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「"国家によるハイジャック" 非難強まるベラルーシ強権政治」(時論公論)

安間 英夫  解説委員

旧ソビエト・ベラルーシのルカシェンコ政権が、反体制派ジャーナリストの乗った民間航空機を強制的に着陸させて身柄を拘束しました。
空の安全を脅かしかねない“国家によるハイジャック”だとして、欧米を中心とする国際社会が一斉に非難を強めています。
この時間は、強権政治を進めてきたベラルーシの政権をめぐる問題について考えてみたいと思います。

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解説のポイント
・国家によるハイジャック“とその衝撃
・ベラルーシ ルカシェンコ大統領の意図
・対立するG7とロシア

【映像】
①“ハイジャック”はこうして起きた
・強制着陸させられたのは、(5月23日)、ギリシャからリトアニアに向かっていたアイルランドの民間機です。
・ベラルーシ領空を通過していたところ、航空当局から、爆発物が仕掛けられているおそれがあるとして着陸するよう命じられました。
・航路を見ますと、リトアニアの領空に入る直前、急に東に針路を変えたことがわかります。
・戦闘機が発進して、誘導したといいます。
・調べたところ、結局、爆発物は見つかりませんでした。
・その代わりベラルーシ当局は、乗っていた反体制派のジャーナリスト、ロマン・プロタセビッチ氏とその交際者を拘束したのです。

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・ベラルーシ航空当局は、イスラム原理主義組織ハマスから爆弾を仕掛けたというメールを受け取ったと説明し、
・ルカシェンコ大統領も、「スイスから警告が寄せられた」と主張しました。
・しかし、ベラルーシ側の説明は合理性を欠きます。
・まずハマスとスイス当局はいずれも否定しています。
・さらに到着予定地のリトアニアのほうが早く着陸できました。
・また爆発物がなかったことが確認できれば、そのまま離陸をさせればよかったはずです。
・ベラルーシの行動は、反体制派を拘束するため爆発物のおそれを口実にしたと受け止められても仕方がないでしょう。

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②欧米など国際社会の非難
・ベラルーシには、欧米をはじめ国際社会から一斉に非難の声があがっています。
・EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長、アイルランドの航空会社はともに、「国家によるハイジャック」と非難しました。
・EUの加盟国同士を結ぶ民間機が危険にさらされたことへの衝撃は大きく、
EUは(5月24日の)首脳会議で、ベラルーシの航空会社の、域内上空の飛行や空港への着陸を禁じる制裁を科すことを決めました。
・アメリカのバイデン大統領も「国際規律に対する侮辱だ」と厳しく非難し、
・日本政府も、加藤官房長官がベラルーシ政府を強く非難するとしたうえで、この問題の対応でEUやアメリカと連携をはかっていく考えを示しました。
・民間航空に関する国連の専門機関ICAOも、国際的な航空法に違反する行為があったかどうか事実関係を調査することになりました。
・ヨーロッパや日本の航空会社もベラルーシ領空の飛行を避け、国際航空にも支障が出ています。

・これに対し、ベラルーシの同盟国であるロシアは、擁護する姿勢を示しています。

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③なぜベラルーシは・・・
・ではなぜ、ベラルーシのルカシェンコ政権はこうした行動に出たのでしょうか。
・ルカシェンコ大統領(66歳)は1994年から27年ちかく政権につき、強権的な政治で“ヨーロッパ最後の独裁者”と言われてきました。
・しかし、去年8月の大統領選挙で不正疑惑が発覚すると、大統領の退陣を求める大規模な抗議行動にさらされました。
・拘束されたプロタセビッチ氏(26歳)は、ベラルーシ生まれで、10代から反政府活動に参加し、おととし政権による弾圧を逃れて隣国ポーランドに出国しました。
・そして秘匿性の高いSNS「テレグラム」を使った情報チャンネル、「NEXTA(ネクスタ)」を創設しました。
・国営メディアが報じない、政権側の不正の証拠や治安当局の横暴な取り締まりを詳しく伝え、抗議行動の大きな原動力となりました。
・政権にとってはやっかいな政敵となり、大規模な暴動を組織したとして国際指名手配されていました。
・実はルカシェンコ政権は4月にも、
別の反体制派の政治評論家ら3人が国家転覆と大統領の暗殺を試みたとして、
モスクワなどで身柄の拘束に踏み切ったばかりでした。
・反体制派の動きを封じ込めようと、焦りを強めていたことがうかがえます。

