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「実現するか? デジタル時代の国際課税 新ルール」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

「巨大企業の税金逃れは許さない!」
日本やアメリカを含むG7・主要7か国は、これまでの国際課税の制度を大きく変えるための新しい方針で一致しました。
国境を超えてビジネスを展開する大企業にその利益にみあった税金を払ってもらうため、今後は新興国や途上国からも同意を取り付け、デジタル時代にあった税制改革を実現したい考えです。
G7の狙いや、具体的な合意の中身、そしてこの先の課題について、お伝えします。

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先週末、ロンドンで2年3か月ぶりに対面方式で開かれたG7財務大臣会合では、国際課税のルールを変えるべく、まずはG7が歩み寄ろうという機運が高まっていました。
その背景には、巨大な多国籍企業が、本来払うべき税金を、十分に払っていないのではないか?という不満がありました。

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▼一つには、多くの企業が、「タックスヘイブン」つまり、税金をゼロないし低めに抑えた国に子会社を作り、利益をそこに移して、節税していることにあります。最近はデジタル化の進展で、著作権や特許といった無形資産が巨額の利益を生む時代となり、企業がその無形資産を戦略的に、税率が低い国の子会社に置くケースが増え、お金の流れがますます見えにくくなっています。

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▼もう一つは、グーグルやアップルといった巨大IT企業が「莫大な利益を上げながらも、普通の企業の半分も税金を納めていない!」という批判です。特に、企業の売り上げや利益に貢献した消費者が多くいる国に、法人税が入らない!という問題が生じていました。というのも、こうした企業はインターネットを通じ、音楽の配信サービスやオンライン広告といった形で海外でも大きな売り上げや利益をあげているにもかかわらず、「その国に支店や工場といった拠点がなければ課税されない」という、いまや時代遅れとなったルールに基づき、法人税を納めていないケースが多いのです。

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▼そして、さらに問題なのは、こうした状態が各国の間で新たな緊張を生んでいることです。企業からもっと税金をとろうと、ヨーロッパやアジアでは、一部の国がめいめいに「デジタルサービス税」といった新しい課税制度を取り入れる動きが出ていました。これに対し、巨大IT企業を多く抱えるアメリカが反発し、報復措置をとる動きをみせるなど、企業への課税を巡る国同士の対立が激しくなっていました。

こうした事態を打開しようと、新興国や途上国も含む世界の139か国は、パリに本部のあるOECDを事務局に、協議を重ねてきました。
しかし、各国の利害が対立し、交渉は長く、難航してきました。
それが今回のG7では、解決の糸口を探ろうという機運が急激に高まったのです。

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▼その大きな要因となったのがアメリカの姿勢の変化です。多くの巨大企業を抱え、これまで国際課税の強化に乗り気でなかったアメリカは、バイデン政権になって態度をがらりと変えました。コロナ禍で落ち込んだアメリカ経済を立て直すために行う景気刺激策の財源として、法人税率を上げて、大企業から、より多くの税収を得たいと考えているからです。
▼また、ほかの国々も似たような事情を抱えています。コロナ禍で財政出動が重なり、先進国の債務つまり借金は戦後最大になる見込みです。
このため、感染症拡大が続く中でもなお、利益を増やしている巨大IT企業などから、より積極的に法人税を納めてもらいたいという考えがどの国でも強まっていたのです。

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このような状況を背景に、G7・先進7か国は、このたび、2つの合意にこぎつけました。
一つは多国籍企業のタックスヘイブンを利用した節税や税金逃れを抑えるために
「各国共通の法人税の最低税率を15パーセント以上に設定するのを目指す」
ということです。いったいどういうことなのか?具体例で説明してみます。

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たとえば▼X社は法人税率が20パーセントのA国に本社があるとします。
子会社を税率がより低い、5パーセントのB国に置いている場合、B国で挙げた利益については、現在のルールのもとでは、B国に5パーセント分、納税するだけで済むわけです。

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▼ではG7が目指す新しいルールが採択され、最低法人税率が仮に15パーセントに決まった場合は、どうでしょうか?
X社がB国であげた利益のうち、X社はB国に払う5パーセントの税金に加え、A国には新たに10パーセントの税金を払う。
つまりA国とB国とであわせて15パーセント分になるように税金を払うことが求められます。
その結果、X社がわざわざ法人税率が低いB国に子会社を作っても、A国から、さらに課税をされ、どのみち15パーセント分は税金をとられることになるというのが、新しい点なんです。

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ですので、企業側からすると、子会社をわざわざ海外に作る場合、税率の低さというメリットはこれまでにくらべると薄れ、優秀な人材や安い労働力といった、その他のメリットに、より重きを置いて、進出先を選ぶことになります。
一方、B国、つまり法人税率が低い国は、法人税率を15パーセントまで引き上げることを強制されるわけではありません。
ですが、法人税を低く抑えるメリットは、かなり薄れることになります。
この点、国が企業にいくら税金をかけるか?というのは、本来は、各国の主権の根幹に踏み込むような話です。このため、今後の交渉では、法人税率を低く抑えている国からの反発も予想されます。

さて、G7は今回もう一つ、別のルールの導入もあわせて目指すことで一致しました。
巨大企業が海外で利益をあげている場合、実際に利益をあげている国で、より多く税金を納めてもらえる制度を導入しようというのです。

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対象は「売り上げが大きく、利益率が10パーセントを超えているような多国籍企業」で利益率が10パーセントを超える分は、実際に利益が出ている国で納税することになります。
もう少し単純な説明をしますと、例えば、アメリカの巨大IT企業が、日本に支店や工場を置いていなくても、オンラインサービスなどを通じて日本の消費者から高い利益を挙げていれば、日本に一部の税収が入ることになります。

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このように、多国籍企業の利益に大きく貢献している多くの消費者が物理的に住んでいるのに、それにみあった税金をとれていなかった国には、恩恵がもたらされます。
一方、巨大な多国籍企業にとっては、課税の強化となります。こうした企業を多く抱えるアメリカは、まずは売上高や利益率などからみて、世界のトップ100社程度に対象を絞ろうと提案し、交渉もその方向ですすんでいます。

では、日本への影響はどう考えればよいのでしょうか?
新しいルールが合意されれば、各国の法人税引き下げ競争に歯止めがかかることが期待されます。日本は法人税率が29パーセントとG7の中でも高い水準にあるため、国にとっては、大きなプラスとなります。
また日本企業への影響についても、東京財団の岡直樹研究員は
「ライバルである海外の巨大企業がきちんと応分の納税をすることになれば、その分、公平な競争が期待できる。日本企業の国際競争力が増すことになる」
と話しています。

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G7は11日から開かれる首脳会合で、国際課税の新しいルールづくりに向けた決意を改めて確認した上で、月末にパリで開かれる139か国の会合や、先進国に新興国を加えた来月のG20財務相中央銀行総裁会議での合意を目指して、協議を重ねることになります。法人税を低く抑えて外国企業の誘致に力を入れてきたシンガポールやアイルランドなどからは反発も予想されるほか、中国をはじめとする新興国がどんな対応をみせるかが焦点です。
世界経済に大きな影響力をもつG7が一枚岩となって、国際課税のルールの具体的な見直しにあたると表明できたのは、大きな、前進です。
多国籍企業への課税ルールが、時代の変化にあった「より透明性のある」「公平な」制度に、生まれ変わるか、注目されます。

(櫻井 玲子 解説委員)

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