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「悪化するコロナ禍の難民事情 日本の取り組みは」(時論公論)

二村 伸  解説委員

6月20日は「世界難民の日」でした。難民の支援に理解を深めてもらおうと2000年に国連総会で制定されました。しかし難民を取り巻く状況は悪化し続け、最新の報告書によればその数は戦後最悪を更新しました。日本では先週サッカーワールドカップ予選のため来日していたミャンマー代表選手が帰国を拒み、日本政府に保護を求めました。難民に閉鎖的と言われる日本政府の対応が注目されています。新型コロナが蔓延する中でますます厳しい状況に追い込まれている難民たちの現状と課題、そして日本の取り組みを考えます。

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難民は、人種や宗教、政治的な意見や所属する集団などを理由に迫害を受けるか、そのおそれから国外に逃れた人たちと定義され、最近は紛争や人権侵害から逃れた人も難民と位置付けられています。難民の日にあわせてUNHCR・国連難民高等弁務官事務所が発表した報告書では、難民と、国境を越えずに避難生活を送る国内避難民、それに申請中の人もあわせると去年末時点でおよそ8240万人で、前の年より290万人増え、10年前の2倍、第二次世界大戦後もっとも多い数でした。このうち難民は2640万人、国内避難民は4800万人で、紛争が10年をこえるシリアは国民の半数が住む家を追われています。さらに世界では新型コロナの感染拡大によって住民の移動が制限され逃げ場を失った人や祖国に戻ることができない難民が増えています。

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新型コロナは、避難先での難民の生活にも重くのしかかっています。難民の86%が出身国の周辺など途上国で暮らしていますが、その多くが仕事を失い、難民を受け入れている国やコミュニティも難民を支援する余裕はなく、難民へのワクチンの接種も大きな課題です。
さらに避難した国に定住できない難民たちを欧米など別の国が受け入れる第三国定住も去年は3万人台にとどまりました。UNHCRは140万人が再定住を必要としていたと見ていますが、コロナ禍で各国が外国人の入国を制限したことなどから前年の3分の1にとどまり、この20年で最も少ない数でした。迫害や紛争から苦れた難民たちは新型コロナという新たな脅威にさらされています。

では、日本では難民の状況はどうなっているか見てみましょう。

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日本で難民として認定された人はおととしが44人、去年が47人でした。日本の難民認定数が少ないのは、海外に比べて厳しい基準のもとで審査が行われているためで、欧米では難民と認められる状況でも日本では認定されないケースが数多くあります。
一方、難民認定制度による受け入れとは別に、日本でも2010年度から第三国定住制度による難民の受け入れを始め、タイやマレーシアの難民キャンプで生活していたミャンマー難民、50家族194人が日本に来て新たな生活を始めています。去年からはミャンマー難民だけでなくアジアに住む難民に対象を広げ、数もこれまでの2倍の年に60人に増やすことになりましたが、新型コロナの感染拡大により実現していません。

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シリア人留学生の受け入れも止まったままです。JICA・国際協力機構と文部科学省はシリア国外に逃れた学生を5年間で150人受け入れることを決め、2017年度から20年度までに95人が来日しましたが、最終年度の今年は来日の見通しが立っていません。
シリア人留学生は千葉や東京、京都など全国5か所の日本語学校NPO難民支援協会でも4年間であわせて20人、国際基督教大学も4人受け入れてきました。しかし、今年度は新型コロナによる入国制限のため来日できない状態が続いています。日本の社会にとっても異文化への理解を深める場となってきただけに、コロナ禍で終わらせず今後も継続してほしいと思います

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こうした中で先週、来日中のサッカーのミャンマー代表選手が、日本政府に保護を求めて大きな話題となりました。27歳のピエ・リアン・アウン氏で、先月28日の日本との試合前の国歌斉唱の際に、国軍への抵抗を意味する3本指を掲げました。その後日本にとどまるためチームから離れようとしましたが監視が厳しく、ようやくチームが関西空港を出発する直前の16日深夜日本政府に保護を求めました。ピエ・リアン・アウン氏は、「ミャンマーに戻れば命の危険があるため日本にとどまることを希望した」と話しており、22日にも難民認定を申請することにしています。
日本政府はミャンマーのクーデター後の政情不安を受けて先月28日、日本に住むミャンマー出身者に対して緊急避難措置として半年あるいは1年間の在留と就労を認める方針を決め、先週末までにおよそ50人が新たな在留資格を得ました。難民認定の申請者には審査を迅速に行い、認定されなかった人にも在留と就労を認めるとしています。ピエ・リアン・アウン氏に対しては申請があれば適切に対応するとしていますが、日本には長年にわたって難民認定を待ち続けているミャンマー出身者が3000人います。在留資格の有無を問わず、保護を求めている人たちに対して迅速かつ幅広い救済が求められます。また、オリンピック、パラリンピックに出場する選手やスタッフの中で同じようなことが起きない保証はありません。そうしたときにどう対応するのか、1サッカー選手の行動は、日本の社会に大きな課題を突き付けたかたちです。

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閉鎖的と言われる日本の難民受け入れを変えるためには難民認定制度の抜本的な見直しが必要だと思います。それには、難民の管理より保護と自立を柱に据えた独立した機関の設置が不可欠だと多くの専門家が指摘しています。
制度の見直しとともに、難民への理解促進も欠かせません。学校など教育の場で難民問題を取り上げる機会が増えたこともあって、若者たちが積極的に支援活動に参加するようになりました。国会での入管法見直しをめぐる議論をきっかけに難民問題に関心を持つ若者が増えたと話す関係者もいます。
写真は6月20日の世界難民の日に行われたイベントです。難民支援協会が支援の現場をオンラインで紹介し、300人が参加、様々な質問を寄せていました。
京都の東寺五重塔と陸前高田の奇跡の一本松はことしも国連の色である青でライトアップされました。さらに東京と大阪、札幌の15の銭湯でも、お湯の色が青に染まりました。スポーツを通じた難民支援の一環で、キャンペーンに賛同する銭湯に大勢の若者が集まり、難民に関する企画を実施し、支援を呼びかけました。こうした様々なイベントを通じてこれまで存在すら知らなかった難民たちのことを知り、何ができるか考える若者が増えているということです。

他人の痛みがわかる寛容で開かれた社会にするために、また、日本が国際社会で信頼される国になるためにも、難民も含めた様々な外国人を社会の一員として迎え、日本に貢献してもらえるような施策を考えることが重要だと思います。同時に市民一人ひとりの意識の変革も求められています。コロナ禍で社会のありようが問われている今こそ開かれた国に変わるチャンスだと思います。

(二村 伸 解説委員)

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