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「アフガニスタン 米軍撤退 危うい和平への道」(時論公論)

二村 伸  解説委員

アメリカ政府はアフガニスタンに駐留する部隊をことし9月11日までに完全撤退させることを決め、来月1日以降撤退を始めます。同時多発テロから20年、和平の見通しが立たない中での撤退は、治安のさらなる悪化を招きかねず、アフガニスタンを見捨てるものだといった批判の声も上がっています。20年におよぶアフガニスタンへの介入からなぜ今アメリカは手を引くのかその背景と、長年にわたって復興に貢献してきた日本をはじめ国際社会に何が求められるのか考えます。

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アフガニスタンは、イラン、パキスタン、中国、インドそれに中央アジアの国々に囲まれた地政学的に重要な場所に位置します。19世紀にはイギリスとロシア帝国が介入、1979年にはソビエト連邦が侵攻するなど常に大国に翻弄されてきました。

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アメリカの介入は、▼2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件がきっかけです。4機の旅客機がハイジャックされ、うち2機がニューヨークの世界貿易センターに激突するなどして日本人24人を含む2977人が犠牲になりました。▼当時のブッシュ大統領は、テロの首謀者であるオサマ・ビンラディン容疑者ら国際テロ組織アルカイダのメンバーをかくまっているとしてアフガニスタンを攻撃、タリバン政権を崩壊させ、アメリカの傀儡ともいわれるカルザイ政権が誕生しました。アメリカ軍兵士は最大で10万人に達しましたが、犠牲者が増えるにつれて厭戦気分が高まり、オバマ政権、トランプ政権ともに撤退を計画したものの予定通り進みませんでした。バイデン大統領が、トランプ前政権と反政府勢力タリバンが合意した撤退期限を先送りしたのは、撤退の条件の一つだったアフガニスタン政府とタリバンの和平交渉が進まず、戦闘やテロがおさまっていないからです。
国連アフガン支援団の発表によれば、去年1年間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した一般市民は3035人で、7年続けて3000人を超えました。

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同時多発テロ事件からちょうど20年を迎える9月11日を撤退期限としたのは、「アメリカ史上最も長い戦争」に終止符を打ち、アフガニスタンの泥沼から抜け出ることをアメリカ国民にアピールする象徴的な意味合いがあるように思います。
また、無条件での完全撤退の背景には、対立する中国に力を注ぐために、これ以上アフガニスタンに関わっていられないという事情もあります。アメリカがアフガニスタンに投じた戦費はおよそ2兆ドル、218兆円に上ると言われ、この間2000人以上の兵士を失いました。莫大な経費と兵士の命を犠牲にしてまでアフガニスタンに駐留するメリットがないとバイデン政権が判断したのだと思います。

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しかし、いま撤退すればアフガニスタンが再び内戦状態に陥りかねないと危惧する声も聞かれます。アルカイダが「アメリカへの勝利の日」と位置付ける9月11日の撤退は、むしろ「アメリカの敗退」を印象付け、テロ組織を勢いづかせることになりかねません。アメリカ国内でも「この状態で撤退するのは重大な過ちであり、アメリカのリーダーシップの放棄だ」と批判する声も上がっています。
アフガニスタンのガニ大統領は、「アメリカの決断を尊重する」としているものの、これまで「アメリカ軍が撤退すれば政府軍は半年ももたない」として駐留の継続を求めていただけに、撤退後への不安は隠せません。
タリバンは、撤退期限の延期は「合意を破るものだ」と強く反発しています。バイデン大統領の発表後、現地ではテロの脅威が高まり、厳重な警戒態勢が敷かれているということです。

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ではアメリカ軍が撤退したあとのアフガニスタンはどこへ向かうのでしょうか。現在アフガニスタンにはアメリカ軍兵士2500人の他、NATO・北大西洋条約機構の部隊およそ1万人がアフガニスタン軍の訓練などにあたっており、現地の報道ではすでに一部の国は撤退を始めました。この地図はアフガニスタン政府とタリバンの支配地域を示しています。クリーム色が政府の支配地域、赤がタリバン支配地域です。外国の部隊が撤退後、この色分けが大きく変わり、タリバンが支配地域を急速に拡大し、政権を掌握するのではないかといった見方もあります。
タリバンは政権を握っていた当時、女性の就学や就労を認めず娯楽も禁止するなど極端なイスラム主義政策をとりました。タリバンの圧政から解放された瞬間の市民の安堵の表情が今も強く印象に残っていますが、タリバンが復権すれば再び人権が抑圧されるのではないか、とくに女性の権利が守られないのではないかと多くの人が懸念しています。

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アメリカは、そのタリバンも参加する暫定的な政権を発足させ、新しい憲法のもとで選挙を行って正式な政権を発足させるという提案をしています。しかし、水と油の関係にある両者が権力を共有することができるか疑問です。20年前、アメリカとその支援を受ける北部同盟が首都カブールに突入する瞬間を、私たち各国メディアはタリバンの砲撃が続く中取材しました。そのときの激しい戦闘を思えば、アメリカが政権から引きずり下ろしたタリバンを今度は政権に参加させようとしていることに抵抗を感じる人は少なくないでしょう。
ガニ大統領はアメリカの提案を拒否し、代わりに3段階の和平案を主張しています。まず戦闘を停止し国際監視団が監視する、次に大統領選挙を行って新しい政権を発足させ、最後に憲法の枠組みを作るというものです。
一方、タリバンは外国軍部隊が撤退するまでいかなる会議にも参加しないとしており、アフガニスタンの将来を話し合うために今月後半に予定されていた国連主導の国際会議も延期となりました。

では不透明さを増すアフガニスタンの復興に向けて国際社会は何が求められているでしょうか。

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何よりも重要なのは、アフガニスタンを二度とテロの温床にさせないことです。そもそもアフガニスタンは多民族国家で、中央政府のコントロールが地方まで及ばず群雄割拠の状態のため国を1つにまとめるのは至難の業です。外国軍部隊撤退後の真空地帯にアルカイダやIS・イスラミックステートなどのテロ組織がつけこむことのないように、国際社会がアフガニスタンを見捨てず関与し続けるという強い姿勢を示すことが必要です。それにはアフガニスタン政府とタリバンの停戦が不可欠であり、アメリカの役割は重要です。アメリカは自ら戦争を始め、政権作りを主導したものの混乱が続く中、自らの都合で撤退しようとしていますが、復興の道半ばでその役割を放棄せず、今後も和平の実現を後押しする責務があると思います。
タリバン兵士の社会復帰支援も治安回復の重要なカギとなります。
同時にインフラの支援や新しい政権のガバナンスの強化と人材育成、それに保健・医療や教育など日本が長年地道に行ってきた支援が今後も不可欠です。
日本はアフガニスタンにこれまで69億ドル、7400億円あまりの支援を行い、2002年と12年には東京で国際会議を開くなど復興に深くかかわってきました。また、おととし殺害された中村哲医師の功績は今でもアフガニスタンの人々に語り継がれています。20年にわたる日本、そして国際社会の努力を無駄にしないためにも、アメリカには撤退ありきではなくアフガニスタンの和平と民主化のために状況に応じて柔軟に撤退を進めるよう働きかける必要があります。同時に外国軍撤退後の青写真を外から押し付けるのではなくアフガニスタン自らの手で描けるように支えていくことが重要だと思います。

(二村 伸 解説委員)

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