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「緊急事態宣言延長 変異ウイルス対策 急げ」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

政府は、緊急事態宣言の期限を延長することを決めました。これにより、東京や大阪など10の都道府県に出されている「緊急事態宣言」の期限は、いずれも2021年6月20日までになりました。併せて、8つの県が対象となっている「まん延防止等重点措置」についても、一部は期限が延長されました。
ワクチン接種が続く中、変異ウイルスによる感染拡大をどう抑えて、ワクチンの円滑な接種と医療提供体制を維持するのか、いま大切な局面を迎えていると思います。

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解説のポイントです。
▽緊急事態宣言が延長された国内の感染の現状を見た上で、
▽変異ウイルスの感染拡大で、より難しくなっている対策、
▽今後、その対策に求められることは何なのか、考えます。

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「緊急事態宣言」は、5月31日が期限だった東京都や大阪府など9つの都道府県は来月=6月20日まで延長されました。もともと6月20日までだった沖縄県の期限はそのまま維持されます。一方、8つの県に出されている「まん延防止等重点措置」は、6月13日が期限の3つの県はそのままに、他の5つの県は6月20日までに延長されました。

宣言が出されている地域の感染状況を見てみます。

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こちらは、東京都と大阪府の、1週間の新規感染者数を人口10万人あたりで見たグラフです。東京、大阪ともに、減少傾向になってきています。ただ、政府は15人以上を「ステージⅢ」、25人以上を「ステージⅣ」としていますので、いずれも、5月27日の時点でステージⅣの中にあります。緊急事態宣言の10の都道府県をみると、京都府と兵庫県以外はステージⅣです。沖縄県は、今も急激に増加しています。感染症の専門家からは、宣言の解除には、リバウンドの危険性などを考えて「ステージⅢの下」=ステージⅡまで下げる必要があると指摘されています。現状は、感染者数をさらに下げることが求められているのです。

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ステージの判断をする指標は、いま、みてきた「人口あたりの新規感染者数」だけではありません。7つの指標があります。たとえば兵庫県は、この表の左側=「感染状況」の指標は、ステージⅢか、それ以下になっていますが、医療提供体制は、3つがステージⅣで、病床の使用率などが高いことが分かります。10の都道府県全体を見ても、多くの指標がステージⅣです。感染状況をステージⅡまで下げて、医療提供体制に余裕がある状況にするためには、依然として強い対策が必要で、宣言は延長されました。

いま、対策を難しくしているのが、変異ウイルスです。

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全国でみても、感染者の80%、あるいはそれ以上は、イギリスで見つかった変異ウイルスとされ、既に「一部の地域を除いて、従来のウイルスからほぼ置き換わった」とみられています。感染力が、従来の1.3倍ないし1.5倍ともいわれています。

変異ウイルスが感染状況に、どう影響したのか。国内で早くから変異ウイルスが広がった大阪でみてみます。

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こちらは、大阪府の1日ごとの新規感染者数です。ことし3月中ごろから感染者の急増が長く続きました。一方、対策などによって、人の動き=「繁華街の人の数」が減少しても、それが感染者の減少につながるまでに、5週間と長い期間がかかりました。
専門家は、変異ウイルスの高い感染力によって、「感染者が増えると、急速な増加につながりやすく、対策をしても感染者の数を抑えにくくなっている」と分析しています。

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変異ウイルスの感染拡大を抑えるには、一層強い対策が必要になっています。

では、どのようなことが求められるのか。変異ウイルスの対策は、必ずしも従来と同じ考えで対策するのでよいということではありません。

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基本的な対策では、これまで、密閉、密集、密接の3条件が重なる「3密」が、特に感染リスクが高いとされていました。しかし、感染力が高い変異ウイルスでは、条件が重なっていなくても、注意が必要になってきています。

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変異ウイルスに焦点を絞った対策は、具体的には、まとめられていませんが、対策の考え方として専門家の中からは、「マイクロ飛沫」による感染をより重視する必要があるという指摘が聞かれます。マイクロ飛沫は1000分の5ミリ未満という小さな飛沫で、感染者の周辺に一定時間、漂っている可能性があります。従来は、リスクが低いとされた状況でも、変異ウイルスでは、感染リスクがあまり下がっていない恐れがあります。
感染しないために、特にマイクロ飛沫対策で重要な「換気」の一層の徹底が大切になると考えられています。さらに、他の人と一緒にいる時間を短くするとか、これまで以上に距離をとる、といったことを心がけることが、一層大切になるかもしれません。
変異ウイルス対策として、どのような点に注意することが大切なのか、政府や専門家には、そのポイントを早期に示すことが求められていると思います。

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他にも、たとえば、感染者が見つかった場合、濃厚接触者の調査の範囲を広げる取り組みをしている自治体もあります。こうすることで、感染力の強い変異ウイルスの拡大を見逃さないようにしようとしています。
ただ、調査をおこなう保健所などの体制には限りあるので、感染者数が一定程度少なくなっていないと実効性を上げるのは難しくなります。

さらには、「緊急事態宣言」や「まん延防止用重点措置」を適用する際、変異ウイルスの特徴を考慮することも大切になると思います。

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大阪では3月以降、感染者が急増して、医療提供体制が極めて深刻な状況になってしまいました。4月5日、まん延防止等重点措置が適用、4月25日に緊急事態宣言が出されましたが、「宣言をもっと早く出した方が効果的だった」とする指摘もあります。急速に感染が広がる変異ウイルスに、重点措置や宣言をどのタイミングで出すのが適切なのか。今後に向け、分析・検証することが求められると思います。

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緊急事態宣言が出されている地域では、感染者の数をステージⅡまで抑えることを目指しています。感染者数を下げられるほど、医療機関の体制も整い、ワクチン接種の円滑な実施につながると考えられます。しかし、第3波のときの東京都がそうだったように、感染者の数が一定のレベルから下がらなくなるかもしれません。
政府には、こうした様々なケースについて、どのように宣言を解除するのか、しないのか。
変異ウイルスによる「リバウンド」=感染の再拡大を抑えるために、どういった対策を維持するのが効果的なのか、検討し、その考え方を国民に示すことが必要だと思います。

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いま、そうした検討に時間をかけている余裕は、あまりありません。イギリスで見つかったウイルスよりも、さらに感染力が高いとされる、インドで見つかった変異ウイルス。これが日本国内でも感染者が確認されています。感染力は、イギリスで見つかったウイルスの1.5倍、従来のウイルスに比べると、2倍以上高いとも言われています。
今後、国内のウイルスが、インドで見つかったウイルスにさらに置き換わるおそれがあり、感染を抑えることが一層難しくなることも想定されます。
時間との勝負になっています。

国内は、いま感染の収束に向けて、ワクチン接種を加速させる重要なときです。ワクチン接種に影響が出ないよう、感染拡大を抑えることが必要です。政府は、緊急事態宣言が延長されたこの時期に、変異ウイルス対策を具体的に示し、
その対策について、国民の理解と協力が得られるようにすることが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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