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「対中警戒強める欧州 相次ぐ艦船派遣」(時論公論)

二村 伸  解説委員

先週ロンドンでG7・主要7か国の外相会合が開かれ、東シナ海や南シナ海への進出を強める中国をけん制する共同声明を発表しました。中国との経済的な関係を重視してきたヨーロッパの国々も対中姿勢に変化が見られ、インド太平洋地域に相次いで艦船を派遣し、日本などとの関係強化に乗り出しています。ヨーロッパの対中姿勢の変化の背景と日本の役割について考えます。

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G7外相会合は先週3日から2年ぶりに対面形式で開催され、最終日の5日共同声明を発表しました。声明では、台湾海峡の平和と安全の重要性を強調し、中国による東シナ海や南シナ海での緊張を高める一方的な行動に強く反対するとともに、香港の民主派の排除や新疆ウイグル自治区での人権侵害に懸念を示し、ルールに基づく国際秩序への建設的参加を促しました。そのうえで法の支配などに基づく「自由で開かれたインド太平洋」を維持する重要性を確認するなど中国を強くけん制する内容となっています。

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G7外相会合と前後して行われたイギリス、ドイツ、フランス各国外相と日本の茂木外務大臣との個別の会談でも、自由で開かれたインド太平洋地域の実現に向けて安全保障・防衛協力を促進することで一致しました。
議長国として中国に対するG7の結束を演出したイギリスは、中国を「経済安全保障上の最大の国家的脅威」と位置づけ、ことし3月、インド太平洋地域の安定に積極的に関与する新たな外交・安全保障政策を打ち出しました。さっそく今月はじめ、最新鋭空母「クイーンエリザベス」を中心とした「空母打撃群」と呼ばれる空母と潜水艦や駆逐艦などからなる部隊がポーツマス海軍基地を出港し、7か月かけてインドや日本、韓国などに寄港、海上自衛隊とも合同演習を行う予定です。イギリス政府当局者は中国を挑発するものではないとしていますが、中国の脅威に対して日本やオーストラリアなどと安全保障上の連携を強化しようという狙いがうかがえます。

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インド太平洋地域に高い関心を示しているのはイギリスだけではありません。
▼イギリスの空母打撃群にはオランダ海軍のフリゲート艦も参加し、日本にも寄港、自衛隊と共同訓練を行います。
▼また、フランスは3年前、他の国に先駆けてインド太平洋戦略を打ち出し、おととし空母シャルル・ドゴールを中心とする空母打撃群をインド洋に派遣、日本の海上自衛隊とアメリカ、オーストラリアと共同訓練を行い、先月には日米豪インドのいわゆるクアッドの4か国と共同訓練を実施しました。さらに明日から1週間、陸軍が陸上自衛隊やアメリカ海兵隊と九州の霧島演習場で共同訓練を行います。
▼さらにドイツもことし8月から来年2月までフリゲート艦を派遣し、日本にも寄港、海上自衛隊と共同訓練を実施する計画です。フランスやイギリスと違ってこの地域に海外領土をもたないドイツが艦船を派遣するのは異例のことです。

各国の艦船派遣は、インド太平洋地域の経済成長が著しく、主要な貿易相手となっていることに加えて、世界の海上貿易の6割がこの地域を通過することから自由で開かれたルートを確保する安全保障上の理由があります。この地域を重要視しているあらわれで、軍事力の公使ではなく、地域の安定のためなのです。

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ドイツは去年9月、「インド太平洋ガイドライン」を公表し、この地域を「国際秩序を形成する場所」として外交政策の優先事項に位置付けました。中国一辺倒だったこれまでの政策を改め、経済と貿易の多様化をめざして日本など共通の価値観を持つ国との関係強化を進めるというものです。その一環として先月、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2が初めて開かれました。
EU・ヨーロッパ連合も先月19日に初めての「インド太平洋戦略」をまとめることで合意しました。EUは、インド太平洋地域を「21世紀の主要な舞台」だとして、地域の安定と航行の自由を確保するため同盟国と協力して海上ルートを保護するとしています。さらに、EUの海軍部隊が各国と共同訓練を行う他、テロ対策や海上安全保障、危機管理の協力強化などをめざし、9月までにインド太平洋戦略の詳細をまとめる方針です。
EUの対中国戦略はこの5年で大きく変わりました。
▼2016年には「成長著しい中国との協力体制を構築し経済的なメリットを享受する」方針が確認されました。▼ところが、おととし対中戦略を見直し、中国をパートナーであると同時に初めて「競合相手」と位置づけました。各国で中国企業による買収が相次ぎ中国への警戒が強まったためです。▼今回発表された「インド太平洋戦略」は、中国を名指しはしていないものの民主主義と法の支配、人権などを重視し、中国を強く意識した内容となっています。

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ヨーロッパの国々がこの地域に関与を深めるのは、中国をめぐる様々な問題がアジアにとどまらず国際社会にとって見過ごせない問題となっていることに加えて、アメリカが自国第一主義のトランプ前政権から同盟関係を軸に国際協調を重視するバイデン政権に代わったことも背景にあります。ただ、中国と覇権を争い中国包囲網の強化を狙うアメリカと経済関係を重視するヨーロッパは対中戦略に温度差があります。ドイツなどヨーロッパの国々は、中国に対する厳しい物言いの一方で経済への影響を避けるために過度の対立を避けたいのが本音で、メルケル首相は「冷戦時代のように世界を二つの陣営に分断することは望んでいない」と述べています。

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では日本は各国とどのように協力してゆけばよいのでしょうか。
外務省がまとめた今年の外交青書は、中国による東シナ海などでの一方的な現状変更の試みを日本を含む国際社会の安全保障上の強い懸念だとした上で、沖縄県尖閣諸島周辺での中国公船の動きを「国際法違反」と明記し、自由と民主主義、法の秩序に基づく国際秩序が挑戦を受けていると強い表現で危機感を示しています。
これに対し中国外務省報道官は、「中国の脅威を大げさに誇張している」と反発し、香港問題やウイグル人の人権問題も内政干渉だとの立場を変えていません。
中国の変化を促すには、アメリカとの同盟関係だけでは限界があり、国際的な連携の強化が不可欠です。日米豪印いわゆるクアッドの枠組みに加えて日本と価値観を共有するイギリスやドイツ、フランスなどヨーロッパの国々との連携が重要であり、各国がインド太平洋地域に熱い視線を注いでいる今まさにそのタイミングです。地域の安定にはASEAN・東南アジア諸国連合との連携も欠かせません。ただ、ヨーロッパの相次ぐ艦船派遣が新たな緊張要因にならないよう慎重な行動が求められます。中国を排除するのではなく、パートナーとして国際ルールを順守するよう働きかけるのが目的だからです。
日米豪印の枠組み、ヨーロッパ、そしてASEANとのつながりをいかして、各国と連携して毅然とした態度で中国に臨むと同時に過度の対決姿勢を避けつつ変化を促すしたたかな外交が求められます。

(二村 伸 解説委員)

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