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「日米首脳会談 対中国で同盟強化へ」(時論公論14時50分)

梶原 崇幹  解説委員

菅総理大臣は、日本時間の17日(現地時間16日)、バイデン大統領との初めての日米首脳会談に臨み、中国に対抗するため、日米同盟を強化していくことで一致しました。しかし、中国は、合意内容をめぐって強く反発しています。会談の焦点は何だったのか、米中対立の中で、これからの日本の外交防衛戦略をどうえがくべきか、考えてみたいと思います。

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【「大国間競争」の中での日米首脳会談】

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中国との関係を21世紀最大の試練と位置付けるバイデン大統領は、中国との関係について、「民主主義と専制主義との闘い」と述べ、体制間の争いであると定義づけました。
今回の日米首脳会談は、アメリカにとって、最前線に位置する日本の重要性が増す中、
中国との新たな「大国間競争」に、日米が連携して、勝ち抜こうとするアメリカの狙いの中で開かれました。
会談後、バイデン大統領は「自由で開かれたインド太平洋を守るため、中国からの挑戦にともに取り組むことを約束した」と述べました。また、菅総理大臣も、「日米は、普遍的価値を共有する同盟国だ」と述べるなど、責任を分担して、中国に対抗していく姿勢を示しました。

【共同声明の主な内容】

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会談でまとまった共同声明の主なポイントは、▼安全保障では日米同盟の強化が打ち出されたほか、▼経済安全保障では、半導体などの供給網の構築や、先端技術開発で協力を深化することで合意しました。▼北朝鮮による拉致問題では、アメリカのコミットメントが再確認されたほか、▼気候変動対策では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするため、2030年までに確固たる行動をとること、▼人権問題では、香港や新疆ウイグル自治区の人権状況に深刻な懸念を共有するとしています。

【安全保障】

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焦点となった安全保障について、詳しく見ていこうと思います。安全保障でテーマとなったのは、▼中国による現状変更の試みへの対応、▼崩れる軍事バランスへの対応、そして、▼台湾情勢です。

〈(現状変更の試みへの対応〉

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中国の海洋進出の動きがエスカレートしています。共同声明では、東シナ海や南シナ海での、中国の力による現状変更の試みに反対を表明し、「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した」として、中国を名指しして、批判しています。そして、尖閣諸島が、日米安保条約第5条の適用対象であることを再確認するなど、先の日米の外務・防衛の閣僚協議を踏まえた強い内容となっています。

〈崩れる軍事バランスへの対応〉

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会談では、太平洋地域の安全保障環境についても、話し合われました。
先月(3月)、アメリカ軍幹部が、議会で証言し、「地域の軍事バランスはアメリカと同盟国にとって不利に傾いている」と述べ、波紋を広げました。
アメリカ軍によりますと、4年後の2025年の段階で、アメリカのインド太平洋軍の戦力は、主力戦闘機や戦闘艦艇の数で、中国軍に大きく劣るとしています。
また、在日アメリカ軍を射程に収めるミサイルを中国は大量に保有していますが、アメリカは、これまでロシアとのINF条約によって、中距離の地上発射型のミサイルは、1発も保有していません。

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地域の軍事バランスの崩れは、中国の拡張主義的な動きを誘発すると指摘されていることから、共同声明では、「困難を増す安全保障環境に即して、抑止力および対処力を強化する」とし、「日本は、みずからの防衛力を強化すること」が盛り込まれました。
日本は、具体的な行動が問われることになり、防衛費の増額や、与党内で慎重意見があり、先送りとなっているミサイル阻止力の検討を求められる可能性があります。
さらに、アメリカは、中国とのミサイル戦力の格差を埋めるため、第一列島線に沿って、地上発射型のミサイルを念頭に、精密攻撃のネットワークの構築を目指していて、ミサイルの配備先として、日本やフィリピンなどがあがっています。今後、日本政府は、どのような役割を果たそうとするのか、明確にしていく必要があります。

