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自民党総裁選告示 焦点は

権藤 敏範  解説委員

次の総理大臣を事実上決める自民党の総裁選挙が告示され、4人が立候補しました。今回は本命が不在とも言え混戦となっています。激しさを増している総裁選挙の焦点とその要因は何か考えます。

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【候補者】

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「ポスト菅」をめぐって争われる今回の総裁選挙に立候補したのは、届け出順に、▼河野規制改革担当大臣、▼岸田前政務調査会長、▼高市前総務大臣、▼野田幹事長代行の4人です。
今回は本命が不在とも言え、勝敗を見通せない状況になっています。なぜ、混戦となっているのでしょうか。

【派閥の動向】

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1つは自民党内の派閥の動向です。
1年前に行われた前回の選挙では、党内の7つの派閥のうち5つが菅氏への支持を打ち出して早々に大勢が決しました。しかし、今回は、岸田派を除く多くの派閥で支持する候補の一本化を見送る方向です。自主投票を決めた派閥もあれば、複数の候補者を支持するとした上で投票は各議員の判断に委ねるという派閥もあります。

【派閥の思惑】
では、どうして一本化できないのでしょうか。
派閥としては、勝てる候補をいち早く見定めて支持することで主流派になるとともに、その後の人事で主要ポストに所属議員を起用してもらい求心力を保ちたいという思惑があります。しかし、今回は派閥としても誰が勝つのか見極めが難しくなっていることが、支持する候補者を絞れない要因だとみられます。

【若手議員の動き】
また、菅政権下の地方選挙などで敗北や苦戦が続いたことから、衆議院選挙が間近に迫り、「選挙の顔」になる総裁を選びたいという議員心理が強くなったことも要因の1つです。
それが端的に表れたのが、当選回数の少ない若手議員の動向です。
選挙基盤がぜい弱な議員も少なくないという事情もありますが、自民党に対し、少数の実力者による支配や派閥主導の『密室政治』という批判があるとして強い危機感を持っています。
自民党の当選3回以下の衆議院議員らが立ち上げた派閥横断の「党風一新の会」という新たなグループには、該当する126人のうち90人が参加しました。会では、「派閥一任ではなく自分の判断で投票できる環境にして欲しい」と党執行部にも伝え、こうした動きを派閥としても無視できなくなったと見られます。

【総裁選の仕組み】

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総裁選挙のしくみもポイントです。
今回は、国会議員票383票と同じ数の党員票383票のあわせて766票で争われます。前回の選挙より党員票の割合が高くなっており、党員からの支持で優位に立つ可能性のある候補はここで勝負を決めたいという思いがあるでしょう。
誰も過半数に届かない場合は、上位2人による決選投票になります。
この場合は、国会議員票383票と都道府県連に1票ずつ割り振られた47票のあわせて430票で争われるので、一転、議員票の比重が大きくなります。
党内には、候補者が4人になったことで票が分散し、「決選投票になる可能性が強まった」という見方が出ています。このため自主投票を決めた派閥でも、決選投票になった場合には結束して行動することを検討しているところもあります。新総裁の誕生に関与できれば、より影響力を行使できるようになるからです。
また、決選投票で派閥から1回目とは違う候補に投票するように求められた時に、その決定に従うのかどうか。決選投票で1回目の投票で示された党員の意思と異なる結果になった場合、衆議院選挙の運動にも影響が出るのではないかという懸念もあり、混戦の先を見通せなくなっています。

【参議院】
さらに、衆議院と参議院で選挙に向けた戦略に違いがあることも本命が定まらない要因の1つです。
直近に選挙を控えた衆議院に対し、参議院議員はより安定感のあるリーダー選びを重視するという見方もあります。というのも、新総裁が誕生しても参議院議員の任期満了まで10か月ほどあり、新型コロナ対策や通常国会など乗り越えるべき課題が多く、そこでつまずくようなことがあれば影響が少なくないからです。

【政策】

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さて、4人が訴える政策が議員の投票行動に大きな影響を与えるのは言うまでもありません。
安倍政権と菅政権で経済政策の中核だったアベノミクスについては、高市氏が財政規律重視が足かせになっていたとして大規模な財政出動を求めるのに対し、岸田氏は成長だけでなく分配の方を強化すべきだと主張します。エネルギー政策では脱炭素社会を実現していく上で原発をどのように扱っていくのかも論点の1つです。「脱原発」が持論の河野氏も安全が確認された原発を当面は再稼働していくのが現実的だという考えを示しています。野田氏は再生可能エネルギーの供給拡大を訴えます。
また、コロナ後の社会を見据えてどのような成長戦略を描いていくのか。それは人口減少が進む今の日本に相応しいのか。国民の分断にもつながっているとされるさまざま格差をどう解消し多様性をどう認めていくのか。決着の難しい問題にも実現のための具体的なプロセスを丁寧に示していくことが求められると思います。

【有力議員】

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また、今回は党内の有力議員の動向にも注目が集まっています。
▼安倍前総理は、政治信条の近い高市氏を支持する考えです。▼安倍氏や麻生副総理は、自らの政権運営に対して時に批判的な姿勢を示した石破元幹事長と距離を置いています。石破氏が河野氏を支援することで、逆に安倍氏や麻生氏に近い議員の支援を得にくくなるのではないかという見方もあります。▼二階幹事長は、事実上自らの退陣を迫った岸田氏とは距離があるとみられます。▼菅総理は、河野氏を支持すると表明しました。

このように今回の総裁選挙は、各派閥に加えベテランと若手、衆議院と参議院、有力議員の動向など勝敗を分けるポイントが多岐にわたり混戦となっているのです。

【衆院選】

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では、与野党の政治決戦となる衆議院選挙はいつになるのでしょうか。
総理大臣の指名選挙が行われる臨時国会は10月4日に召集される見通しです。そこから新総理による内閣の発足、所信表明演説、各党の代表質問などが行われると想定すれば、10月21日の衆議院議員の任期を超えて11月に選挙が行われる公算が大きくなります。

【野党】

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一方、野党側は、厳しい感染状況にもかかわらず臨時国会の開会要求には応じず自民党内の争いで政治空白が生じていると批判。総裁選挙より感染症対策に優先して取り組むべきだとしています。背景には総裁選挙によって埋没しかねないという危機感もあると見られます。野党側としては、新型コロナ対策をめぐる様々な問題は菅総理だけでなく自民党全体の責任だと強調し、総理が交代しても事態は改善しないとして、政策提言などを通じて政権交代の必要性を訴えていく考えです。

【まとめ】
総裁選挙の投票は今月29日です。
今回は、9年近く続いた安倍政権と菅政権を総括して、何を引き継ぎどう変えていくのかが問われる選挙になります。「コロナ禍の今、どうして総裁選挙を行うのか」という指摘に応えるためにも、選挙戦では、感染収束の道筋やその後の社会のあり方など先行きを不安視する国民の側に立った丁寧な議論が必要です。そして自民党は、国民の声が政治に届いていないのではないかという指摘を謙虚に受け止め透明性のある形で新しいリーダーを選ぶ、そして、そのリーダーのもとで自民党がどう変わり、この国のかじ取りをどのように担っていくのか、国民に分かりやすく示していくことが問われていると思います。

(権藤 敏範 解説委員)


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