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「東京に緊急事態宣言へ~感染対策とオリンピックの課題は」(時論公論)

小澤 正修  解説委員
牛田 正史  解説委員

【牛田】
新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は東京に4回目の緊急事態宣言を出し、沖縄の宣言を延長することを決めました。
期間は8月22日まで。東京オリンピックの期間をまたぎます。
感染を抑えるために何が必要なのか。
そして、オリンピックではどのような対応を取るべきか、考えます。

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■重点措置延長の見方もあったが、宣言決定
【牛田】
今回の緊急事態宣言、東京については当初、まん延防止等重点措置を延長するのではないかという見方もありました。というのも、医療のひっ迫は最も深刻なステージⅣにはなっていなかったからです。

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直近の7月7日に公表されたデータでは、東京の病床使用率は27%あまりでステージⅢです。
一方、過去の宣言時の状況では、ことし1月の2回目は、東京は61.4%と、ステージⅣの目安となる50%を大きく超えていました。4月の前回3回目の宣言では、東京は25%とステージⅢの水準だったものの、感染が拡大していた大阪は、すでに80%を超えていました。
病床がステージⅣでなくても緊急事態宣言を決定したのは、今後への強い懸念があったからです。

■なぜ東京に宣言を発出するのか

新型コロナウイルスの感染拡大は、まず人出の増加があり、次第に感染者が増えていきます。
そしてその後に、病床がひっ迫します。これに伴い重症者や死者も増えていきます。
つまり、人出の増加や新規感染者の数は、医療の先行きを見る上で、重要な先行指標になるのです。

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東京の主な繁華街の夜間の人出は、4月25日に前回の緊急事態宣言が出た後、一度、大きく減少したものの、その後、増加。
6月20日に宣言が解除された後は、さらに伸びが大きくなっています。
今後、夏休みに入れば、さらに増加することも予想されます。

そして新規感染者数です。人出が増え始めてから、1か月ほどして、増加に転じました。
7月7日には900人を超えています。
さらに感染力の強いインドで確認されたデルタ株の拡大も続いています。

病床のひっ迫はほかの数値より遅れて悪化する一方で、改善するのも遅れます。
宣言を出してもすぐにひっ迫が解消されるわけではなく、実際、大阪では、前回の宣言が出てから、病床使用率がステージⅣを脱するまでに1か月以上かかりました。こうした事態を避ける上でも、いまのタイミングで宣言が必要と判断したとみられます。

■再び強い制限 国や行政は感染抑制の責任が
【牛田】
そして、今回、打ち出された政府の方針です。

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東京と沖縄が緊急事態宣言、そして神奈川や大阪など4府県は重点措置の延長。
北海道や愛知などは重点措置を解除します。

緊急事態宣言の東京と沖縄では、飲食店に対して、再び酒類の提供停止を求めます。
大きな打撃を受ける店も少なくありません。制限や負担を強いるわけですから、国や行政は今回の宣言で、確実に感染を抑え込んでいく責任があります。
そして、宣言の期間は、7月12日から8月22日まで。
東京オリンピックは、宣言下での開催となります。

■東京オリンピックへの影響は?
【小澤】
では今回の緊急事態宣言は、東京オリンピックにどのような影響を与えるのでしょうか。

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最も大きいのは、観客の上限を見直すことになったことです。6月に政府、東京都、組織委員会、IOCなどの5者で行った会談では、観客の扱いについて、会場の収容定員の50%以内で上限1万人とすることで合意。ただその決定は、重点措置が解除された場合に適用される政府の基準に準じたもので、「状況が変化すれば無観客を含めて対応する」ともしていました。その後、東京を中心に感染者が増加傾向となり、東京都の小池知事が「無観客も軸として考えていく必要がある」と発言したほか、午後9時以降に実施される競技に観客を入れるのは、現状のコロナ対策と矛盾するのではないかという指摘も出ていました。このため、▼緊急事態宣言が出されたり重点措置が延長されたりした場合の基準にあわせて観客上限を5000人とする案や、▼すべての会場を無観客にする案なども浮上していました。一方で、組織委員会の財政面だけ見ても、完全な無観客では900億円を予定していたチケット収入がゼロになってしまうという懸念がありました。組織委員会が赤字となった場合は、東京都、政府が補うことになっています。大会の1年延期ですでに開催経費が膨らむ中、大会運営と感染対策との間で、難しい判断が迫られたのです。振り出しに戻った観客の扱いは7月8日に改めて開かれた5者による会談などで、1都3県の会場について、無観客とすることなどで合意しました。観客は、最終的に政府の基準よりも厳しい扱いとなりました。

■「会場の外」の人の動きも課題に
【小澤】
ただ、観客の扱いが決まっても、会場の外が課題になるのではないか、という指摘もあります。

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サッカーのヨーロッパ選手権では、上限を設けた上で会場に観客が入っていますが、チケットを持っていない人たちも開催地に集まり、マスクを着用せずに、大声で応援する姿も見られました。このうちイギリスではワクチンの接種が進んでいるとはいえ、直近でも1日3万人以上に感染が確認されていて、スタジアムの観客席だけでなく、その周辺やパブなどに集まった人たち、2000人への感染が明らかになっています。日本でもこれまでのスポーツの国際大会では、チケットを保有していなくとも日本選手を応援するため、街中で盛り上がる様子が見られました。観客席にいる人なら、行動ルールを順守しない場合、会場からの退去など措置を取ることができますが、会場の外については自粛を要請するしかありません。組織委員会と会場のある自治体などが連携して人の動きを抑え、感染対策の実効性を高める努力を続けていかなければならないと思います。

■中途半端ではなく徹底的な感染抑制を
【牛田】
一方、オリンピック以外での今後の焦点は何なのか。
1つは緊急事態宣言によって、感染をどこまで抑え込められるかです。

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去年の1回目の宣言では、解除した時の感染者数が7日間平均で6.9人まで減っていました。しかし、今年3月の、2回目の宣言解除の時は301人。
3回目の宣言解除では388人でした。
このため、リバウンドも早まっています。1回目と2回目の間は宣言が出ていない第2波がありましたが、それを考慮したとしても、間隔が狭まっています。

この緊急事態宣言は、一定期間が過ぎると、例え宣言が続いていても、人出が増え、感染者が減らなくなる難しさがあります。
それでも、度重なる宣言で飲食店などからは、もう限界だという声もあがっています。
政府は「最後の宣言にしたい」と言うならば、中途半端ではなく、感染を徹底的に抑え込む必要があります。そのために実効性のある対策が求められますし、私たちも、仮に一時的に感染者が減ったとしても決して油断せず、最後まで感染対策を取り続ける必要があります。

■説明と決断にスピード感を
【小澤】
オリンピックについては、すでにチケットがおよそ363万枚販売されていますので、まずは混乱が起きないようにすることが必要です。しかし、開幕まで残された時間はわずかしかありません。感染対策以外にも、観客の扱いの変更による警備体制の見直しなど大会運営上の課題は山積しています。組織委員会や政府、東京都は、少しでも多くの人が納得感を得られるような説明と課題解消への決断を、スピード感を持って続けていかなければならないと思います。

(小澤 正修 解説委員 / 牛田 正史 解説委員)

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