〈台湾情勢への対応〉
安全保障分野で、もっとも関心を集めたのは、台湾情勢をめぐる議論でした。

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共同声明では、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」としたうえで、「両岸問題の平和的解決を促す」という文言が加えられました。これまでも閣僚級の文書には、「対話を通じた平和的解決を促す」という表現はありましたが、政府関係者によりますと、今回、あえて「対話を通じた」という文言を除き、平和的解決を強調することで、威圧を含め、武力を使うことは一切認めないという日米の強い意思を示しているということです。
さらに、中国の動きはけん制するものの、緊張が高まるのは望ましくないという日本側の立場も、「平和的解決」の強調につながったものとみられます。
首脳レベルの文書に台湾情勢が触れられるのは半世紀ぶりです。

なぜ、台湾情勢が会談で取り上げられたのでしょうか。
それは、軍事バランスが崩れる中で、台湾が米中の衝突の発火点になる恐れが指摘され、そうなれば日本への影響も避けられないからです。

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日米双方とも、中国が台湾に軍事侵攻する、いわゆる台湾有事は望ましくないという認識で一致していますが、アメリカ軍の幹部は、先月(3月)、アメリカ議会で、台湾有事の時期は「想定よりずっと近い」と証言し、懸念を示しています。

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アメリカは、台湾関係法で、平和的な方法によらない解決に反対する姿勢を明確にしていますが、防衛義務までは負っていません。しかし、アメリカ軍の幹部は、議会で、「台湾侵攻を許せば、地域でのアメリカの信頼に深刻なダメージになる」と述べました。複数の日本政府関係者は、有事になれば、アメリカは介入するという見方を示しています。
一方、中国の習主席は、2019年の演説で、平和統一を目指すのが基本としながら、「武力行使を放棄することはしない」と述べました。
米中両国が一歩も引かない中、去年以降、中国軍は、台湾周辺で有事を想定した大規模な軍事演習を頻繁に行い、緊張した状態が続いています。

そしてなにより、台湾有事は、日本への影響が懸念されています。仮にアメリカが介入すれば、在日アメリカ軍基地を使おうとするとみられています。
2017年にアメリカのシンクタンクが公表した、中国のミサイル戦力に関するリポートによりますと、中国軍は、横須賀基地など、在日アメリカ軍基地を模した実物大の標的を、西部の砂漠地帯に作り、ミサイルの発射実験を行ったということです。

事態の緊迫化を受けて、日本国内では、共同声明に、台湾海峡の平和と安定が盛り込まれたことに、「評価をすべき成果だ」という声が出ています。

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日本政府は、憲法や安全保障関連法、これまでの政策をもとに、できることとできないことを整理しておく必要があります。
一方、中国政府は「中国の内政に干渉するもので、断固反対する」と強く反発しています。中国共産党系のメディア、「環球時報」の英字版は、会談を受けて、社説で「日本が台湾問題に手を出せば自らに火の粉が降りかかる」としています。
こうした反応からは、今回の会談結果が、中国を刺激していることが読み取れ、日本政府は、緊張を高める意図がないことを中国側に伝えるなど、一層の外交上の努力が求められます。

(まとめ)
日本は、今回、安全保障で、アメリカと歩調を合わせ中国に対抗していく立場を示し、旗幟を鮮明にしました。
軍事バランスが崩れる中、中国の拡張主義的な動きを放置すれば、地域の安定が損なわれると判断したからです。
しかし、日本の防衛力の強化や、台湾海峡をめぐる認識について、国内で議論が深まっている状況とは言えません。さらに、抑止力の強化が、米中対立をさらに先鋭化するおそれもあります。
会談の結果をどう地域の安定につなげていくのか。国民的な議論と、中国への外交上の働きかけが、一層求められていると思います。

(梶原 崇幹 解説委員)

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