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「アフガニスタン米軍駐留最終局面に 国際社会に求められるもの」(時論公論)

二村 伸  解説委員

アフガニスタンに駐留するアメリカ軍が最大の拠点としてきたカブール近郊の空軍基地から撤収し、12日には作戦の指揮権がアメリカ本土に司令部を置くアメリカ中央軍に移りました。同時多発テロ事件から20年、「アメリカ最長の戦争」と呼ばれるアフガニスタンへの介入は最終局面に入りましたが、一方で、反政府勢力タリバンは全土で大攻勢をかけて支配地域を拡大しています。和平の道筋が見えない中でのアメリカ軍撤退はタリバンやテロ組織を勢いづかせ、長年にわたって復興支援を行ってきた日本など国際社会の支援活動への影響が懸念されます。アフガニスタンからのアメリカ軍撤退の影響と和平の行方、そして再びテロの温床とならないようにするために何が必要かを考えます。

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指揮権を移譲する式典は、12日、首都カブールのアメリカ軍司令部で行われ、アフガニスタン駐留アメリカ軍のトップ、ミラー司令官が退任し、作戦の指揮権がアメリカ本土で中東全体を管轄するアメリカ中央軍のマッケンジー司令官に移譲されました。式典で演説したマッケンジー司令官は「重要な一里塚だ。ただ物語の終わりではなく、1つの章が終わっただけだ」と述べ、引き続きアフガニスタンを支援する姿勢を示しました。

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今月2日にはカブールの北およそ50キロにあるバグラム空軍基地からアメリカ軍が撤収しました。2001年アメリカ同時多発テロ事件を引き起こした国際テロ組織アルカイダとそれをかくまったタリバンに対して空からの攻撃や後方支援を行ってきたいわばテロとの戦いの最大の拠点です。
アフガニスタンからの早期撤退を求めていたバイデン大統領は今年4月に、同時多発テロ事件から20年にあたる9月11日までの撤退を発表しましたが、今月8日「8月末をもって撤退を完了させる」と述べ、撤退の日程を前倒ししました。「オサマ・ビンラディン容疑者を殺害し、テロの脅威を排除した」と、当初の目的を達成したことを強調し、アメリカ軍撤退後はアフガニスタン政府が治安を維持できると述べました。

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しかし、これを見ると決して楽観できません。アフガニスタンのおよそ400の郡ごとに赤がタリバン、グレーが政府の支配地域をあらわしています。4月はタリバンの支配地域が全体の2割足らずでしたが、今は5割を超えています。バイデン大統領が撤退日程を発表した直後からタリバンが全土で大攻勢をかけたのです。政府軍が支配するのは全体の3割ほどで、タリバンに投降する兵士も後を絶ちません。
政府側は軍の兵士と警察官あわせて30万人、これに対しタリバンの兵士は6万人ほどで武器も軽装備です。極端なイスラム主義をとるタリバンを支持しないという国民が圧倒的に多いにもかかわらずタリバンが復活した背景には、▼汚職がはびこり十分な行政サービスを提供できない政府に対する住民の不満が強いこと、▼タリバンが麻薬や鉱物資源、それに通行料の徴収など豊富な収入源をおさえていること、▼それに恐怖による支配もあります。▼隣国パキスタンによる支援もタリバン復活の大きな要因です。タリバンは、イランとの国境にあるアフガニスタン最大の検問所を奪取したと主張、北部ではタジキスタンとの国境地帯の3分の2を支配下に置いたといわれ、多数の政府軍兵士が国境を越えてタジキスタンに逃げ込んでいます。
タリバンの攻勢に対抗するため、軍閥と呼ばれた地方の有力者たちが再武装する動きを見せています。北部では影響力のある元州知事や元副大統領が住民に武装蜂起を促しています。さらに国防相までもが、国民に対して「必要な武器を提供する」と、タリバンとの戦いに立ち上がるよう呼びかけています。タリバンと政府軍の戦闘に加えてこうした動きが和平をさらに難しくしています。

