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「バイデン大統領 施政方針演説 就任100日の成果と課題」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカのバイデン大統領が就任してから100日が経過しました。これを前に大統領は就任後初めて議会で演説し、自らの施政方針を示しました。バイデン政権の滑り出しは、どのように評価されているか?課題は何か?今後の政権運営の行方を考えます。

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コロナ感染を防ぐため、出席議員をくじ引きで絞り込んだ上下両院合同会議。そんな異例の議場でバイデン大統領は、登壇の時だけマスクを外し、国家の現状をこう語りました。

(バイデン大統領の発言)「危機のさなかに政権を引き継いでから100日になる/私は報告できる/アメリカは再び動き出した」

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内政と外交、多岐にわたり1時間あまりに及んだ演説。そのポイントをまとめてみます。

①“コロナ対策と経済回復”
▼まずコロナ対策を徹底し、落ち込んだ経済の回復に努めること。ワクチンの供給目標は既に達成しているとアピールし、接種をためらうことのないよう国民に呼びかけました。また「危機を機会に」と述べて、復興にあたって先端技術など国内産業の競争力を強化。新たな雇用創出とインフラ投資に向けて、議会の協力を訴えました。

②“ミドルクラス支援”
▼次に、ミドルクラスへの手厚い支援。「この国を築いたのは、ウォール街ではなく中間所得層だ」として、教育や社会保障で子育て世帯に重点的な支援を表明。「大企業や富裕層には応分の負担を求める」として、税制改革で格差是正に努める意欲を示しました。

③“社会正義の実現”
▼3つ目は社会正義の実現。気候変動から人種問題、移民受け入れや銃規制に至るまで、民主党が従来から重視してきた課題に正面から取り組むとアピール。

④“アメリカの威信回復”
▼そして、アメリカの威信回復。中国には何度も言及して、強い警戒感をあらわにし、「不公正な貿易慣行に立ち向かう」「インド太平洋で強力な軍事プレゼンスを維持する」と発言。“専制主義国”対“民主主義国”という図式を描いた上で、同盟国とも連携し、「この21世紀の競争でアメリカは必ず未来を勝ち取る」と決意を示しました。

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バイデン政権の最初の100日間は、どのように評価されているでしょうか?こちらは、近年の大統領が、就任100日を迎える前後の支持率を比較したものです。バイデン大統領の支持率は、このギャラップ社による調査では57%。オバマ元大統領やロナルド・レーガンには及ばないものの、トランプ前大統領よりは高い水準にあります。

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しかし、党派別の支持率を見てみますと、バイデン政権は、民主党支持層の94%が支持しているのに対し、共和党支持層ではわずか11%。こうした党派別の支持と不支持のギャップの激しさが大きな特徴です。世論を真二つに引き裂いて南北戦争以来とも言われた“分断の溝”の深さがうかがえます。

しかも、政権発足当初の100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれ、世論もメディアも手厳しい批判は控えるのが通例です。トランプ前大統領は「ハネムーン期間」がほとんどない珍しいケースでしたが、バイデン大統領には、そうした恩恵がありました。だからこそ恩恵が消えないうちに、政権のスタートダッシュにこだわってきた面もあるのでしょう。

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では、個別の政策課題を見ていきます。まず新型コロナ対策です。
アメリカ国内の新規感染者数は、バイデン政権が発足した当初は、1日あたり20万に上っていましたが、最近は7日間平均で1日あたり5万台まで落ち着いてきました。
ワクチンについては、人口の30%が所定回数の接種を完了しています。ただ、このところ接種のペースが鈍ってきたことから、接種をためらう人に働きかけて、接種率を高めることが課題になっています。

またバイデン大統領は、就任後ただちにマスク着用を義務化しましたが、ワクチン接種を完了した人は、混雑するイベントなどを除いて、屋外ではマスクを外して良いとする新たな指針を保健当局が発表しています。

世界でワクチンの公平な配分が進んでいない現状についても、アメリカ国内で製造される製薬大手アストラゼネカのワクチンおよそ6000万回分を、規制当局の同意が得られれば、ほかの国に輸出する方針を検討していることを明らかにしました。

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コロナ禍からの経済復興では、巨額の財政出動を伴う3つのプランを打ち出しました。

▼まず「レスキュー・プラン」と名づけた200兆円規模の追加経済対策法を先月(3月)成立させました。その柱となる国民への現金給付では、ひとり最大15万円の現金が、およそ8割の世帯に支給されています。
▼さらに、「ジョブズ・プラン」と名づけて8年間で220兆円を投じるインフラ整備計画を提案しています。
▼これに加えて、バイデン大統領は「ファミリー・プラン」と名づけて子育て世帯を支援する新たな経済対策に、10年間で200兆円近くを投じる計画も明らかにしました。

巨額な予算計画の財源は、法人税率や富裕層への所得税率、高所得者による株式の売却益などの税率を引き上げることで賄いたいとしています。

こうした大型の経済対策による効果やワクチン接種の広がりを反映し、アメリカ経済は回復基調を鮮明にしています。現に、アメリカのことし1月から3月までのGDP=国内総生産の速報値は、年率に換算した実質で前の3か月に比べ、プラス6.4%の伸び率となりました。バイデン政権による経済のかじ取りは、ひとまず滑り出しのテストで“合格ライン”をクリアーした形です。

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しかし、今後の政権運営は決して平たんな道のりではないでしょう。与党・民主党は、現在の議会上下両院で、ギリギリ多数派を維持している状態だからです。当面は、バイデン大統領がめざす予算計画や増税をめぐる攻防で、野党・共和党からどこまで協力を取り付けられるかに焦点は移ります。
バイデン政権の次なる目標は、来年11月の中間選挙でこの多数派の座を死守すること。しかし歴代の政権は、最初の中間選挙で議席を減らすケースが多いのです。仮に中間選挙で多数派の座を失えば、大統領の求心力はたちまち低下しかねません。政権を発足させたばかりでも、バイデン大統領にはあまり時間がないのです。

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バイデン大統領は、この日の演説で、かつて大恐慌から第2次世界大戦に至る困難な時代、フランクリン・ルーズベルトが、「ニューディール政策」で国民を鼓舞し、結束を呼びかけた当時のスローガンに触れました。ホワイトハウスの執務室を模様替えした際も、ルーズベルトの肖像画を掲げています。
政府による大胆な財政出動で未曽有の経済危機を克服し、20世紀のアメリカの繁栄の礎を築いたと民主党が誇りにしているルーズベルト。バイデン大統領は、その姿にみずからを重ね合わせているのかも知れません。

バイデン氏は不思議な政治家です。選挙キャンペーンの頃は、トランプ前大統領の破天荒な政治スタイルとは対照的に、常識を重んじて極端な主張はしない慎重な姿勢を貫き、有権者の中には「バイデン氏を大統領にするため」と言うよりも「政権交代のためなら仕方なく」といった消極的な理由で投票した人が目立ちました。
ところが、大統領に就任した途端、大胆な政策転換を相次いで打ち出し、猛烈なスタートダッシュをはかってきました。はたして、この100日間の成果を政権浮揚につなげ、アメリカ史に一時代を画すような“偉大な大統領”への道を歩むことが出来るでしょうか?バイデン氏もまた意外性を秘めた大統領なのかも知れません。

(髙橋 祐介 解説委員)

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