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「新型コロナウイルス 緊急事態宣言延長・追加 今後の対策に求められることは」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大で、大阪などでは、医療提供体制が極めて深刻な状況になっています。政府は、2021年5月7日、東京や大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言を延長するとともに、愛知県と福岡県を対象地域に加えることを決めました。併せて、まん延防止等重点措置についても、対象地域を広げました。

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解説のポイントです。
▽新型コロナウイルスの感染の現状と、
▽緊急事態宣言で見えてきた課題、
▽今後、宣言の解除、さらには新型コロナの対策に求められることを、考えます。

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緊急事態宣言は、東京と大阪、京都、兵庫に出されていますが、この4都府県は期限を延長し、さらに、5月12日から愛知県と福岡県を宣言の対象に加えます。一方、東京に隣接する3つの県などに出されているまん延防止等重点措置は、北海道、岐阜県、三重県を5月9日から追加した上で、宮城県を5月11日の期限で対象から外します。期限は、いずれも、5月31日までです。
これに合わせて、国の基本的対処方針も変更され、これまで休業としていた大型商業施設などは、営業時間の短縮に対策が緩和されました。東京や大阪では、施設の休業要請を続ける方針だということで、こうした対策が基本的に維持される見通しです。

なぜ、緊急事態宣言の延長となったのか。東京都と大阪府の新規感染者数が下の図です。

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東京は2021年3月中頃から増加傾向が長い間続き、大阪は1000人を超えたところで、「高止まり」しています。

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今回の緊急事態宣言では、人の流れを抑えることに重点が置かれました。連休中の繁華街の人出は、複数のデータで、年始の2回目の緊急事態宣言より少なくなっていましたが、1年前の1回目の宣言の時より多くなっていました。都道府県の境をまたぐ移動の自粛が呼び掛けられましたが、東京から外に出た人は、去年の大型連休の2.1倍、大阪から外に出た人は、1.8倍という携帯電話のビッグデータを使った分析もあります。

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大型連休中は、「ステイホーム」を心がけた人がいる一方で、東京に隣接する県の観光地が、混雑するなど宣言の出されている地域から外に移動した人が多くみられました。一部で、感染対策への協力が十分得られない面があったという印象があります。

また、深刻なのが、重症者数の推移です。

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全国の重症者の数は、年末から年始にかけての第3波の時より多くなっていて、増加傾向が続いています。その結果、医療提供体制に深刻な影響が出ています。ここで示した「入院率」は、新型コロナウイルスに感染した人のうち、入院している人の割合で、値が小さいほど、入院できない=医療のひっ迫を示しています。特に、関西の3府県では、20%以下で、入院できるのが、5人に1人、あるいは10人に1人と十分な医療が提供できなくなっている深刻さの一端がうかがえます。

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こうした状況の背景には、イギリスで見つかった感染力が強い「変異ウイルス」があります。関西では、感染者の80%以上で変異ウイルスがみつかり、東京については、およそ60%を占めるまでになっています。東京でも、今後、感染の急拡大や重症者急増の恐れがあり、警戒が必要です。
変異ウイルスの感染力を考慮した対策は、全国各地で求められています。

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福岡県、北海道などもこのように感染者が増加し、医療への負荷が大きくなっています。
それぞれ、緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置の対象に追加されることになりました。

このように、感染状況を見ると、大きく2つの課題が見えてきます。

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▽一つは、感染力の強い「変異ウイルス」に、どのような対策で感染拡大を抑えていくのか、
▽もう一つは、政府あるいは自治体の呼びかけに対して、対策への協力が得られないケースがみられるといった指摘です。
新型コロナウイルスが見つかってから1年以上、緊急事態宣言も3度目となって、国民の中に、いわゆる「コロナ疲れ」といったものが広がり、連休中に外出していた人からは「対策をしても、しなくても、あまり変わらないのではないか」といった、冷ややかな声も聞かれました。

では、今、何が求められているのでしょうか。

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変異ウイルスは、いま、重症患者の増加、さらには医療ひっ迫の大きな要因とみられています。専門家らは、医療提供体制を強化するため
▽病院のベッド、そして医師や看護師などの人材を広域で運用したり、
▽診療所による新型コロナ感染症の治療・診療への関与を多くしたりすることが、求められるとしています。そうした取り組みを進める必要がありますが、重症患者を減らすには、まずは感染を抑えなければなりません。

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これまで、密閉、密集、密接の3条件がそろう「3密」の状況は、感染リスクが高く、特に注意が必要とされていました。しかし、変異ウイルスでは、いわば「1密」の場面でもクラスターが報告され、対策を1段、2段と強化しないと感染を抑えられないと考えられています。
このため、
▽人と人との接触を抑え、
▽人の移動を最小限にする
という感染対策の基本に立ち返ることが一層重要になっています。

では、多くの人に対策を徹底してもらうために、何が求められるのでしょうか。

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それは、政府が中長期的にどのような方針を描いているのか、そのことを説明して、国民に理解してもらうことだと思います。
その中長期的方針。感染症の専門家らが描いているのは、緊急事態宣言によって、感染者数が「ステージ2」以下の状態で安定するくらいまで減らして、宣言解除後も、対策の緩和は徐々に行い、感染拡大の兆候が見られれば、対策を強化して、感染者数を低いレベルに維持する。
感染者数を下げることで医療のひっ迫を解消し、それによって、医療体制に余裕を持たせ、ワクチン接種の医師や看護師を確保する。

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そして、ワクチン接種を滞りなく、効率的に進めることを目指すというものです。こうすることで、新型コロナ前の「もとの日常に近い生活」の実現につなげます。
感染者が少ない状態をどこまで維持できるか、特に、新型コロナで重症化しやすい高齢者、あるいは基礎疾患のある人のワクチン接種が進む間、この状態を維持できるかが、カギになると思います。

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一方、感染者数が多い段階で感染拡大が起こると、医療がひっ迫し、ワクチン接種のための体制も確保できなくなり、接種が遅れ、「もとに近い生活」の実現が遠のくことになります。
これから高齢者向けのワクチン接種が本格化します。今回の緊急事態宣言は、過去2回の宣言とは、その点が大きく異なります。
政府には、今後、
▽感染を抑える対策と、▽ワクチン接種の加速化をどのような関係で進め、「もとの日常に近い生活」を早期に実現させると考えるのか。

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国民にしっかりと説明し、国民が納得感をもって、対策に臨めるようにすることが大切だと思います。

日本のいまの制度では、海外の国々が行っているようないわゆる「ロックダウン」といった法律に基づいた厳しい規制、行動の制限ができません。そうだからこそ、政府の考えに対する国民の理解が大切です。
今回の緊急事態宣言、変異ウイルスの拡大で対策が難しくなっているときだけに、政府は、どのような中長期的方針を描いているのか、状況の変化に応じて、繰り返し示していくことが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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