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④ルカシェンコ大統領の焦り
・ルカシェンコ大統領の焦りの根底にあるのは、欧米が介入してくるという強迫観念です。
・大統領は(5月26日)、「国内外の敵がレッドラインを越えて攻撃してくる。
 あらゆる手段を組み合わせた『ハイブリッド戦争』だ」と述べ、欧米に対する対決姿勢を鮮明にしました。
・欧米が民主化を主張しながら
反体制派を支援して政権転覆を狙い、思想や心理戦を含めた戦争をしかけているのではないかという疑念をぬぐいきれないのです。
・プロタセビッチ氏が向かっていたリトアニアや、最初に逃れたポーランドは、ベラルーシの反政権運動の国外の拠点となっていました。
・欧米とつながりを持つプロタセビッチ氏の活動をここにきて封じ込めたかったと考えたかもしれません。

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⑤対立するG7とロシア
・この問題をめぐって、日本を含むG7とロシアは対立しています。
・では、どう対処しているのでしょうか。
・G7は(5月27日)外相の共同声明を発表し、「前例のない行動」であり、「報道の自由への攻撃」にあたるとして、追加制裁の可能性にも言及しながら「もっとも強いことばで非難する」としました。
・しかし国連安全保障理事会で行われた協議では、拒否権を握るロシアがベラルーシを擁護する姿勢を示し、一致した立場を打ち出すことはできていません。
・このあと6月には、(11日~13日)、G7首脳会議がイギリスで行われる予定で、この問題を協議することになりそうです。
・またアメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の米ロ首脳会談が(6月16日)、スイスのジュネーブで行われる予定で、バイデン大統領はこの問題を取り上げる方針を明らかにしています。

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⑥ロシアの思惑
・では、ロシアのプーチン大統領はどう考えているのでしょうか。
・プーチン大統領は(5月28日~29日)、ロシア南部のソチでルカシェンコ大統領と首脳会談を行いました。
・この席でルカシェンコ大統領は、今回の強制着陸について理解を求めましたが、プーチン大統領はかつて欧米も同じように、ほかの国の大統領専用機を着陸させたことがあったと応じるにとどまり、直接的な支持は表明せず、あまり深入りしたくない姿勢をにじませました。
・プーチン大統領はベラルーシを擁護していますが、けっして、ルカシェンコ大統領個人や今回の行動を無条件で支持しているわけではありません。
・プーチン大統領の一番の目的は、ベラルーシが、親ロシア国家として維持されることです。
・ベラルーシの南隣にあり、ロシアが兄弟国と位置づけてきたウクライナは、政変で親欧米の国となりました。
・ロシアは、ベラルーシに対し、欧米の民主化の波や軍事同盟=NATOの脅威に対する防波堤としての役割を期待しているのです。
・この点でプーチン大統領に譲る構えはありません。
・今回孤立を深めたルカシェンコ大統領は、プーチン大統領に助けを求めたかたちとなりました。
・プーチン大統領への依存度は強まっていきそうです。

・今回のベラルーシ政府の行動は、国際規範を逸脱した疑いがあり、とても容認できるものではなく、一触即発の事態につながるおそれも排除できません。
・ただ、強権的な指導者や体制にいくら制裁を科しても、相手が聞く耳を持たなければ、その効果に限界があるのも現実です。
・ロシアが擁護するなかで、ベラルーシの強権政治にどう対処していくのか、日本を含むG7は、改めて難しい課題を突きつけられていると言えます。

(安間 英夫 解説委員)

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