭していく取り組みが、改めて求められているのではないでしょうか。
泉新代表は、党の執行役員について、代表選挙で争った3人を起用することを念頭に置くとともに、その半数を女性にしたいという考えを示しています。今回、代表選を争った4人は、いずれも民主党政権で閣僚や党の要職にはついていません。新たな人材の起用という点では第一歩といえるでしょう。ただ、人を変えるだけで、必ずしも党が変わるわけではありません。ベテラン議員の経験や能力、党の総合力を発揮するためにも、民主党政権の教訓をどう党運営に生かしていくのか、新代表がリーダーシップを発揮すべきテーマであるように思います。

【野党第1党の役割と責任】

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一方で、立憲民主党には、野党第1党としての役割と責任があります。それは政権をチェックすることと、政権の受け皿となることです。
政権をチェックするという点では、衆議院選挙で自民党は議席を減らしたものの単独で絶対安定多数を維持。数の上では与党が優位な状況が続きます。泉新代表は、「国会で自民党の方ばかりみて対抗し、国民への説明や発信が弱くなったのではないか」と述べています。「批判ばかり、抵抗ばかり」という指摘を恐れて、政権の「おごりやゆるみ」があれば正していく姿勢が揺らいではなりません。
「政策立案型政党」を目指す泉新代表にとって、試金石となるのが、12月6日に召集されることになっている臨時国会です。岸田政権に対して、どのように対峙していくのか。国会論戦の争点を提示する役割と責任は野党にもあります。ただ、国会運営に関しては、政権との違いに加えて、日本維新の会や国民民主党との関係も課題です。野党第1党として一致できる点では協力しながら、その違いも明確にしていかなければなりません。与党側が維新や国民と連携を深めることになれば、国会運営で立憲民主党の存在感がそがれる可能性もあります。泉新代表が積極的な姿勢を示している憲法論議への対応を含め、難しい局面が続きそうです。
そして、政権の受け皿となるための努力。政府・与党側は、分配や賃金の引き上げなどこれまで野党側が強く主張してきた政策にも幅を広げてきています。立憲民主党の政策と、どこに違いがあるのか。直近の政策課題はもとより、社会保障や少子高齢化など国民が抱いている長期的な不安をどう克服するのか。国民が政権をまかせても良いと感じられるような説得力のある構想で政権と競い合うことに活路を見出すことも考えるべきだと思います。

【まとめ】
今回の立憲民主党の代表選挙は、政権交代には、党の立て直しを含め時間がかかることが前提になっていたように思います。党に追い風が吹いている時には見えなかった課題が、厳しい状況に追い込まれた時だからこそ浮き彫りになり、地に足のついた党改革の議論ができるのではないでしょうか。そのうえで、国会での勢力は少なくても、政治に緊張感を生みだし、建設的な議論が行われるように政治の質を変えていく役割と責任が、野党第1党と泉新代表にはあることを指摘しておきたいと思います。

(伊藤 雅之 解説委員)


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