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「教師の疲弊と人材危機 早急な働き方改革を!」(時論公論)

二宮 徹  解説委員

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今、教師の働き方や労働環境が大きな課題になっています。今年3月、文部科学省が立ち上げたSNSには、長時間労働の改善などを訴える投稿が相次いでいるほか、昨年度の公立小学校の教員の採用倍率は過去最低を記録しました。
なぜ今、教師たちから悲鳴が上がるのか。そして、学校の働き方改革をどのように進めるべきかを考えます。

<「♯教師のバトン」とは?>

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教師の働き方や労働環境が、今、あらためて注目されているのは、「♯教師のバトン」という文部科学省の取り組みがきっかけです。このプロジェクトは、全国の教師や教員志望の学生などに各地の取り組みや思いを知ってもらい、学校の改善や志望者の増加につなげようと、3月26日から文部科学省が始めました。
ツイッターやインターネット上の投稿サービス「note」で、情報や意見を発信してもらいます。ハッシュタグという機能で共有し、匿名でも構いません。例として、「新しい教育実践」、「業務改善のためのちょっと一工夫」、「教師をやっていてよかったと思う瞬間」などを挙げ、全国や若い世代に「バトン」としてつなごうと呼びかけています。

<ツイッターにあふれる“悲鳴”>

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しかし、実際に始まってみると、期待とは裏腹に、ツイッターには厳しい現状を訴える投稿が相次ぎました。
「長時間労働でうつ病になりました」「教師はブラック企業」「残業100時間なんて当たり前」「やめたい でも子どもたちを思うと頑張らざるをえない」など、悲痛な投稿が目立ちます。
これに対して、文部科学省は、「厳しい状況を再認識した」「改革を加速化させていく」と掲載しています。
中央省庁が特定の職業の人たちに匿名のSNSでの発信を広く呼びかけるのは異例で、厳しい声が出ることも覚悟の上だったといいます。
文部科学省には、本気で改革を進める姿勢をもっと強く示すことで、教師たちの思いに応えてほしいと思います。

<学校現場の実態は?>
教師が疲弊しているのは、仕事が多すぎて、あまりに忙しいからです。

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授業の準備や事務書類の作成、会議や研修、多様化する子どもや保護者への対応のほか、日本語指導が必要な子どもやいじめ・不登校への対応も増えています。コロナ禍の今は、消毒や子どもの体調確認、学校行事の計画変更なども増えました。さらに、今年度は小中学生にタブレットなどの1人1台の配備が進み、デジタル化への対応も迫られています。

<データが示す厳しい労働環境>

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厳しい労働環境はデータにも表れています。
OECD・経済協力開発機構の2018年の調査によりますと、日本の中学教師の1週間の仕事時間は56時間。48の国と地域の中で最も長く働いています。特に部活動などの課外活動や事務作業が突出して長いのです。
また、2019年度にうつ病などで休職、または1か月以上休んだ教員は、公立の小中高校などで合わせて1万人近くにのぼりました。
教員を志望する若者も減っています。公立小学校の教員の採用倍率はこの10年、下がり続け、昨年度は2.7倍と、過去最低にまで落ち込んでしまいました。地域や教科によっては、採用に支障が出始めているといいます。

<制度改革は進むが…>
こうした中で、教師の負担軽減につながる制度改革が、少しずつですが進んでいます。

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今年度から小学校の1クラスの人数の上限を、40人から35人に引き下げる「少人数学級」が、41年ぶりに実現しました。テストの採点や家庭との連絡などの負担が減ると期待されます。
また、来年度からは小学校の高学年に「教科担任制」が導入され、一部の教科を担任ではなく専任の教師が教えるようになり、授業準備の負担が減ります。
さらに、部活動の外部委託も進んでいて、土曜日曜の部活動を地域のスポーツクラブに移行させることなどが検討されています。
10年で更新する教員免許制度も、30時間の講習が必要なことなど、抜本的に見直す方針です。
しかし、課題も多く残っています。例えば、35人学級が決まったのは小学校だけです。しかも、教育界は30人を要望していたのに、予算の関係などで35人にとどまったうえ、1年に1学年ずつなので、完了までにあと5年かかります。教科担任制や部活動の外部委託なども、かえって事務作業や打ち合わせが増える懸念があります。

<事例集活用で工夫・改善を>
今、学校現場では、働き方改革を今すぐ、しかも強力に進めることが求められています。しかし、仕事を減らすと言っても、何をどうやって削減するのか。実践するのは容易ではありません。

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このため、文部科学省は、全国の学校現場の働き方改革を集めた事例集を発表しました。学習や学校行事、保護者対応など、あらゆる面で負担を軽減する工夫を紹介しています。
例えば、部活動では、新入生に希望を聞いたうえで統廃合した学校や、地域のスポーツ団体に協力してもらったり、複数の部が合同練習したりして、顧問の負担を減らしたケースを紹介しています。
また、学期末の忙しさの原因となっている通知表については、所見欄を廃止や削減して、保護者面談で直接伝えることにした学校もあります。
これまで続けてきた業務を削減・整理するには、地域や保護者の理解や協力が必要なことも多く、この事例集は、そうした場合の参考にもなります。学校や教育委員会は、地域や保護者との連携を深めながら、工夫や改善を積み上げていってほしいと思います。

<管理職の意識改革が不可欠>
そして学校現場の働き方改革を進めるうえで欠かせないのが、校長や教頭ら管理職の意識改革です。

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「♯教師のバトン」には、勤務時間を実際より少なく申告させられているという投稿が少なくありません。
いわゆる「サービス残業」を不当に押し付けたり、暗黙の了解にしたりしている学校は、直ちに改めなければなりません。
また、今回、私が現役の教師に取材する中で、「管理職から『♯教師のバトン』には投稿しないように言われた」という声をいくつも聞きました。投稿を呼びかけている文部科学省は、「上司の許諾は不要」と明記しています。
校長や教頭、教育委員会は、現状から目を背けず、教師が子どもたちに生き生きと教えられる環境をつくる責任があります。

本来、教師の仕事はやりがいや魅力にあふれているはずです。しかし、日本の教育は、そのやりがいや先生たちの熱意に頼って、負担が増えるのを見過ごしてきたのではないでしょうか。
日本は今、教育に限らず、あらゆる分野でデジタル化や国際化、多様化などへの変革を迫られています。
その中で、新しい時代の人材育成を担う教師の役割は重要です。今すぐに具体的な改革を進めてほしいと思います。

(二宮 徹 解説委員)

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