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「G7中国へのけん制姿勢で一致 背景と課題」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員
神子田 章博  解説委員

イギリスで開かれていたG7=主要7か国首脳会議は、中国へのけん制姿勢で一致しました。地位の低下もささやかれていたG7サミットは、価値観を共有する先進国のグループとして、存在の重要性が再認識された形です。

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〈総論〉

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G7サミットは、対面形式としては2年ぶりに開かれ、日本政府の関係者は、今回、共有されている目標は、「G7の再生」だと明かしました。アメリカのトランプ前大統領のもとで、欧米の関係がぎくしゃくし、機能不全も指摘されていたからです。3年前のサミットで公開された写真は、G7内の亀裂がもはや隠しようがないことを示すものとして、受け止められました。
今回、アメリカのバイデン大統領が、同盟国との関係を重視する姿勢に転じるなか、会議の雰囲気は一変したようです。
これは、各国の首脳がSNSに投稿した写真です。全体会議の間に行われる個別の会談では、欧米の首脳間に良好な関係が復活したことがうかがえます。
アメリカの姿勢の変化は、唯一の競争相手と位置付ける中国が経済・技術・軍事でアメリカを猛追し、もはや1国では対抗しきれなくなっている現状があるものとみられます。
今回のサミットでのアメリカと議長国イギリスの意図は、会議に先立って行われた米英首脳会談で、「新大西洋憲章」をまとめたことによく表れていると思います。そのモデルとなった「大西洋憲章」は、1941年にアメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相との間で交わされたものですが、この中には「ナチスドイツの専制政治を撃破する」という文言が盛り込まれていました。今回の憲章には「民主主義の原則を断固として守る」という文言があり、中国やロシアなどの権威主義的な国を念頭に、米英が基軸となって立ち向かう決意がうかがえます。
こうした中、会議でまとまった首脳宣言では、▼経済、▼安全保障、▼人権など、幅広い分野で、中国に言及し、けん制しています。では各論ごとに見ていきましょう。

〈経済安全保障〉

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具体的な議論が進んだのが、半導体や重要な鉱物資源など、産業競争力だけでなく軍事技術の向上に欠かせない製品や部品の供給網いわゆるサプライチェーンで、中国への依存度を低下させることです。
首脳宣言には「重要な資源や供給網のリスクについて対処する仕組みを検討する」という文言が盛り込まれました。
自前のサプライチェーンの強化をめぐっては、アメリカが先週半導体の生産や研究開発を支援するために日本円で5兆5000億円規模の国費の投入を議会に働きかけるほか、希少な資源のレアアースの採掘や生産の支援の強化する計画を打ち出しました。またEU=ヨーロッパ連合も2030年までに域内での半導体生産を倍増させるとしているほか、日本も、半導体など、企業が取り組むサプライチェーンの多元化を支援していくとしています。

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国家主導でハイテク産業の育成をはかる中国を相手に、G7各国は、これまで企業の自由競争に委ねていた分野で、政府との連携、さらに先進国間の連携を強めて対抗していく姿勢を鮮明にしたのです。
また宣言には途上国向けのインフラ支援を強化することも盛り込まれました。これも、中国の巨大経済圏構想一帯一路に対抗することを狙ったものといえましょう。

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さらに首脳宣言では、WTO世界貿易機関のルールの強化を通じて、外国企業に技術の移転を強制することや、知的財産権を盗み取るなど、中国が批判を受ける不公正な慣行に対処する厳しい姿勢を示したほか、「市場主義に反する政策に対しG7としての共同の取り組みを協議する」と強調しています。背景には、中国が急速な経済発展を遂げたのは、先進国が巨額の費用をかけて開発した最新技術を対価も支払わず利用してきたからだという認識があるものとみられます。

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トランプ前政権は、こうした問題をアメリカ単独による制裁措置で解決しようとしたのに対し、新たなG7体制では各国がいわばスクラムを組む形で中国に対峙するもので、ここに大きな変化が見て取れます。

〈安全保障〉

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安全保障面では、中国が核心的利益と位置付ける台湾をめぐり、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とする文言が盛り込まれました。台湾が首脳宣言に盛り込まれるのは初めてです。
ヨーロッパの一部の国は中国の反発を懸念して台湾に触れることに消極的だとされていましたが、日本とアメリカの主張が通った形です。台湾海峡の緊張が高まっていることを踏まえ、G7全体として危機感を共有しました。
また、東シナ海・南シナ海情勢をめぐっては、中国への名指しを避けつつも、「緊張を高めるあらゆる一方的な試みに強く反対する」としています。
今回の首脳宣言は、政治的に中国に強いメッセージを発した形で、今後は、実際に、中国に拡張主義的な動きを思いとどまらせられるかが問われることになります。
今回の会議には、日米と「クアッド」と呼ばれる4か国の枠組みを作るオーストラリアやインド、それに韓国も招かれました。さらに、このところイギリスやフランスが、海軍の艦船を相次いでインド太平洋地域に派遣しています。日米両政府は、日米同盟を強化しながら、多国間の連携も進め、抑止力の向上を目指すものとみられます。

〈ワクチン〉
会議では、新型コロナウイルスをめぐり、ワクチン10億回分に相当する支援を途上国に行うことで一致しました。ワクチン外交を展開する中国への対抗意識がみてとれますが、そのG7の中でも微妙な温度差があります。

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ワクチンをめぐっては、途上国が低価格のジェネリックワクチンを自由に生産できるよう特許権の一時停止を求めていて、この問題でこれまで慎重だったアメリカが一転して支持を表明。これも、中国のワクチン外交に遅れをとることで、途上国の間で中国に対する支持が広がってしまうのをなんとか避けたいという思惑が透けて見えます。しかしドイツは「特許権の停止は技術革新に支障を生じさせる」などとして反対を表明し、必ずしも一枚岩とはいえません。

〈人権〉

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日本も、G7各国との温度差が生じかねない問題も抱えています。
今回の首脳宣言では中国の新疆ウイグル自治区で強制労働などが指摘されることを踏まえ、「人権や基本的自由を尊重するよう中国に求める」とし、農業や衣類部門などでのあらゆる形態の強制労働に懸念を示しました。この問題で、欧米の先進各国は、人権問題を理由に制裁措置を発動しているのに対し、日本は根拠となる法律がないとして、制裁措置をとっていません。日本政府は「中国との話し合いを通じて状況の改善に向けた責任ある行動を促していく」としています。
しかし、今回のG7で、中国での人権問題への厳しい対応が合意されたことで、「今後、日本は中国に対し具体的にどのように働きかけ、どのような行動を求めていくのか」と、各国から厳しく問われる場面も予想されます。

〈まとめ〉
今回、G7は、中国に協力して対応する首脳宣言をとりまとめ、結束を取り戻したといえます。ただ、分野によっては、G7内の微妙な温度差も透けて見える結果となりました。中国共産党系のメディア、「環球時報」は、社説で、「G7の結束は見た目より弱い」と指摘しています。
米中の新たな大国間競争が長期化の様相を呈する中、G7は、中国の振る舞いに変化をもたらすことができるのか。その中で中国の隣国、日本は建設的な役割を果たせるのか。
結束の真価は、これから問われることになります。

(梶原 祟幹 解説委員/神子田 章博 解説委員)

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