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「中国共産党創立100年~習近平氏が導く大国のゆくえ」(時論公論)

石井 一利  解説委員
神子田 章博  解説委員

中国では、政府の上に立つ中国共産党。創立から100年をむかえたなかで、党のトップである総書記を務める習近平国家主席は、大国をどう導こうとしているのか。この問題について経済担当の神子田委員とともに考えていきます。

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中国の首都、北京の中心部にある天安門広場では、1日、7万人の人たちが集まり、共産党の創立100年を祝いました。式典で習総書記は、建国の父、毛沢東主席の肖像画と同じ色の人民服とも呼ばれる中山服を着て、天安門の上に立ちました。党創立100年という大きな節目で、習総書記が毛沢東と並び立つような演出をしたように見えました。

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このなかで演説した習総書記は、その冒頭、「100年までの目標として掲げられてきた、ややゆとりのある社会=「小康社会」を全面的に実現した」と述べました。
自らが力を入れた政策で、大きな成果があったと、まず誇った形です。

神子田さん。経済分野では、演説で何に注目しましたか?

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(神子田)
習総書記時代になって強まった経済活動に対する共産党の統制が今後どうなるかです。演説の中で習氏は共産党が中国の経済発展に貢献した実績を強調したうえで、「党による全面的な指導を堅持する」として、共産党による厳格な管理を改めて打ち出しました。
中国経済は、1978年、当時の最高実力者鄧小平氏が、それまで統制と平等を重んじた毛沢東時代から一転して、経済活動の自由度を広げ、稼げるものから豊かになれという先富論を唱えることで、発展の足掛かりをつかみました。しかし、その後の経済成長の一方で、貧富の格差の拡大や、汚職や腐敗といったひずみも生じてきました。そうした中で習総書記は、経済活動に対しても党による統制を強く打ち出してきたのですが、今回の演説でいわば毛沢東時代への逆戻りを改めて感じました。

(石井)
習総書記が、演説で、共産党の一党支配の正当性を内外にアピールしたのは、来年の党大会での人事を意識したものかもしれません。

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中国共産党は、100年前の1921年7月、毛沢東らわずか50人あまりで結成。それが、現在、党員数9500万人あまりと、世界最大の人口を抱える大国を支配するまでになりました。演説では習氏は、共産党がこの先も中国を導いていくのだと、強調しました。その習氏は現在総書記として2期目をむかえていますが、その後継者は、いまだ示されておらず、次の党大会以降も、党の権力を掌握し続ける可能性が強くなっています。今回の式典が、そのための実績作りの場になったことは間違いありません。また、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、式典では7万人がマスクをはずし、感染の抑え込みをアピールしていました。
習氏としては、来年2月から始まる予定の冬の北京オリンピック・パラリンピックを成功させ、来年秋の開催が予想される党大会を無事に迎えることで、権力基盤を一段と強固なものにしたいと考えているものとみられます。

神子田さん、習総書記の思惑が成功するかどうか、大きなカギとなるのが経済情勢ですね?

(神子田) 
その経済ですが、中国が今後もこれまでのような発展を続けられるかというと、疑問視する声が多く聞かれます。

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中国はこれまで、巨大な市場をテコに外国企業を誘致し、その企業から最新技術を導入することで、発展の原動力としてきました。ところがいま先進各国は、中国が外国企業に技術の移転を強制してきたと批判。さらに、アメリカとの対立が激化するなかで、最先端の半導体が調達できなくなったほか、若い人たちが先進各国に留学して最新の技術を学び、中国に持ち帰る動きにも、警戒感が高まっています。

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このため、中国は外国に依存せずに技術開発を進めなければならなくなり、それには長い時間がかかることが予想されます。
もうひとつは人口問題です。

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こちらは、中国の人口の増加率の推移の推移を示したものです。1980年代にとられた「ひとりっ子」政策の影響で、人口の伸びは急速ににぶり、去年は0.1%にまで落ち込みました。このままでは、消費や労働力の支え手が弱体化することが予想されます。危機感を強めた中国政府は、5年前には子供を二人まで、今年5月には三人まで認める方針を打ち出しました。

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しかし私も中国で若い夫婦を取材したことがあるのですが、子供を良い学校に通わせ、ピアノなどの習い事をさせるのに多額の費用が掛かり、二人目を育てる余裕がないとか、価値観が多様化する中で子供を持たずに自分たちの生活を楽しみたいといった人が増えています。少子高齢化が、経済の足かせになると指摘されているのです。

(石井)
さらに対外関係では、中国は、先進諸国との関係が、厳しい状況になっています。

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特にアメリカとの対立は激しく「新冷戦」に入ったとも言われています。中国ではかつて鄧小平が示したとされる「韜光養晦」=つまり、発展するまでは外国とは争わないという姿勢を維持していたのですが、その姿勢は経済が発展するにともなって変化し、最近では「戦狼外交」とも呼ばれる強硬なものになっています。

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アメリカが新疆ウイグル自治区や香港、台湾などをめぐって繰り返す批判に対しても、「内政干渉だ」などと猛反発しています。
しかし、海外でのイメージが悪くなっていると、危機感を持ったのでしょうか。
習総書記は、5月、党の会議で、「謙虚で、信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージを作るよう努力しなければならない」と指示したのです。ただ中国はこれまでも「言っていることと、やっていることが違う」と指摘されてきており、イメージ戦略が効果をあげることになるか注目されます。

(神子田)
アメリカなどとの対立軸となっている自由な経済か国家による統制かという体制の違いは、社会主義の下で市場経済を進めるという中国自体が元から抱えている矛盾にもつながる問題だと思います。

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中国では去年、ネット販売最大手・アリババの創業者ジャックマー氏が、AIをつかった最先端の金融事業をめぐって政府を公然と批判したところ、その直後に、関連会社の上場が延期に追い込まれるという出来事がありました。「当局の不透明なさじ加減で、民間企業の経営戦略が左右されてしまう。」と経営者が受け取め、マインドを委縮させて、イノベーションが起きにくくなるのではという指摘が出ているのです。
中国政府は今国内と海外で経済を循環させて発展をめざす双循環政策を掲げていますが、私は内外をまたぐ二つの悪循環に陥るおそれを指摘したいと思います。

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党の統制によって、民間企業の力が削がれ、経済が停滞。それが国民の不満につながる。そこで、国民の目を外に向かせるために、対外強硬策をとり、それが先進各国の反発を招いて、貿易や技術の交流が縮小し成長を鈍らせる。それがまた国民の不満を招き、当局が社会の混乱をおそれて一段と統制を強めるというスパイラル的な悪循環です。
こうした悪循環を回避するためには、経済活動に対する統制色を弱め、対外関係も良好に保つ。一時期の姿に立ち戻る必要があるのではないかと思います。

(石井)
中国は、国内外に様々な課題を抱え、今後も順調に発展を続けていくとは言えません。日本との関係をめぐっても、沖縄県の尖閣諸島の周辺には、連日、中国海警局の船が航行し、緊張が続いています。振れ幅が大きく、距離感をとるのが極めて難しい隣国とむきあうには、過度な期待や過剰な反応をすることなく、毅然としながらも冷静な対応が求められていると思います。

(石井 一利 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)

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