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「衆参3選挙"自民全敗" 今後の影響は?」(時論公論)

権藤 敏範  解説委員

今月25日に投票が行われた衆参の3つの選挙は、自民党が、候補者擁立を見送った選挙を含め全敗しました。新型コロナウイルスへの対応や政治とカネをめぐる問題が争点となった今回の選挙結果が、秋までに行われる衆議院選挙にどう影響するのか。結果を分析しながら考えます。

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【選挙結果】
菅政権にとって初めての国政選挙となった、衆参3つの選挙です。

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▼参議院広島選挙区の再選挙は、政治とカネの問題で元議員の当選が無効になったことに伴い行われ、野党3党が推薦する諸派の新人が当選。
▼広島と同じく政治とカネの問題が焦点となった衆議院北海道2区の補欠選挙は、自民党が早々に候補者の擁立を見送り、立憲民主党の元議員が当選しました。
▼参議院長野選挙区の補欠選挙は、立憲民主党の議員が新型コロナウイルスに感染して死去したことに伴い行われ、議員の弟で立憲民主党の新人が、いわゆる「弔い選挙」を制しました。

【参議院広島選挙区の再選挙】
この中で最も注目を集めたのが、参議院広島選挙区の再選挙です。

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おととしの参議院選挙で初当選した河井案里元議員は、夫の克行元法務大臣とともに地方議員などに現金を渡していたとして公職選挙法違反の買収の罪に問われました。その案里元議員の有罪が確定し当選が無効になったことに伴い行われました。

結果は、野党3党が推薦する諸派の宮口治子さんが勝利しました。

広島は、2017年の衆議院選挙で、自民党が県内7選挙区のうち6選挙区で勝利したほど保守地盤が厚く、与党にとっては、ほかで敗れても「最低1勝」と望みを託していた選挙です。

【与党の敗因】
その広島で与党が敗れたのには、私は3つの要因があると思います。

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1つ目は、政治とカネの問題の影響です。
NHKの出口調査によりますと、投票する際に最も重視したのは「政治とカネの問題」と答えた人が23%と最も高く、その76%が宮口さんに投票しました。また、政権与党は、重要な選挙では通常、閣僚や党幹部を次々と現地入りさせますが、今回は出足が鈍く菅総理も二階幹事長も1度も入りませんでした。さらに、買収事件で現金を受け取った自民党の地方議員も多く、表立った運動がしにくかった面も大きいと思います。

2つ目は、政府のコロナ対策への不満です。
広島でも感染の再拡大の傾向がみられ、県内の産業も大きな打撃を受けています。出口調査では、政府のコロナ対策を評価しないという人が半数以上に上り、その63%が宮口さんに投票しています。

3つ目は、コロナ禍での組織選挙の難しさです。
与党は、各地に強固な地方組織を持ち、選挙では地方議員などが地域や企業を回って支持を集めるのが強みです。特に公明党やその支持母体である創価学会の集票力には定評があります。しかし、今回は宮口さんに自民党支持層の24%、公明党支持層の18%が流れました。コロナで面会や集会が制限され、その強みが十分に生かせなかったのではないでしょうか。

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また、今回は、▼県連会長として陣頭指揮をとり、次の自民党総裁選挙に意欲をみせる岸田前政務調査会長や、▼衆議院広島3区に新たに斉藤副代表を擁立する公明党にとって、厳しい結果となりました。
自民党では政治とカネの問題が相次いでおり、政治不信の解消は大きな課題です。

【選挙結果の影響】
では、今回の結果を与野党はどう受け止めているのでしょうか。

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与党内では、「政権への影響はないとは言えない」という指摘があり、政治とカネの問題など選挙区の個別の要因やコロナ対応への不満も敗因の1つだという見方が出ています。

私は、政府のコロナ対策への不満や、与党の得意とする組織選挙の難しさは、今後の選挙にも共通する課題だと思います。

コロナ対策では、例えば、政府が、「感染対策の決め手」と期待するワクチン接種は、医師や看護師の慢性的な不足により、自民党内からは、「全ての国民の接種には、来年春ぐらいまでかかるかもしれない」との声も出ています。
また、ワクチンが行きわたるまで、まん延防止等重点措置でしのぐという戦略は、感染力の強い変異ウイルスの前に修正を迫られ、政府は東京など4都府県に3度目の緊急事態宣言を出しました。
与党内には、内閣支持率はコロナの感染状況に左右されるとの見方もあり、ワクチン接種の進み具合とともに今後の選挙戦略や有権者の投票行動にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。

一方、野党側は、今回の勝利は候補者の一本化の成果で衆議院選挙に向けた弾みになるとしています。

ただ、課題はあり、1つが低迷の続く支持率です。

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立憲民主党は、衆参150人を超える野党第1党になりましたが、NHKの世論調査でも支持率は6%に留まり自民党に大きく水をあけられています。国会でも政権の追及だけでなく政策提案などを行っていますが、現状では支持率に結びついているとは言えません。

また、野党共闘への懸念もあります。
長野では、立憲民主党の候補が地元で共産党などと結んだ政策協定に支援団体の連合が反発。枝野代表自ら謝罪するなどしましたが、しこりは残りました。また、北海道2区では、立憲民主党と共産党の候補者調整に時間がかかり、広島では、共産党が推薦の枠組みから外れました。次の衆議院選挙で、両党の候補者が重複する小選挙区は70近くにのぼるとされ、一本化の難しいところが残っており、残り任期、半年での調整には難航も予想されます。

【衆議院の解散・総選挙】
では、今回、自民党が全敗した中で、菅総理は衆議院の解散戦略をどう描くのでしょうか。

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衆議院議員の任期は残り半年を切りました。与党内では、今回の結果を踏まえて早期の解散は難しく東京オリンピック・パラリンピックの閉会後、9月以降になるという見方が出ています。
そうなると焦点は自民党総裁選挙との兼ね合いです。総裁の任期は9月末まで。菅総理は、続投の意向を問われた際に、「政治家は、解散して、そこで勝たなければ続かない」と述べ、総裁選挙の前の解散に含みを持たせました。そこには衆議院選挙に勝利して総裁選挙で信任されることで長期政権に道筋をつけたいという思いも伺えます。
また、総裁選挙のあとの衆議院選挙には、自民党内にも党への注目が集まり有利だという声のほか、「追い込まれ解散」という印象が強く望ましくないという指摘もあります。

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一方で、与党内には、野党側が今の国会に内閣不信任決議案を提出すれば、それをきっかけに解散に打って出ることを検討すべきだという声もあります。

菅総理としては、解散のタイミングにフリーハンドの余地を残して党内の求心力を保ちながら、コロナの感染状況や内閣支持率の動向などを見極め、最善のタイミングを探るものと見られます。

【まとめ】
最後に、今回、すべての選挙で投票率が大きく下がったことも指摘しておかなければなりません。コロナ禍で投票を控えた面もあるかもしれませんが、政治に対する国民の期待が低下していることの表れではないでしょうか。
後半国会では、衆議院選挙をにらんだ対立が激しさを増すでしょうが、与野党には、政治に信頼を取り戻すような取り組みが不可欠なだけでなく、コロナ対策をはじめとする各党の主張や活動を国民が厳しい目で見ている、そのことをしっかり受け止め、認識することが必要ではないでしょうか。

(権藤 敏範 解説委員)

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