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「コロナ禍に沈む日本経済~いま求められるもの」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

18日発表された今年1月から3月の経済成長率は、3四半期ぶりにマイナス成長となりました。対面型のサービス産業の苦境が長引く様相を見せる中で、経済面での後遺症も懸念されています。緊急事態宣言の対象地域の拡大など、事態が一段と深刻化するで、日本経済が持ちこたえるためのカギは何か。この問題について考えたいと思います。

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 解説のポイントは3つです。
1) 見えぬ トンネルの出口
2) 削られる体力 懸念される後遺症
3) いま求められること
 まず最新の統計からみていきます。

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今年1月から3月の経済成長率は、前の期に比べて年率に換算してマイナス5.1%となり、3四半期ぶりのマイナス成長に。昨年度一年間ではマイナス4.6%と、リーマンショックを超える大幅な落ち込みとなりました。

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このうち個人消費は1月から行われた緊急事態宣言の影響で、飲食や宿泊関連が落ち込んだことから、前の期に比べてマイナス1.4%。企業の設備投資もマイナス1.4%といずれもマイナスとなりました。さらに輸出も、世界的な半導体不足などから自動車の輸出が伸び悩みプラス2.3%と前の3か月のプラス11.7%から大幅に鈍化しました。
そして4月以降の日本経済にも緊急事態宣言が暗い影を落としています。

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先月25日東京大阪など4都府県に出された緊急事態宣言は、その後、9つの都道府県にまでひろがりました。加えて、10の県が「まん延防止等重点措置」の対象となっています。これらの都道府県では、飲食店の営業時間の短縮や、酒類の提供の停止を要請するなど、対面型のサービス産業に大きな影響が出ています。このため、エコノミストの間では、4月から6月も再びマイナス成長に陥るという見方もでるなど、トンネルの出口は依然として見えません。

2)削られる体力 懸念される後遺症

深刻なのは、こうした産業の落ち込みが、中長期的にも日本経済に深刻な影響を及ぼすおそれがあることです。

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飲食や小売り、それに宿泊業などでは、人の移動が制限される中で、収入の落ち込みが続いています。こうした企業は、政府や民間の金融機関から無利子で融資を受けることができる支援策を利用することで、資金繰りをつないできました。しかし、コロナ禍が長引き売り上げが回復しない一方で、従業員の給料や家賃などの支払いに迫られ、借りた資金が底をつきそうだという企業も少なくありません。さらに今後の収入の見通しも立たないため、追加の融資も受けにくい状況だということです。営業短縮などの要請に応じた飲食店には各自治体から協力金が、また飲食店との取引が落ち込む関連業者には政府から支援金が支給されていますが、多くの店舗や従業員を抱える企業には不十分だという指摘がでています。

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その一方で、売り上げが大きく減った企業に支給される持続化給付金や家賃支援給付金は今年2月で申請を締め切ったほか、昨年度は支払いを猶予されていた消費税も、今年度は昨年度の分と合わせて支払わなければならないなど、様々な支援策が打ち切られています。

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帝国データバンクによりますと、コロナ関連の企業倒産の発生件数もここ数か月で急激に増えていて、資金繰りの厳しさが増していることをうかがわせています。

心配なのは、目の前にある倒産の危機だけではありません。企業の借金が膨らむ中で、経済面での後遺症も懸念されています。どういうことでしょうか。

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日本経済は中期的に見ると、いつかはコロナ禍が収束し、その後は、インバウンドも含めた飲食や宿泊といった需要が回復するものとみられます。しかしコロナ禍で多額の借金を抱えた企業は稼いだお金を借金の返済に回さざるを得ず、新たな需要をとりこむために必要な設備投資に資金をまわせない企業もでてきそうです。問題は資金面にとどまりません。雇用を維持できなくなった企業から、人材がほかの業種に流出してしまえば、将来働き手が確保できないことで収益拡大の機会をのがしてしまうことも懸念されます。このように、苦境が長引けば、それだけ深刻な後遺症を日本経済にもたらすことが懸念されるのです。

3) いま求められること

 しかし感染防止の切り札といわれるワクチンの接種が一般の人にゆきわたるのはいつになるか知れず、経済への逆風が今後一段と強まることが予想されます。ここからは、そうした中で政府に求められることは何かを考えていきたいと思います。

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1年前に打ち出された経済対策では、GoToトラベルやGoToイートなど、「感染防止に努めながら経済もまわしていく」という政府の姿勢が色濃く感じられました。

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しかし医療崩壊の懸念が強まる今、経済への打撃が大きくなったとしても感染拡大の防止を優先せざるを得ない状況に追い込まれているように見えます。であるならば、そうした新たな状況に応じて、苦しむ企業への支援策を強化していく必要があるのではないでしょうか。
政府の財政が極度に悪化している中で、追加の財政支出に慎重になる事情もわからないではないですが、コロナ禍で倒れる企業が増えれば増えるほど、将来の日本経済の成長基盤を損なうということも考えなくてはなりません。
今年度予算に盛り込まれたコロナ対策の予備費を使って、企業への協力金を、経営規模や売り上げの減少幅に応じて一段と増やせるようにするなど、効果的な支援策を迅速に執行する。それによって、休業や営業時間短縮の呼びかけをより実効性のあるものにしていくことが必要ではないでしょうか。

 もう一つ見逃せない問題は、政府や自治体による感染防止に向けたメッセージに国民の納得感が得られていないことです。

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例えばデパートに対する休業要請をめぐって政府は、基本的対処方針を変更し、食料品などの生活必需品をのぞく休業要請から、営業時間の短縮要請に制限を緩和しました。しかし東京都などは、感染状況を考慮して休業要請を継続しています。こうした中で、東京のデパートを中心に、生活必需品の範囲を見直し、衣料品や靴、ハンドバックや日傘などの小物、寝具などリビング用品も生活必需品だとして営業フロアを拡大する動きが相次ぎ、小池都知事が「高級衣料品は生活必需品ではない」とくぎを刺す一幕もありました。デパート側には、競合する海外ブランドなどの路面店や家電や家具の専門店が休業要請の対象外となっていることへの「不公平感」。加えて百貨店でのクラスターが報告させていないのに、なぜ休業要請なのか納得できないという思いがあるといいます。
 こうした状況が、一般の国民の目にどう映るでしょうか。

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東京都は、デパートなどの休業要請は人の流れを抑えるために必要だとしています。しかし実際には、家電や家具の大型の専門店や、営業フロアを拡大した百貨店に多くの人が訪れる状況となっていて、政府や自治体の狙いが理解できないという声も聞かれます。これでは経済を犠牲にしているのに、肝心の感染防止の効果もあがらないというだれも望まぬ結果につながってしまうのではないでしょうか。それによって事態が長引けば、経済への後遺症が一層大きくなる事も懸念されます。
政府と自治体が足並みをそろえて強力なメッセージを発し、苦境の企業への支援を強めることで感染防止対策の実効性を高めていく。そのことが経済を支えるうえでも、「遠回りのように見えて近道」ということになるのではないかと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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