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「"超"二極化決算 生き残りの戦略は?」(時論公論)

今井 純子  解説委員

大企業の昨年度の決算発表が相次いでいます。新型コロナウイルスの影響を全面にうけた一年。多くの企業が赤字に転落する一方、過去最高益をあげる企業も相次いでいます。緊急事態宣言が延長され、先が見えない中、厳しい事態に直面している企業を支え、日本経済全体の活力を取り戻すにはどうしたらいいのでしょうか?

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【二極化の決算】
(主な企業)
まず、12日までに発表された主な企業の決算です。JR東日本が5700億円を超える赤字と、民営化後初めての赤字になったほか、JR西日本やANAホールディングスも過去最大の赤字。デパート、外食、旅行関連でも赤字決算に陥る企業が相次ぎました。
一方、ソフトバンクグループの利益は4兆9000億円と、国内企業として過去最高となりました。また、日立製作所の利益が前の年度の5.7倍、ソニーグループも2倍に増え、いずれも過去最高益。さらに、小売りや外食の中からも、過去最高益をあげる企業が相次ぎました。

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11日までに発表があった、およそ600社のまとめでは、全体では、5.7%の減益ですが、内訳をみると、赤字に陥った企業が、12%にあたる70社。一方、過去最高益をあげた企業は154社と、4社に1社に達しています。一年前に発表された2019年度の決算は、年明け以降のコロナの影響で、幅広い業種の企業が軒並み大幅な減益に陥りましたが、一年がたち、業績が極端に2極化しています。

【背景は】
その背景には、主に、新型コロナウイルスの大きな風を、どの方向から受けたか。その違いがあります。
(コロナの逆風)
まずは、逆風。これは一部の業種に、激しく真正面から吹きつけています。人の移動や営業が繰り返し制限されたことで
▼ 全日空は、国際線の利用客が、前の年度より95%、国内線の利用客も70%減りました。
▼ また、近畿日本ツーリストなどを傘下に持つ旅行大手の「KNT-CT ホールディングス」は、売り上げが77%減少。
▼ 都市部に集中しているデパートや、オフィス向けの服を中心に販売していたファッションブランド、店内での飲食が中心の外食なども、売り上げが大幅に減り、経費を削減しても、補うことができませんでした。

(コロナの追い風)
一方の、追い風をうけた企業。例えば
▼ ソフトバンクグループは、世界的な株高を背景に、投資先の企業の株価が値上がりし、利益を押し上げました。
▼ また、日立は、ITやデジタル関連の事業が伸びたほか、
▼ ソニーは、いわゆる「巣ごもり需要」の効果で、ゲームソフトや音楽の配信が好調。
▼ トヨタ自動車は、ワクチン接種が進んで景気の回復が加速しているアメリカそして中国で利益を増やしました。
▼ その他、郊外の店舗に加え、ネット販売を充実させたスーパー
▼ そして、アパレルや外食の中でも、テレワークでも着られる手ごろな価格を売りにしたカジュアル系のブランドや、ランチメニュー・ドライブスルーなどを強化したファストフードなどは、業績が好調でした。

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(事業見直しの効果も)
追い風の恩恵を受けただけでなく、もともとデジタル化など社会の大きな変化にあわせて事業を見直してきたこと。そして、コロナ禍での顧客のニーズの変化にすばやく対応したことで、大きく業績を伸ばした企業が目立ちます。

【今年度の見通しは?】
では、今年度はどうでしょうか?

(全体的には改善の見通し)
先ほどの、決算のまとめでみると、全体で、40%を超える大幅な増益となる見通しです。コロナの逆風を受けている企業の中からも、今年度は黒字に転換する計画を示す動きがでています。
今後、国内でもワクチンの接種が進むのではないか。そうなれば、政府の経済対策や金融緩和で家庭に積み上がっている現金や預金が、旅行や外食、買い物に向かい、消費が一気に増えるのではないか。こうした期待が、黒字化の計画の背景にあります。

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(コロナ長期化への不安も)
しかし、不安も指摘されています。足元では、コロナの感染拡大が止まらず、3度目の緊急事態宣言が延長、対象も追加されました。外出や営業の自粛要請が、いつまで続くのか、どこまで広がるのか。見通せない状況です。厳しい経営を迫られている企業も、多くは、政府の無利子・無担保融資制度や、銀行からの資本支援などで、なんとか手元資金や財務基盤を強化。社員をグループ外の企業に出向させる雇用シェアを行うなどして、必死に経営と雇用を守ってきました。ただ、今年に入って、希望退職を募る動きは、去年のおよそ2倍のペースで増えています。2期連続の赤字となると、金融機関からの資金調達が厳しくなるのではないか。雇用を減らす動きも加速するのではないか。懸念の声もあがっています。

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【次の戦略は】
(コロナ後に元に戻らない事業も)
さらに、コロナの風が吹きやんでも、二極化の動きはとまらないのではないか。そんな心配もでています。「テレワークやオンライン会議」「買い物などのネット化」が定着し、出張や都心への通勤、店での買い物などが元には戻らず、元のビジネスのままでは、生き残れない企業もでてくる、という見方が広がっているからです。
では、この先、2極化が広がることがないようにするには、どうしたらいいのでしょうか。

(大企業は多角化・事業転換の加速を)
まずは、大企業、自らの多角化、事業構造の転換の加速です。対応が遅れていた企業も動き始めてはいます。
▼ 航空会社は、機内食などのネット販売や貨物輸送の事業を強化したり、客室乗務員を地方の拠点に配置転換して、地域産品の発掘に取り組んだりと、事業の多角化を進めています。また、
▼ デパートの中からも、ネット展開を進め、消費者がオンラインで店員とやりとりしながら服を買ったり、バーチャル店舗で、アバターの店員のアドバイスを受けながら商品を買ったりできるサービスを展開する。
▼ さらに、旅行会社が、企業のオンラインの商談会や視察を支援したり、
▼ 外食でも、会社帰りの客向けの居酒屋を閉めてチキンバーガー店などを展開したり、ネットで注文を受けて宅配で提供する事業に力を入れたりする企業が増えています。コロナ終息後の社会も見据えながら、こうした動きを、加速することが欠かせません。

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(やる気のある中小企業へ支援強化を)
そして、体力のない中小の事業者。
国は、コロナの影響で売り上げが減った中小企業の事業の転換を後押しするために、例えば、レストランがドライブスルーの設備を作ったり、旅館が弁当の宅配を始めるために建物を改修したりする時の費用の一部を補助する制度をつくりました。中小企業の44%がこうした事業の再構築を実施、あるいは検討している、という調査結果も出ています。一方、どうしたらいいかわからないという中小企業も多くあります。国や自治体、それに金融機関は、やる気がある中小企業が、コロナの逆風の中を生き抜き、終息後にさらに成長できるよう、資金面で支援することに加え、困っている企業からの相談や販路拡大の支援といったソフト面を含め支援を強化することが求められます。

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【ワクチンの加速を】
その上で、企業の経営者の口からは、「最後はワクチン次第」という声も相次ぎました。欧米や中国では、ワクチンの接種が進むにつれ、人の移動や経済回復の動きが活発になっています。日本が遅れれば遅れるほど、今、好調な企業も含め、世界の競争で差をつけられる心配もでてきてきます。国民の命を守るため、そして、一刻も早く日本経済全体の活力を取り戻すためにも、政府、自治体は、ワクチン接種の取り組みを急いでほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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