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「通常国会閉会 問われ続けるコロナ対策」(時論公論)

田中 泰臣  解説委員

通常国会が閉会しました。終始、新型コロナウイルスへの対策が論戦の中心となった今国会。何が問われたのか、そして政治には今後何が求められるのか、考えたいと思います。

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《解散を見送り閉会》
6月15日の本会議で立憲民主党など野党4党は、会期の延長に応じなかったことなどを理由に菅内閣に対する不信任決議案を提出、与党などの反対多数で否決されました。自民党の二階幹事長は、「提出されれば衆議院の解散を進言する」とけん制していましたが、菅総理大臣が、解散に踏み切ることはありませんでした。コロナ対策を優先したほか、来月には東京オリンピックの開幕を控えていることなどを考慮したものと見られます。

《コロナ対応中心の国会に》
今国会、最後は与野党の対決色が前面に出ましたが、野党側が積極的に審議に応じる姿勢を示したこともあって、菅内閣の看板政策であるデジタル庁の設置をはじめ政府が提出した63の法案のうち61が成立、成立の割合は過去5年の通常国会で最も高くなりました。
150日間の会期中の多くの期間、首都圏や関西などに緊急事態宣言が出される状況となり、与党だけでなく野党にも、新型コロナウイルスにどう対応していくべきかが問われる国会になったと思います。

《与野党が協力し法整備》

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それを象徴したのが特別措置法の改正でした。自民党と野党第一党の立憲民主党が合意し審議入りからわずか4日間で成立させました。予算案の審議前にこうした法案が成立したのは異例のことです。この法改正によって、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出されている地域の飲食店などが、営業時間の短縮などの命令に応じない場合に過料が科される規定が設けられました。その一方で、「国や自治体が事業者への支援に必要な財政上の措置を講じる」ことも明記され、宣言が出されていた自治体からは効果を期待する声があがりました。
しかし今、これに応じず、罰則覚悟で営業を再開する飲食店が出てきています。酒類の提供停止が経営を圧迫しているほか、協力金を申請しても、自治体からの支給が遅く、営業再開に踏み切らざるを得ないという声も上がっています。

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また医療提供体制をめぐっても感染症法を改正し、厚生労働大臣や知事が、医療機関に対して病床の確保などの協力を求め、勧告にも従わない場合には公表できるようにしました。ただ医療のひっ迫が繰り返され、抜本的な制度改正が必要だという声が政府内にもあります。
2つの法整備にあたっては議論が尽くされていない面もあるだけに、運用上どうなのか、見直すべき点はないのか、不断に検証していくことが求められると思います。

《宣言解除をめぐり》

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この国会で大きな論点となったのが緊急事態宣言をめぐる判断についてでした。
政府は3月、1都3県で継続していた宣言を解除する方針を示します。これに対し立憲民主党の枝野代表は、「時期尚早」と反対、「第4波が生じたら内閣総辞職では済まない」と訴えました。これに対し菅総理大臣は、「専門家の意見を踏まえ判断した」と述べ、21日に解除します。しかし感染は再び拡大。4月には、政府の分科会の尾身会長が「第4波と言って差し支えない」と述べるほどになり、23日には、4都府県に再度宣言を出すことを決定しました。政権幹部の1人は、「経済活動が戻る中でのリバウンド、変異ウイルスの見通しが甘かったと言わざるを得ない」と話しています。
枝野代表は、先週の党首討論でもこれを真っ先に取り上げ、「解除が早すぎたことの反省を明確にすべきだ」と追及、菅総理大臣は、「専門家の委員会にかけて決定している。ロックダウンをした国でも簡単に収まっていない」と述べました。
政治責任を指摘する枝野氏に対し客観的な判断を強調する菅総理大臣。
どう判断していくべきなのか、国民にどのように理解を求めていくかは引き続き残された課題となっていると思います。

《国会の役割は?》
ここからは与野党で論戦となった国会の会期について考えたいと思います。

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会期をめぐって野党側は、「対策の議論を続ける必要がある」として3か月の延長を求めました。これに対し与党側は、「政府に対策に専念してもらう」などとして応じませんでした。政務三役の1人は、「国会が開かれている間は、8割の力を国会対応に割かなければならない。コロナ対策を検討する上でも影響はある」と話します。ただ与党側が延長に応じない背景には、来月に東京都議会議員選挙、その先に衆議院選挙が控える中でこれ以上、野党側に追及の機会を与えたくない、一方の延長を求める野党側には存在感を発揮できる場を確保したいという思惑もあったと見られます。
いずれにしても、コロナ対策は、国民の健康や生活に直結するもので、それを議論する国会の役割が重要なのは間違いありません。閉会中審査と言って与野党が合意すれば閉会中であっても委員会を開催できます。積極的な活用を求めるとともに、政府・各党ともこれまでの対応を検証し、緊急に必要な法整備などがあれば早期に臨時国会を召集して対応することも考えるべきではないでしょうか。

《切り札はワクチン》

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その国民の健康を守るために菅総理大臣が「切り札」として、陣頭指揮を執って強力に推し進めているのがワクチンの接種です。「7月末までに高齢者の接種を終える」という目標に続き、党首討論では、「10月から11月にかけて希望者全員の接種を終える」という目標も掲げました。あえて高い目標を掲げ、それを原動力に政府内や自治体を引っ張り、スピード最優先で進めています。政権幹部の1人は、「総理は目標を定めたら突き進む力はすごい」と話しています。ただ、どれだけ接種を急いでも、接種できない人や希望しない人への差別を防ぐような対策も必要です。
また感染者は減少傾向にある一方、人出が増加し再拡大のおそれも指摘されています。対策を進めるリーダーとして、実行力に加え、国民の協力を得るための納得と共感を呼ぶメッセージを出す発信力が求められます。

《五輪をめぐる論戦は?》

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その総理の発信をめぐり国会終盤で論戦となったのが、東京オリンピック・パラリンピックについてです。菅総理大臣が、「国民の命と健康を守り、安全・安心の大会にする」と繰り返す中、野党側が、質問の矛先を向けたのが、分科会の尾身会長でした。野党側には、政府に対策を提言する専門家のトップから開催によるリスクについて発言を引き出し、「安全・安心」との矛盾を指摘する狙いがあったと思います。尾身会長は、今月2日、「今の感染状況での開催は、普通はない」と発言しました。またリスクについて20日までに見解をまとめる考えも示しましたが、国会の会期中には示されませんでした。大会組織委員会などが6月中に判断するとしていた観客をどうするかについても同様です。国民から上がっている不安の声や、「自分たちは我慢しているのに」という不満の声にどう答えるのか。専門家の見解なども踏まえ、政府には明確かつ具体的に説明することが求められると思います。

衆議院の解散・総選挙は、今国会での解散が見送られ、9月の初めまでパラリンピックが開催されることを考えれば、9月以降にほぼ絞られたと言えます。
そこで問われるのは、国会でも議論となった、ワクチン接種など政府が進める対策への評価であり、一方の野党側は、経済対策も含めて、どのような実効性のある対策を打ち出せるかだと思います。また4年ぶりの政権選択選挙です。与野党ともにコロナ後を見据えた国家ビジョンを、どう示していくのかも問われることになると思います。

(田中 泰臣 解説委員) 

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