NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「福島県沖の地震 教訓を生かせ 新幹線の地震対策」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

2021年2月に起きた福島県沖を震源とする地震で、東北新幹線が被害を受けました。
電柱が傾いたり、架線が切断したりしました。11日後、東北新幹線は、全線で運転を再開しましたが、地震対策の課題も見えてきました。
この地震の新幹線の被害を見ると、電柱については対策が間に合いませんでした。大きな地震があると、電柱が傾く被害があることは、40年以上前からわかっていましたが、防げませんでした。
新幹線の地震対策に求められることについて、考えます。

j210521_1.jpg

地震が起きたのは、今年2月13日の夜、震源は福島県沖で、福島県と宮城県で震度6強の揺れを観測しました。

j210521_2.jpg

この地震による東北新幹線の主な被害は、
▽電柱が折れたり、ひびが入ったりしたのが、合わせておよそ60本、
▽架線が、6本切れ、
▽高架橋の被害が、およそ70か所、などとなっています。
被害は、福島県内を中心に起きましたが、地震発生が午後11時7分と夜遅くで、福島県内を運行していたのは、1編成だけでした。その1編成も、ちょうど郡山駅に停車中で、乗客に被害はありませんでした。

この地震では、いわば「想定通り」に被害が抑えられたケースがありました。

j210521_3.jpg

高架橋です。柱と柱をつなぐ梁に、ひびが入っているのがわかります。高架橋は、大きな地震を受けた時は、柱より先に、梁が壊れるようにしています。こうすることで、地震のエネルギーが梁の部分で吸収され、線路を支える重要な柱が損傷するのを抑えるというものです。
これは、1995年の「阪神・淡路大震災」の被害を教訓にしています。この時は、新幹線の高架橋が大きく壊れ、線路がぶら下がるような状態になったところもありました。
こうした経験から、大きな地震に見舞われても、高架橋の上を走る列車の安全を確保するため、柱に大きな損傷が生じないよう考えられています。阪神・淡路大震災のあと、建設された高架橋は、梁が先に壊れることを考慮して設計され、建設済みの高架橋については、柱を補強して、梁が先に壊れるようにしています。
柱に大きな損傷があれば、復旧に長い時間がかかったことも考えられ、過去の地震の教訓が生かされたともいえると思います。

一方、教訓を十分生かせなかったと考えられるのが、電柱の被害です。

j210521_4.jpg

2月の地震では、架線を支える電柱の中に大きく傾いたものがありました。列車の安全な走行のため、入り込んではいけない「建築限界」と呼ばれる領域がありますが、地震で倒れた電柱のうち、2本はこの建築限界の中に入り、そのうち1本は、車両に近いところまで倒れたということです。
関係者の中からは、高速で走行する新幹線が差し掛かれば、大きな事故につながった可能性が否定できないという声も聞かれます。

j210521_5.jpg

実は、地震の揺れで、電柱が倒れる危険性があることは、40年以上前からわかっていました。1978年の「宮城県沖地震」のとき、当時まだ建設中だった東北新幹線の電柱が損傷しました。記録によると、折れた柱が19本、ひび割れも入れると1000本以上が被害を受けました。こちらは、当時の写真で、電柱の傾きははっきりしませんが、根元にひびが入っていることがわかります。
被害のほとんどは、コンクリート製の電柱で、高架橋の上に設置されたものばかりでした。コンクリート製の電柱は、高架橋と同じように揺れるため、「共振」という現象が起き、大きな力が加わることがあると考えられています。

j210521_6.jpg

このため、当時、一部の電柱に対して、金属を巻いて補強する対策などがとられました。
その後の地震でも電柱の被害が報告されましたが、抜本的な対策は、とられませんでした。
2011年の「東日本大震災」のとき、余震と合わせて、800本以上が被害を受けました。

j210521_7.jpg

対策を行った電柱も被害を受け、「それまでの対策では耐震性が十分でない」として、設計基準も改訂されました。JR東日本は、抜本的な対策に乗り出しました。
それは、
▽コンクリート製の電柱を、金属製に取り替える、
あるいは、
▽電柱が壊れても、柱の途中で曲がるようにして、大きく傾かないよう補強する、というものです。
東北新幹線では、高架橋の上のコンクリート製の電柱、1万3500本のうち、これまでに、およそ2000本に取り替えなどの対策が行われました。対策の地域は、首都圏や仙台の近郊が中心で、今回の地震で強い揺れのあった福島県などは、まだ対策が行われていなかったため、被害を防ぐことができませんでした。

j210521_8.jpg

ここで、指摘しておきたいのは、高速走行する新幹線で、事故が起きれば、極めて重大な結果になる恐れがあるということです。宮城県沖地震以来の大きな被害が東日本大震災で出たあとに、抜本的対策に向けた動きが始まっていますが、それまでのいくつもの地震で、数は少なくても被害は出ていました。
そこから危険性を見極め、先回りして対策をとることが、高速で走行する新幹線では特に重要です。そう考えると、東日本大震災より前の、もっと早くから抜本的な対策を打ち出す必要があったと思います。
なぜ、そうならなかったのか。JR東日本だけでなく、国土交通省はじめ、鉄道関係者には、検証してほしいと思います。

では、全国の新幹線の対策は、どうなっているのでしょうか。

j210521_9.jpg

コンクリート製の電柱は、東海道新幹線の建設以降に本格的に使われ始めました。
次に建設された山陽新幹線には、高架橋の上にコンクリート製の電柱がおよそ6500本使われています。しかし、これまでに抜本的な対策を行ったのは、810本です。JR西日本では、「南海トラフ」の地震で強い揺れが想定される地域の2500本について、2027年度末までに金属製に取り替えるなどの対策を行う計画だとしています。残りの4000本については「公表できる計画はない」としています。
上越新幹線は、6000本のうち、200本です。
JR東日本では、東北新幹線と上越新幹線の高架橋の上のすべてのコンクリート製の電柱について、抜本的な対策を実施する方針を決めています。
北陸・九州・北海道といった比較的最近、建設された新幹線は、基本的に高架橋の上にコンクリート製の電柱はなく、金属製を設置しています。

j210521_10.jpg

東北、上越、山陽新幹線の対策は、割合にして15%ないし、それ以下です。
なぜ進まないのか。担当者が口をそろえるのが、「電柱の対策工事は、運行が終わった終電後しかできないので、時間がかかってしまう」という話です。時間的制約はありますが、だからといって、地震は待ってくれません。
JR東日本と西日本は、作業を行うグループを増やすなどして、効率的に工事を進め、対策を加速させることが必要です。あわせて、国土交通省は、全国の新幹線の電柱も含めた地震対策について、遅れている点、見直すべきことがないか点検することが求められます。

今回、40年あまり前の宮城県沖地震の教訓を十分に生かすことができていませんでした。
新幹線は、いま、高速化の検討、ダイヤの過密化、路線を延長する工事などが進められていますが、地震国日本で高速鉄道を運行するには、地震対策を確実に進めることが前提です。
2月の福島県沖の地震で起きた被害、今度こそ、この教訓を生かさなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)

キーワード

関連記事