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「3度目の緊急事態宣言 変異ウイルスへの対応は」(時論公論)

米原 達生  解説委員

新型コロナウイルスとのたたかいは、変異ウイルスの拡大で、これまでにない局面に入っています。
政府は3度目の緊急事態宣言を、東京と大阪、兵庫、京都に出すことを決めました。
これまでの“急所を狙う対策”から“人との接触を減らす強い対策”に転換することになります。

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変異ウイルスの拡大に国内で初めてさらされたのは大阪でした。3月後半から感染が急拡大。いわゆる第3波のピークを大幅に超えました。感染の指標とされる繁華街の夜間の人出と比べてみます。前回の緊急事態宣言によって人出が抑えこまれると、感染者はその後2,3週間して減少しています。2月末で宣言が解除され、送別会シーズンに伴って人出が増えると、その後、感染者は一気に増えました。
このところ人出は減少し、緊急事態宣言が出されたころの水準まで落ちています。しかし、それから2週間経過しても、その効果は感染者数の減少にまでは至っていません。これが変異ウイルスの影響と指摘されています。

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大阪で流行の中心になっているのは、イギリスで最初に見つかった「N501Y」変異ウイルスです。従来のウイルスに比べた感染力は1.32倍とも分析されてます。ある保健所長は「前は感染者の家族の半数が感染していたのが、今は家族全員がもれなく感染している印象だ」と語ります。
怖いのは重症患者の急増です。大阪府のまとめでは、発症から重症化するまでの日数はこれまで平均8日だったのが6日半、60代以上だと6日と短くなっています。そして重症者に占める50代以下の割合が、これまでは17%だったのが倍の35%、働き盛りの人たちが重症化しています。大阪府は重症患者の増えるスピードがいわゆる第3波のおよそ3倍だとしています。
これに伴う医療のひっ迫は「災害レベル」といわれるほど厳しさを増しています。重症患者の数はすでに重症病床の数を超えて、救急車が到着しても搬送先がないまま出発できない状態が続いています。大阪は20日に宣言の発出を要請、周辺の兵庫・京都とともに25日、宣言が発出されます。

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変異ウイルスへの置き換わりは、大阪の後を追うように東京でも起きています。
こちらは検査結果と今後の予想を表した図で、横軸が時間の経過、たて軸が検査で出てきた変異ウイルスの割合です。判明した検査結果が丸印で日付ごとに配置されているのですが、時を追うごとに変異ウイルスの割合が高くなり大阪ではすでに8割が置き換わっています。専門家によりますと、東京でも半数程度に達し、このままだと、来月上旬にはほぼ置き換わる予想です。

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東京の感染者と夜の人出のグラフです。宣言解除で懸念されたリバウンドが現実になり、このところ増加のペースが上がっています。新規感染者の数は最も深刻なステージ4相当。蔓延防止等重点措置が適用された後も、人出の数はなかなか下がりません。「いつ大阪のようになってもおかしくない」。小池知事は「大型連休を前に対策が必要だ」として緊急事態宣言を要請しました。変異ウイルスに対して、これまでの措置やメッセージでは効果が十分に期待できないことが、今回の緊急事態宣言につながっています。

■大型連休前の方針転換
今回の宣言で政府は、これまでの飲食店への時短要請を中心とした対策を転換することになります。
人の流れ全体を抑え、接触そのものを削減する対策に強化するのです。
そのための対策が下記の通りです。

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▼飲食店のうち酒やカラオケを提供する店は休業を要請、それ以外の飲食店も営業時間を午後8時までにするよう要請し、従わない店の利用や、路上・公園での集団飲酒をしないよう呼びかけます。
▼多くの人が利用する大型の商業施設などにも休業を要請、公立の施設も閉館や閉園の検討を求めています。
▼イベントも原則として無観客で開催を要請、交通機関には終電の繰り上げを要請します。
▼在宅勤務や連休の取得で、職場の出勤者を7割削減することを目指すとしています。
去年春と同じような強い対策が宣言の対象地域で取られることになります。

懸念されるのは大型連休での人の流れが起きることです。

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冬のいわゆる第3波では、忘年会シーズンの後の年末年始に都道府県を超えて人が移動。感染は重症化しやすい高齢者にも移行していきました。今はまだ、感染者に占める70代以上の割合は1割程度ですが、この冬、死者の数がピークだった2月は2割を超えていました。間もなく迎える大型連休で、対策が緩い地域に人が流出し、活発に交流すれば同じことが起きかねません。都道府県をまたいで移動し、普段合わない人と交流することは避ける必要があります。
前回の宣言解除から2か月たたないうちに、緊急事態宣言を出すことになったのは、変異ウイルスの要因があったとしても、前回の宣言中に十分に感染を抑え込めず、リバウンドを防ぐ対策もきちんと機能しなかったことの裏返しでもあります。自粛に疲れた国民の協力を引き出すためには、この2週間余りの期間で、どこまで感染者を減らすのか目標を明確にし、その後のリバウンド対策など出口の戦略も含めて説明し理解を得ることが不可欠だと思います。

■緊急事態を繰り返さないために
感染拡大は全国の多くの地域で進んでいて、きょうは愛媛県にも蔓延防止等重点措置の適用が決まりました。
私たちが接触機会を減らしていく一方で、行政には同じことが繰り返されないよう第3波の後に得られた手段を有効に使って対策を進めることも求められます。

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一つ目はワクチンです。高齢者向けの優先接種は、まだわずかに始まったばかりですが、今後、供給が本格化し、政府は6月中に高齢者全員の分が確保できる見通しとしています。
供給が安定すれば、どれだけ進むかは接種の体制次第です。接種にあたる医療スタッフの確保や情報の確認に苦労している市町村もありますから、国や都道府県はきちんと支援して、接種のスピードを上げていくことが大事です。

2つ目は、高齢者施設での定期的な検査。
2回目の緊急事態宣言の後、国は高齢者施設で介護スタッフなどを対象に検査を求め、クラスターを未然に防いだケースもありました。しかし対象となった約3万施設のうち、参加した施設は半数程度にとどまっています。人手不足の中で職員が陽性となれば、濃厚接触者の同僚も休みを取らねばならず、シフトが組めなくなるという声も耳にします。介護現場が検査を受けやすいよう環境づくりに知恵を絞るべきではないでしょうか。

そして3つ目。医療体制の確保には2月の改正感染症法で、病院に対する都道府県の協力要請に法的な位置づけがされました。正当な理由なく応じなければ病院名を公表することができます。奈良県は先週、全国で初めて県内の全病院に要請を行い、3つの病院が新たに診療に加わることになりました。医療機関との協力関係に法律を持ち出すことに慎重な自治体が多いのはわかりますが、病床の確保は、ほかの医療とのバランスもあって時間がかかります。病床がひっ迫する前に、準備をしていく必要があります。

国内の2大都市圏が変異ウイルスに置き換わる局面で出される、3度目の緊急事態宣言。接触の機会を減らして感染の波を引き下げなければいけないのはもちろんですが、行政にも出口につながる対策を着実に実行してほしいと思います。

(米原 達生 解説委員)

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