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「熱海土石流~強まる"人災"の側面」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

静岡県熱海市で起きた土石流災害からあすで2週間になります。被害を引き起こした盛り土は市街地の真上に違法に造成されたもので、行政はそれを止めることができませんでした。背景に県や市の危機意識の薄さと条例による規制の限界、さらに自治体まかせにしてきた国の不作為という構造的な問題が浮かび上がり、「人災」の側面が強まっています。

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【解説 の ポイント 】

▼県・市の対応と条例の限界
▼相次ぐ盛り土災害と国の不作為
▼急がれる対策、を考えていきます。

【県・市の対応と条例の限界】
熱海市で起きた土石流は12人の命を奪い、16人の行方がわかっていません。
流れ下った土砂は5万5000立方メートル余り。
そのほとんどが上流にあった盛り土の崩壊によるもでした。

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土石流が流れ下ったのは黄色で示した範囲です。

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住宅街から遡っていくとⅤ字型の深い谷が続き、急斜面を800メートル上った最上部に問題の盛り土がありました。

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ここが大きく崩落し、大量の土砂が一気に流れ下りました。

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崩落現場を取材しましたが、もともと水が集まり土砂災害が起こりやすい場所に、
なぜ、あえて大量の土が持ち込まれたのか、強い疑問を抱きました。

盛り土はどのように作られたのでしょうか。
盛り土を行ったのは神奈川県にあった不動産業者です。
一帯の山林を購入し、条例に基づいて土を運び込む届けを出し、熱海市が受理しました。
平成21年から翌年にかけて谷を埋めて盛り土にしていきましたが、届け出より面積が広かったり、廃棄物が混ざるなどの違反が見つかりました。このため市や県は再三、指導を行い、中止要請も2度しましたが、「無視」され土砂搬入は続きました。
そして違法状態のまま不動者業者は土地を第3者に売却し、その後「廃業」しました。

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その後も土砂が搬入されていたことが確認されていて、静岡県は最終的な盛り土量は届け出の2倍の7万4000立方メートルに及んだ可能性があるとしています。

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違反が明白だったのになぜ工事を止められなかったのでしょうか。
不動産業者が盛り土をしたのは土を捨てるためだったと見られます。
盛り土について宅地造成や廃棄物を埋め立てる場合は法律で厳しい安全対策が義務付けられています。しかし建設工事で出たものなど土を処分する場合は直接規制する法律がありません。

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このため静岡県は独自の条例を作っていますが、規制は緩やかです。「許可」ではなく「届け出」で造成ができるうえ、完成後に行政が安全かどうか確認する「完了検査」も規定されていません。違反があった場合、停止を命じることはできますが、罰金は20万円以下とごく軽いものです。

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このため指導には限界があります。

例えば排水対策、安全上一番重要な点です。
不動産業者が当初、届け出た図面では土のえん堰で土砂を止め、簡単な排水設備も作るとされていました。

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最終的な盛り土の規模からするときわめて不十分な計画ですが、それすら「実際に作られていたのか」、さらに「作られたかどうかを熱海市が確認をしていたのか」、県は「現段階ではわかっていない」と説明しています。

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そもそも、このような場所に盛り土を認めるべきではないという指摘があります。
国土交通省の砂防担当の元幹部は「現場は水が集まる谷であるうえ市街地の真上で、ここにあえて盛り土をするのは砂防の常識では考えられない。どうしても造るのであれば、最低限、しっかりとしたコンクリートのえん堤を作って排水対策も万全にする必要がある」と話しています。

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市や県は盛り土が違法で安全上問題があることは認識できたはずですが、必要な対策は取られないまま、結果的に10年以上、放置されてきました。
盛り土の安全管理の責任は造成をした不動産業者や所有者にありますが、行政の対応も厳しく問われます。静岡県は専門家を交えた第三者委員会を作って検証をすることにしています。

【相次ぐ盛り土災害と国の不作為】

熱海市の現場にはほかの場所の建設工事で出た土「建設残土」も持ち込まれていたと見られています。建設残土は以前から全国で大きな問題になっていて自治体は国に対策強化を繰り返し求めてきました。

建設工事で出た土は運搬業者が引き取り、処分場に持ち込んで盛り土にするなどして処分されます。多くの処分業者は適正に処分していますが、コストを削るため不法投棄をしたり、山林を安く買い取って積み上げたままにしたりする例が後を絶ちません。反社会的勢力が関わっているケースも少なくないと指摘されています。
建設残土の崩落による被害も繰り返されています。国土交通省によりますと平成27年までの15年間に14件発生していて、これまでにも死者が出ていました。

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こうした実情にも関わらず建設残土を規制する法律がないため、自治体は独自の条例で防御していて21の府県が持っています。ただ条例で課すことのできる罰金は上限が100万円で抑止力には限界があります。廃棄物処理の法律による罰則は最大3億円なのと対照的です。

しかも条例による規制は「モグラ叩き」に例えられます。
条例のない自治体や、あっても弱い自治体に建設残土が流れていくからです。
例えば神奈川県が規制の強い条例を作ったため、条例はあるものの規制の弱い静岡県に多く持ち込まれるようになりました。静岡県の富士山麓の8つの市町は違法な持ち込みに悩み、県の条例より厳しい独自の条例を作りましたが、熱海市は作っていませんでした。富士市の担当者は「独自の条例を作り一定の効果はあったが、そうすると熱海市のように条例を持たない市町村に持ち込まれることになる。条例でなく法律で一律に対応する必要性を強く感じる」と話しています。

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【急がれる対策は何か】

では、熱海の災害を受けて何が求められるのでしょうか。
国は地形データから全国の盛り土を洗い出すことにしていて膨大な数になります。
ただ盛り土にはさまざまなものがあり、宅地の盛り土など多くは規制があって一定の安全は確保されています。優先順位をつけて、特に問題な建設残土の盛り土や違法な盛り土の対策を急ぐ必要があります。

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具体的には、
▼住宅地の近くや上流にある盛り土を調査し、危険であれば撤去を含め対策をする必要があります。大雨の時期にあり、自治体は国の抽出を待たずに調査を始めるべきです。

▼熱海市の現場は土石流危険渓流に指定され、下流の住宅地は土砂災害警戒区域に指定されて避難などの対策を進めている地域でした。にも関わらず、その上流に大量の土砂を捨てて盛り土にすることを認めること自体、矛盾した政策です。土砂災害警戒区域の上流に土砂を持ち込んで処分することを禁止するなど規制強化が必要です。

▼さらに建設残土について対応を自治体まかせにするのではなく、法律を整備するなどして全国一律の安全対策をする必要があります。廃棄物処理のように、建設工事を行って土砂を出した事業者が最後まで責任を持つことを明確にすべきです。

【まとめ】
熱海市の土石流災害は記録的な大雨が直接の原因ですが、見てきたように、調査が進むにつれて構造的な要因が絡み合った「人災」という側面が強まっています。法令の抜け穴や省庁・自治体の担当範囲の空白が重大な災害につながった事実を徹底的に検証し、抜本的な対策を急ぐ必要があります。

(松本 浩司 解説委員)

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