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「東芝の企業統治に株主が『ノー』」(時論公論)

関口 博之  解説委員

東芝の株主総会で、永山治・取締役会議長など2人の社外取締役の再任が否決されました。
去年の株主総会をめぐり、東芝がいわゆるモノ言う株主などに不当に圧力をかけたとされた問題の責任を問われました。
株主から「ノー」を突き付けられた形の東芝の企業統治。
なにが問題だったのか、どう改めるべきか、東芝問題を企業統治の観点から考えてみます。

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東芝の取締役会には、指名・監査・報酬の3つの委員会が置かれています。
近年の大企業やグローバル企業が多く採用している形です。
画面で赤く描いたのが社外取締役、委員会に社内の取締役が加わることもありますが、基本は社外取締役を中心に運営されます。

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今回、外部の弁護士によって、「去年の株主総会が公正に運営されたものといえない」という調査報告書が出されましたが、そのあと、東芝は、監査委員会の委員長と委員を務めていた社外取締役2人を取締役の候補から取り下げました。
これは、監査委員会も実は、東芝の副社長や上席常務など経営幹部が株主対策で経済産業省と頻繁に連絡をとっていたことをつかんだのに、問題を指摘しなかったのは、その機能を果たしていないと報告書で指摘されたためでした。

そして迎えた25日の総会。
ここで指名委員会の委員長である永山取締役会議長と、もう1人の監査委員会の委員が再任を否決されました。
監査委員会のメンバーの人選をした指名委員会委員長として永山氏にも責任がある、というのが否決の理由と見られます。
この2人には、総会前に一部の海外ファンドが反対を表明していましたし、議決権の行使を助言するアメリカの大手2社も反対を推奨していて、これに従った機関投資家もいたもようです。

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一方、綱川社長など社内取締役2人と、社外取締役7人は承認されましたが新任の一人がその後辞任を申し出ました。
しかし、なんといっても社外取締役の筆頭格、製薬会社のトップを務め、経済界でも実績のある永山氏は、混乱を収めるかじ取り役だっただけに、東芝には大きな痛手です。ちなみに永山氏への賛成票は43%余り、反対はおよそ56%でした。

企業統治とは、企業の経営を大所高所からチェックする仕組みのこと、コーポレートガバナンスともいわれますが、この要は社外取締役です。
だからこそ東芝の株主総会でも社外取締役が批判にさらされたわけです。

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東芝は去年時点で取締役12人中10人が社外取締役でした。
社外取締役が多い方が好ましいというのが企業統治の考え方ですから東芝は形の上ではいわば「優等生」でした。
ところが実態はというと、外部の調査報告書は東芝が経済産業省と一体になって株主に不当な圧力をかけたと指摘しました。
「株主の権利の尊重」は企業統治の基本です。
それが、ないがしろにされていたのです。

「企業統治」の形ができていても、それがなぜ機能しないのか、実はこれは、他の日本企業にも共通する大きな命題です。

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そこでもう一度、社外取締役の現状に目を向けてみます。
社外取締役は本来、社長以下のいわゆる執行部の「監督・監視」をするのが役目です。
ですからそれに専念できるよう、専門家は、取締役会での意思決定を本当に重要なものに絞り、業務の執行にかかわる事は執行役に大幅に権限移譲すべきだとしています。
ただ、実際の取締役会は、必ずしもそうなっていません。
細かい業務上の判断まで取締役会にかかり時間を取られます。
社外取締役に求めるものも、社外の視点からの「アドバイス」にとどまっているという取締役会も少なくないのです。
これが、日本企業の企業統治の限界、中途半端さにつながっています。

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さて、ここで話を東芝に戻しますと、振り返れば今の東芝の混乱は、今年4月に始まっています。
まず、イギリスの投資ファンドから、東芝の株式を非公開化するという買収提案が持ち上がりました。
ところが当時の車谷社長が、そのファンドの日本法人の元トップだったことからこの提案の背景が不透明だなどとされました。
車谷氏は結局、辞任し、綱川氏が社長に復帰しました。

この場面では、取締役会による企業統治が働いているようにも見えたのです。
混乱の収束を担っていたのが、永山氏だったわけですが、今度は、その永山氏自身が再任を否決されてしまいました。
東芝にとっては先の見通せない状況といえます。

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東芝の今後はどうなるのでしょうか。
まずは、今回の問題の再調査です。
株主の権利行使などに不当な影響を与えたとされる執行役など経営幹部の行動、経済産業省とのやりとりなど、すでに会社も約束してはいますが、第三者を加えた再調査で、真相究明・再発防止をはかることが課題です。
また、それと並行して「経営体制の再構築」を図る、これも必要です。
東芝の取締役は取り下げや否決で8人に減ってしまいました。
この規模の会社の企業統治にはやはり不十分で、追加の取締役候補を選ばなければなりません。
東芝では「その際には株主とも対話をする」と言ってきました。
だとするとたとえば、モノ言う株主側が推す候補も、受け入れるのかどうか、これも大きなポイントになります。

そして東芝は臨時株主総会を開く、という段取りになります。
そこで新しい取締役会議長、今は暫定的に綱川社長が兼ねていますが、この取締役会議長を決めることになります。
筆頭の社外取締役という位置づけになる見通しですが、それにふさわしい人はいるのか、引き受けてもらえるのか、これは最大の難問といえます。

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最後に企業と株主の関係を改めて考えてみます。
反目しあうだけのものではないはずだからです。
東芝と、モノ言う株主の間でも、経営戦略を描き、企業の稼ぐ力を高める、そして成長力も高める、それによって企業価値を向上させるという目的は、共通するはずです。
そうすれば株価も上がるからです。
一方、もちろん意見の異なるところもあるでしょう。
限られた資金を、中長期的な投資や研究開発に回すのか、それとも株主に還元するのか、といった点で対立も生じるかもしれません。
それを建設的な対話で乗り越えるのが、企業と株主のあるべき姿です。
ただ今の東芝をとりまく状況では、こうした健全な対話が、株主と成り立つとは思えないのが心配です。

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もちろん、企業のいわゆるステークホルダー、つまり利害にかかわる人たちは株主だけではありません。従業員もいますし、取引先、そして顧客。
信頼回復はこのすべての当事者との間でも極めて大切です。
特に今回は現場の不祥事でなく、副社長・上席常務など一握りの幹部の不適切な行動が問題になったわけです。
それが、社内の士気を失わせないかも気がかりです。

一方、東芝は原子力・量子技術・半導体・防衛装備などの事業を持っています。
経済産業省もだからこそ、安全保障上、関与が必要だと言ってきました。
企業と当局はどのような距離感であるべきか、も問われています。
新たな取締役会議長、つまり筆頭社外取締役には、こうしたステークホルダーと、真摯に向き合って対話するという重い責任が待っているわけです。

(関口 博之 解説委員)

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