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去年2月にトランプ前政権とタリバンの間で結ばれた合意では、アメリカ軍やNATOの部隊が今年4月末までに完全に撤退する引き換えにアフガニスタン政府とタリバンが捕虜を交換し和平交渉を開始、アルカイダなどにアメリカや同盟国を脅かす活動をさせないことも盛り込まれました。しかし、アフガニスタン政府とタリバンの交渉は難航し、タリバンとアルカイダとの協力関係は今も続いていると見られています。
アメリカ政府は、ことし3月新たな和平案を示しました。タリバンとアフガニスタン政府が即時停戦したうえで、双方に閣僚を均等に割りふる移行政府を樹立し、新憲法のもと選挙を行って正式な政府を発足させると提案しています。
アメリカ政府は、ことし3月新たな和平案を示し、タリバンとアフガニスタン政府が即時停戦し、双方が参加する移行政府を樹立後、新憲法のもとで選挙を行い正式な政府を発足させるという提案です。
これに対しアフガニスタン政府は、即時停戦は受け入れるものの現在の体制を維持し、あくまでも選挙を通じて指導者を選ぶべきだとしています。
一方、タリバンは「イスラム国家」の樹立をめざしていますが、具体的な内容は明らかにしていません。対話を継続する姿勢を示してはいますが、アメリカが求めている和平会議への出席は拒んでいます。

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ではこれからアフガニスタンはどこへ向かうのでしょうか。最大の問題は治安です。戦闘やテロに巻き込まれて命を落とした一般市民は去年まで7年続けて3000人を超えました。今年に入って状況はさらに悪化し1月から3月までの死者は去年の同じ時期より29%増えました。さらにUNHCR・国連難民高等弁務官事務所は今年に入って27万人が住む家を追われ、「新たな人道危機に瀕している」と警告しています。
アメリカ軍の撤収作業はすでに95%終了し、残る海兵隊およそ650人がアメリカ大使館などの警備にあたるとされていますが、最後の撤退に向け治安が急速に悪化することも予想されます。アメリカ軍の通訳や運転手として働いていた現地の人たちはアメリカへの協力者とみなされ、身の危険があるため、アメリカ政府は国外に退避させる方針です。また、現地のフランス大使館は、アフガニスタン国内のすべてのフランス人に17日にチャーター機で出国するよう促し、それ以降は身の安全は保障できないと警告しています。アメリカ軍など外国軍の撤退が進むにつれてますます不透明感が強まっています。

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アメリカのバイデン大統領は、早期撤収への批判に対し、「無期限に駐留はできない。国づくりのためにアフガニスタンに行ったのではない」と反論していますが、混乱を横目に兵士を引き上げることに反発の声も上がっています。アメリカの新聞ウォールストリートジャーナルは、アメリカ情報機関の分析として「撤退後半年から1年でアフガニスタン政府が崩壊する可能性がある」と伝えています。最悪の事態とならないためにもアメリカは早急に和平プロセスを進めるための努力が求められます。
国際社会もアフガニスタンの人々が銃を捨て、新しい国造りにとりかかるよう後押しが必要です。そのために日本ができることも少なくありません。警察官の給与の支給や研修、元タリバン兵士の武装解除と社会復帰など治安回復のための支援はこれからも重要です。また、軍事的な関与をしてこなかった日本だからこそ、アフガニスタン政府とタリバンの対話の促進や信頼関係の醸成に貢献できるのではないでしょうか。アフガニスタンを再びテロの温床にしないためにも、アメリカ軍が撤退する今から始めることが重要です。

20年前タリバンの圧政から解放された人々の表情は今も強く印象に残っています。時代を後戻りさせないためにも国際社会はアフガニスタンを見捨てないというメッセージを送り続け、和平と自立を支えていくことが重要です。日本はその主導的な役割を果たしてほしいと思います。

(二村 伸 解説委員)

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