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「巨大企業に課税強化!各国が大枠合意」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

「グーグルやアマゾンは、普通の企業の半分も、税金を払っていない!」
こうした批判もきかれる中、日本・アメリカ・中国を含む、世界のおよそ130か国は、巨大企業の課税逃れを防ぐための新しい方針に、大枠で合意しました。
2年後にはこの新しい方針を実行に移せるよう、同意を得られていない国の説得を急ぎます。
これまでの国際課税の常識を、大きく変えるような合意の内容、そして、今後の課題について、お伝えします。

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【交渉の経緯】
最初に、これまでの背景を簡単に説明します。
現在の国際課税の制度は、およそ100年前にできたもので、製造業が中心の社会、「形のあるもの」を資産だとする制度が、土台となっています。
その後、時代の変化にあわせて、少しずつルールを置き換えてきたものの、デジタル化がすすむ今の社会には、時代遅れとなっている。
企業の税金逃れを止めるには、新しい制度が必要だと、指摘されてきました。

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たとえば▼多国籍企業が著作権や知的財産権といった形のない資産を、タックスヘイブンと呼ばれる税金の安い国に移して節税をする。
▼あるいは巨大IT企業がインターネットを通じた動画や音楽配信などで莫大な利益を得ているのに、その利益にみあうだけの税金を納めなくてすむ。
こういったことが起きていても、今のルールでは、企業に十分な税金を納めてもらうことができないのです。

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そこで、世界の139の国と地域は、OECD=経済協力開発機構を事務局に、新しい国際課税のルールを作ろうと10年近く、交渉を続けてきました。
そして、このうちおよそ130の国と地域が、今月ようやく、2つの新しいルールを導入することで一致。最終合意に向けた骨格が見えてきた形です。

【大枠合意①最低法人税率の導入】

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柱の一つは巨大企業の税金逃れへの対応策です。
法人税について「各国共通の最低税率」というものを、初めて、導入します。
これまで多くの企業は、法人税率がゼロまたは低めの国を選んで子会社を作り、節税をしてきました。
そして、それぞれの国も、企業を自分の国に惹きつけようと、際限のない「法人税引き下げ競争」を行ってきたわけです。

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そこで今回、合意されたのが「各国共通の最低税率」を15パーセント以上とすることです。先にお断りしておきますと、これは法人税率の低い国に、税率を15パーセント以上に引き上げるよう、強制するものではありません。
ですが、この方針の革新的な点は、企業がいくら税金の安い国に子会社を置いて節税しようとしても、これからは最低でも15パーセントの法人税を納めなければならなくなる、というところです。
法人税率が高い国が、低くしている国の分まで「あなたがもらわないのだったら、私がもらいます」とばかりに、税率が低い国にある企業の子会社の所得に課税できるようになるからです。
たとえばこちらは、A国に本社があるX社が、法人税率5パーセントのB国に子会社を置いている場合。
B国の子会社による利益について、
▼今のルールでは、5パーセントをB国に納めるだけで、すみます。
▼ですが、新しいルールでは、X社はB国に納める5パーセントに加え、A国にもさらに、10パーセント分を納めることになります。企業は、どう転んでも、あわせて15パーセント分を納税することになるのです。
こうなると、企業は法人税率の高い低いだけで、進出先を選ぶ必要があるのか?と考えることになります。
また、法人税率を低くしている国も、税率の低さだけを売りに、企業を自分の国に呼ぶのは難しくなります。
ちなみに日本の法人税率は29パーセント。
税率が低い国へ向かっていた企業やおカネの一部が日本に戻ってくることも、期待されています。

【大枠合意②巨大多国籍企業への課税強化】
次に2つ目の柱です。巨大なグローバル企業への課税を強化します。

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まず、「拠点なければ課税なし」つまり海外の国に工場や支店を置いていなければ、その国でどんなに利益をあげようと、課税できないという、これまでのルールを、やめます。
その上で、▼売上高が日本円にしておよそ2兆6千億円。
▼利益率が10パーセント。
を超える多国籍企業を対象に、
▼サービスを展開している先の国や地域に、拠点があるなしを問わず、
税金の一部を納めてもらう、というものです。
アメリカのIT企業が日本に支店や工場を置いていなくても、オンラインサービスなどで日本の消費者から高い利益を上げていれば、日本には一部の税収が入ることになります。一方、日本企業については幸か不幸か、売上高・利益ともにその水準に達している会社の数は限られ、当面の影響は限定的だとみられています。
ただ、条約発効から7年後には対象を売上高100億ユーロ、日本円で1兆3千億円を超える企業に広げることも視野に、見直しをすることも、合意されました。
このため、今後の議論に、注意をする必要がありそうです。

【交渉加速の背景】

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さて、国際課税の交渉は十年近く続いてきましたが、各国の利害が対立し、長い間、難航してきました。
ですが、ここにきて、130もの国と地域が抜本的な税制改革に賛同したのは、それだけ巨大企業に富が偏在していることへの危機感があったといえます。
さらに、新型コロナウィルスの感染拡大も、交渉を一気に加速させました。
特に大きかったのはアメリカの変化です。多くの巨大企業を抱え、これまで国際課税ルールの改革に乗り気でなかったアメリカが、バイデン政権になり態度を一変させました。コロナで傷ついた経済をたて直すため、大企業から、より多くの税収を得たいと考えているからです。
また、ほかの国々も、コロナ禍の中でむしろ利益を増やしている巨大IT企業から、さらに税収を得たいという考えが強まっていました。

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これまで反対をしてきたアメリカの気が変わらないうちに、国際合意をしたい、と思う国も多かったとみられます。

【大枠合意の意義】

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そして、米中対立が激しい中、国際課税のルールでは、アメリカも中国もおりあい、国際協調を実現できたことは大きな成果といえます。OECDの試算では、法人税の最低税率を15パーセントとした場合、世界全体で日本円にして16兆円もの税収が増えることが期待されています。
世界全体のGDPの90パーセント以上を占める国々が抜本的な税制改革で大枠合意できたのは、歴史的な合意に向けた大きな前進といえます。

【残る課題】
しかし最終合意に向けては、課題が残っています。

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▼アイルランド、ハンガリーなど法人税を低く抑えている国が今回は同意せず、こうした国をどう説得するかがカギとなります。
▼また、税率を低くしている国に配慮して例外措置を求める声があがっていて、新たな例外がどこまで盛り込まれるかが最大の焦点となります。
海外展開をしている日本企業からも、「税金逃れではない、実体の伴う企業活動については、きちんと区別してほしい」という声が、聞かれます。
ただ例外措置を盛り込みすぎれば、それだけ効果が薄くなり、抜け道も多くなります。
制度そのものが骨抜きにならないよう、できるだけシンプルな制度を、目指すべきではないでしょうか。

各国は9日・10日のG20財務相中央銀行総裁会議からの強い支持を得た上で、10月のサミットに向け、最終合意を目指します。交渉がゴール目前で、空中分解しないよう、先進国と新興国がともに参加するG20のリーダーシップが引き続き求められます。
国際課税というと、自分の暮らしからは遠く離れた世界の話に聞こえる、という方も、多いかもしれません。ですが、不公平な税制、時代にあわない課税制度は、富を偏らせ、格差を拡大させ、ひいては私たちの暮らしにも、影響を与えかねません。
時代の変化にあった「公平」なルール作りを、急いでほしいと思います。

(櫻井 玲子 解説委員)

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